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地味な能力者Kの日常 ~地味すぎて誰も気づかない英雄談~  作者: 空野 翔


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3/9

第2話 信号待ち ~靴紐と横断歩道の静かな救済~

土曜日の午後3時12分。

藤倉市の繁華街にある大きな交差点。信号は赤で残り時間は38秒。

周囲にはサラリーマン、買い物帰りの主婦、学生グループが10人ほど並んでいる。

空はどんよりと曇っていて、時折ぽつぽつと雨粒が落ち始めていた。

Kはいつものようにイヤホンもせず、ただ静かに立っている。

傘は持っているがまだ差していない。視線は信号機の数字に固定されているが、実際は周囲のすべてをスキャンしている。


突然、後ろから若い女性の「あっ!」という小さな声。Kは振り返らずに能力を起動させる。


- 信号残り時間を0.4秒早く正確に認識(能力No.31)

- 女性の右足靴紐の緩み具合を角度12.3度、緩み率73%と即座に算出(能力No.67)

- 横断歩道の3段目の左側部分、雨による濡れ具合7.8→転倒危険レベル検知(能力No.45)

- 手すりの表面温度を±0.03℃で感知(必要ないが自動発動、能力No.92)

- 周囲の風向きを±4度で把握し、雨粒の落下軌道を予測(能力No.38)


Kは小さく、しかしはっきりした声で言う。

「……あの、すみません。3段目の左側、ちょっと滑りますよ。あと、靴紐……緩んでます」

女性(20代前半、大学生風)は慌てて足元を見る。

「あ、ほんとだ! ありがとうございます!」

彼女は急いで靴紐を結び直す。周りの数人がチラッとこちらを見るが、すぐにスマホに視線を戻す。誰も大げさに騒がない。それがKにとっては理想の反応だった。


女性が靴ひもを結び終わって立ち上がり、

「本当に助かりました……!気づかなかったら転んでました。雨の日はいつも靴紐が緩むんですよね……」

Kは俯き加減で、いつものように返す。

「……いえ、別に……たまたま目に入っただけなんで」

女性は小さくお辞儀をして、友達の待つほうへ歩き出す。

友達の一人が小声で言うのが聞こえた。

友達A「なんか……地味に親切なお兄さんだったね」

友達B「うん。でも言わないでいてくれたらもっとカッコよかったかも(笑)」

Kはそれを聞きながら、信号が青に変わるのを待つ。

(心の声:転倒リスク87%→9%に低下……靴紐再緩み予測時間+12分…… 地味に人類の骨を守った…… でも「カッコいい」は求めていない。地味でいい)


信号が青になる。

Kは傘を差し、誰にも気づかれず静かに横断歩道を渡る。

雨音が少しだけ優しく聞こえた気がした。


―続く―


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