第3話 スーパーでの買い物 ~カゴとレジ袋の地味な芸術~
夕方5時48分。
いつもの地元スーパー藤倉店。
土曜日のこの時間は、ちょうど主婦層と学生が混ざる混雑のピーク。Kはカゴを片手に野菜売り場をゆっくり回っている。
今日は夕飯の材料を最小限で揃える日。
牛乳パック1本、納豆2パック、木綿豆腐1丁、冷凍餃子1袋、卵6個パック。
これだけ買えば、明日の朝まで何とかなる計算だ。
カゴに商品を入れるたび、Kの能力は無意識に発動する。
まず、カゴ内の商品総重量を±30gで即座に推定(能力No.51)。
「牛乳980g、納豆×2で220g、豆腐300g、餃子450g、卵360g……合計2310g。エコバッグの耐荷重は3kgだから、まだ余裕0.69kg」
次にレジ袋の残り容量をリットル単位で視覚化(能力No.109)。
今日のレジ袋は厚さ0.02mmの標準タイプで、容量約15L。
最適配置を考えながら、商品の形を脳内で3D回転させる(能力No.99)。
さらに値札のフォントサイズを0.1mm単位で把握(能力No.112)。
納豆の値札が少しずれていることに気づくが、修正する権限はないのでスルー。
レジに並ぶ。
前には主婦2人、後ろにサラリーマン1人。
Kの順番が来て店員のお姉さん(20代後半、名札に「山田」とある)が笑顔で商品をスキャンし始める。
Kは小さく声を出す。
「……あの、もしよかったら……重いものは下に、牛乳は横に倒さない方が……豆腐は一番上に、納豆は横に並べて」
山田さん「あ、はい! ありがとうございます~。お客様、いつも細かいところまで気遣ってくださるんですね」
K「……いえ、別に……たまたま思いついただけです」
山田さんは手際よく袋詰めを始める。
Kの提案通り重い牛乳を底に、豆腐を一番上に、納豆と卵を横に並べ、冷凍餃子を隙間にぴったり収める。
結果、袋は驚くほど美しくバランスよく詰まった。
持ち手部分にほとんど負荷がかからず、底が抜ける心配もゼロ。
山田さん「……わ、今日なんかすごい綺麗に詰まった!いつもより持ちやすそうですよ~」
Kは俯き加減で袋を受け取りながら、
「……はぁ、たまたまです」
山田さん「いやいや、ほんと助かりました!お客様みたいな人がいると、袋詰めも楽しくなるんですよね」
Kは会計を済ませて店を出る。外はもう薄暗くなっていた。
エコバッグを肩にかけながら、Kは小さく息を吐く。
(心の声:袋破損リスク0.02%……持ち運び時の疲労度-18.4%……今日も地味に、1人の主婦の腕の負担を軽くした……でも「楽しくなる」はちょっと大げさかな……)
スーパーの自動ドアが静かに閉まる音を背に、Kは夜の街へ歩き出す。
袋の中身は今日も完璧に安定していた。
―続く―




