第7話 深夜の自動販売機 ~最後の0.5秒と、誰にも言えない小さな勝利~
深夜0時17分。
バイト終わりのいつもの帰り道。街灯がぼんやり照らす古い自動販売機の前で、Kは立ち止まる。
今日は喉が渇いていた。500円玉を指でつまみながら、Kは無意識に能力を起動させる。
- 自販機の在庫を触れずに瞬時に把握(能力No.22)
→ ブラック無糖あと4本、微糖あと2本、スポーツドリンク残り1本
- 投入口のコイン経路、詰まり確率73.2%(能力No.41)
- ボタン押下角度最適値は12.7度……0.1度ズレたら微妙に遅延発生(能力No.63)
- 出てくる缶の落下軌道を±2cmで予測(能力No.29の応用)
- 缶の表面温度を±0.5℃で事前推定(能力No.6の派生)
Kは財布から10円玉をもう一枚取り出し、500円玉の後にそっと投入する。
カチャン、カチャン。いつもより少しだけ軽い音がした。
ガコンッ。
缶が落ちてくるまでの時間は、Kの感覚ではいつもより0.5秒短かった。
缶を手に取ると、表面の冷たさが指にじんわり伝わる。プシュッと開けた瞬間、炭酸の音が夜の静けさに小さく響いた。
Kは一口飲んで、目を細める。
「……完璧。最適温度到達時間を0.5秒短縮。今日も俺は人類の喉の渇きを、 地味に0.5秒早く癒した……」
自動販売機のライトがチカチカと点滅し続ける中、Kは缶を握りしめてゆっくり歩き出す。
背後で機械は誰にも気づかれず、静かに次の客を待つ。
誰も見ていない。
誰も褒めない。
それでいい。
それが能力者Kの、今日の最後の小さな勝利だった。
―続く―




