第4話 家の中(一人暮らしの夜) ~暗闇の0.3秒短縮~
夜11時23分。
藤倉市の都市部から少し外れたところにある、古いアパート3階、2Kの角部屋。
Kはバイト帰りで疲れた体を引きずりながら、玄関のドアに鍵を差し込む。
ここからがKにとって毎日の小さなクライマックス。
電気をつけずに部屋に入り、ベッドまで到達するまでの約30秒間。鍵穴に鍵を入れる瞬間、能力が自動起動。
- 鍵穴に溜まった埃の粒数を±2粒で感知(能力No.88)
→ 今日は3粒。昨日より1粒増加。掃除のタイミングを脳内メモ
- ドアノブの金属疲労度を0.0001%単位で評価(能力No.103)
→ まだ寿命まで82.7%。あと3年は持つ見込み
- 靴下の左右を暗闇で瞬時に判別(能力No.9)
→ 右足用が左側に逆に入っていたので自動補正
- 床までの最適ルートを0.3秒短縮(能力No.115)
→ 玄関から冷蔵庫を経由せず直線でベッドへ。
従来ルートより0.3秒短縮成功
- 冷蔵庫の卵の残数をドアを開けずに把握(能力No.3)
→ あと3個。明日は買わなくていい
電気をつけずに靴を脱ぎ、靴下を揃えて脱ぎ捨てる。
靴はいつも同じ位置に揃えて置く(能力No.9の応用)。
そのまま暗闇を歩き、ベッドの端に尻餅をつく。
Kはベッドに倒れ込み、暗闇の中で独り言を呟く。
「……ふぅ。今日も無事に帰宅。人類の小さな小さな不便を、今日も地味に救った……」
枕に顔を埋めながら、今日の総括を心の中で行う。
- コンビニ:お釣り整列成功
- 信号待ち:転倒防止成功
- スーパー:袋詰め最適化成功
- 電車:靴紐警告成功
- 街中:紙幣落下防止成功
全部地味に、誰にも気づかれずに成功。
Kは天井を見上げて小さく笑う。
「俺の能力……誰にもバレてない。これでいい。……でも、もし誰かが『地味だけど、実はすごく助かってる』って言ってくれたら……ちょっと嬉しいかもな」
すぐに自分で否定する。
「いやいや…そんな派手な展開は俺には似合わない。地味でいい。地味が一番
」
そしてKは静かに目を閉じる。
暗闇の中で、今日も小さな満足感が胸に広がる。
明日の朝も、また地味に始まる日常が待っている。
―続く―




