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土下座問題(3)

「まず、事実から話そうか。そうだな、私がディリックと喧嘩したこと、怒って爵位を剥奪しろと言ったこと、その二つぐらいだな。

 喧嘩の内容はべつにヴァインの土下座云々では無い。その話で会いに行ったことは本当だがね」


 にこやかに語るテイルさん。

 彼は本当にウチの父とウマが合わないのだろう。

 まあ父は人のひんしゅくを買う天才なので、怒りはわかる。母もよく、彼の一挙手一投足に対して怒りを露わにしたものである。

 すぐに仲直りするところも含めてあの夫婦には相当疲れさせられたものだ。


「おっと、君達を呼び出したのも本当か。理由としては土下座のことを言及するつもりで呼んだわけじゃない。

 ただ、ラース君。君の父親が今、私への暴行を働いたことで問題になっていることは理解しているな?」


 はい、と答える俺は背を正す。

 ここからが本題、というわけだ。エルゥも何かあれば反論してやるぞ! と身構えており、一層緊張が増す。


「世間一般では彼が騎士団長として相応しいかどうかなんて議論が交わされているし、このままでは丸くは収まらない。

 とはいえ個人的な喧嘩だし、大事にするつもりはないが……ディリックへの怒りは一応、まだあるわけだ」


 そこで、と切り返す。


「奴を許すための対価というわけではないが、一つ頼まれごとをしていただきたい」


 結局そこに行き着くのか、と思いつつも……話を聞かないことにはどうにもならない。


「頼まれごととは?」


「なに、簡単なことだ。ヴァインに冒険者を辞めさせてほしいのだよ」


 手を組みつつ言うステクルさんの意外な“頼み事”に、俺は唖然とする。

 まあ、元々彼はヴァインが冒険者になることは反対気味だった。

 昔も今も変わらぬ理由は家業を継がせたいから、だとは思うが。


「……とまでは言わないが、何か声をかけてやってほしい。あの精神状態じゃダンジョンで死ぬのがオチだからな。親としてはその結末だけは見たくないし、元気にやってくれるなら冒険者の道を歩むことも否定はしないよ」


 テイルさんの提案に俺は戸惑う。

 話しかけること自体は彼が言う通り簡単なことだ。

 しかし、


「今、俺が声をかけても逆効果のような気がします」


「そうだろうな。だが、君には素晴らしい仲間が居るだろう。グランダーソン家の息女は口が巧く、頭が回るという。

 〈サージェスト〉で数々の冒険者をいなしてきた実績は王都にも届いている。是非外交に欲しいぐらいだと思ったほどだ」


 テイルさんはあまりにも分かりやすいおべっかでエルゥを誉め立てる。届いていたのは悪評だと思うが、ものはいいようである。

 しかし、流石のエルゥもこんな見えすいた褒め言葉では……。


「任せてください。この〈話の魔術師〉エルゥ・グランダーソン。上手くまとめてみせます」


 乗った。乗ったぞ、このつるぺた。


「ありがとう、それでは頼むよ」


 にこやかに言うテイルさん。快諾してしまった以上後には退けず、俺達は一礼して部屋を出た。

 外で待っていた案内役の二人はもう居らず、来た道をそのまま引き返す。


「よろしかったのですか? 少し迷いもあったように見えましたが」


 道中、シトラが俺に確認を取る。

 上手く乗せられたような展開だ。腑に落ちないところもあるのだろう。


「父さんのこともあるし、あの状況はああ言う他無いんじゃないか」


「その通り」


 即座に同調したエルゥにはイラッとしたが、事実父を盾に取られているのだ。

 それに、ヴァインには負い目もある。全てをぶち壊したのは紛れもなく、俺の〈バーサーク〉だ。

 氷竜相手に〈バーサーク〉を出し惜しみして全滅したら、それはそれであの世まで禍根を残す羽目になったろうが、それはさておきだ。

 彼のために何かできるのであればしたい気持ちはあるし、引導を渡すべきなのであればそうするべきなのだろう。


「や、どうだった?」


 王城の外に出ると、律儀に外で待っていたレナが小首を傾げた。

 テイルさんが語った真実と噂。そして俺がヴァインに会うように取引を持ちかけられたことを説明すると、レナはどこかホッとしたような顔をした。


「大したいざこざではなかったんだね。でも、ヴァイン・ステクルに関してはどう対応するかって手立てはあるのかい?」


「話してみないと精神状態がどの程度悪いかってのが分からない。まだ冒険者としてやっていけるラインなら適度に煽ってやればやる気を出すでしょ。

 もうダメなら叩き潰すだけ」


 何故か答えたのはエルゥだが、同じ意見なので同乗して頷く。


「私達がSSランクを目指す道程で、障害になったから蹴散らした。それで勝手に折れただなんだと言われても、お門違い。

 この競争社会で振り落とされて脱落するのは、上に征く資格が無かっただけの事。

 私達は優しいから救いの手ぐらいは差し伸べてあげるけど」


 ね? と言って同意を求めるように見上げてくるエルゥ。

 暗に気に病むな、と慰められているような気もするが、いつものビッグマウスのような気もする。

 俺はエルゥの頭を撫でると。


「肝心のヴァインの場所は聞き忘れたが、今の時間帯冒険者が行くところといえばダンジョンだろう。ただ夕方や夜にギルドで張り込んだ方が簡単に会えるだろうし、ひとまず俺の家に向かおう。みんなお腹も減っただろう」


 ぺこぺこ、とお腹をさするエルゥに、珍しく空気を読んで息を潜めていたミリカも「空腹で動けません!」と声を上げた。

 他のみんなも異論は無いようで、目指すはゼーノルト邸。

 場所を聞くことを忘れていたというのも本音だが、心の準備ができていないというのが一番の理由だ。

 ヴァインの今はどうであろうと、大事な幼馴染なのだから。

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