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新たなる問題

「ん〜〜〜!!!」


 エルゥは久々に人間の住む地に降り立ち、背伸びをする。

 出たのは開放感あふれる砂浜。〈ボイストン〉が視界に入る、海辺の岩陰だ。

 ずっとアウェイの地だったので自由な彼女には少し肩身が狭かったかもしれない。

 まぁ、それでも全然フリーダムに行動していたとは思うが。


「やっぱり〈ボイストン〉近辺に出たね。ここから馬車で行くにも時間がかかるし、ボクが先に王都に行って様子を見てこようか?」


「?? アンタは馬車より速いのか?」


 〈雷姫〉モードによる加速を知らないカヤが首を傾げる。

 レナはふっ、と笑みを浮かべると雷光を迸らせる。

 近くにいた俺が電気に当てられ熱い、とリアクションを取る間にレナは既に視線の彼方に居た。


「ほー、バケモン揃いのパーティーだな。だがアタシも移動することに関しちゃ、秀でたもんを持ってんだ」


 そう言ったカヤの足元でドガンッ!!という爆発音のような音が鳴る。

 レナほどの速度では無かったが、ギリギリ目で追える程度の速度を有しており、あっという間にレナの元に到着する。

 二人は何かわかり合うものがあったのか、握手をしている。


「──では、レナとカヤには先に王都へ向かってもらう。私達はゆっくり腰を据えて向かうということで」


「出来るだけ早く追いつきますわ」


 急ぐ気の見られないエルゥの指令をやや食い気味で訂正するように、シトラが被せる。

 むっ、とはしたものの流石に批判を喰らいそうな方針だとは思ったのかエルゥは「そういうことで」と調子を合わせた。

 レナとカヤの二人が消え、俺達は王都方面へ出る馬車を探すべく〈ボイストン〉へとつま先を向ける。

 するとエルゥが何を思ったのか、大きな溜息を吐き出す。


「ラースも同じぐらいの速度で走れるんじゃないの。一回私を背負って走ってみてよ」


 無理だった。



───



 日が沈み始めた頃、平原を走るボクとカヤはようやく王都の街並みを視界に捉えていた。

 一度小休憩を挟み、ここまで辿り着いた。

 我ながら脅威の速度だ。転移魔法には劣るが、この世界では屈指の移動速度だろう。

 その気になれば一日で隣の帝国まで殴り込みにいけるぐらいだと自負している。


「ふぅ……流石に疲れるな。アンタはそうでもなさそうだが」


 もう急ぐ必要はないと〈雷姫〉を解き、歩くボク。それに合わせるようにカヤが並び立つが、彼女の方は相当疲労が溜まっているらしい。

 ふと振り返ると、カヤが移動した後は黒ずんでいる。

 彼女が地を蹴るたびに強い魔力の爆発のようなものを感知しているので、おそらくボクと同じように魔法による補助があっての移動なのだろうということは推測できるが……負担が大きいのか足を気にするような歩き方をしている。


「や、ボクも疲れているよ。でも訓練の日々のおかげであまり顔に出なくってね」


 なるほど、と口にしたカヤの表情は少し思うところがある、というものだった。

 ギルフィ家の再興、ラースを守るため、なんて考えてひたすら研鑽に費やした日々のせいで残念なことに表情筋が硬くなってしまった。

 そもそも、親を手にかけた時からそれほど感情が動かない。クールだなんて言われるけど、欠落しているだけである。


 ラースのことになればべつなのだけど、なんて。


「や、王都は平和かい?」


「き……騎士団長ッ!」


「もう団長ではないよ」


 王都の入り口に着くと、若い門兵に畏まった敬礼を受けて肩をすくめる。


「お、おいレナちゃん! それどころじゃないぞ!」


 一人慌てるのは同じく王都の正門を守護している“鬼斬”の二つ名を持つベイル・フィスタードだった。

 もう六〇すぎのお爺ちゃんではあるが、未だに騎士団の中でも上位の実力。若いのが情けなくて引退できんわい! といつも口にしている。


「またSランク相当のダンジョンが出たらしいね。呪われてるのかってぐらいの出現率」


「そ……それもそうだが、そっちは〈勇者〉の面々が対応しているし、迷宮型のダンジョンらしく魔物が外に出てくることも滅多にないからそれほどの脅威はない!

 それよりディリックの奴だ! アイツ騎士団長に就任してから早々に……そうだ、ラースはおらんのか! アイツも原因なんじゃからのう!」


 ベイルの慌て様からおそらくボクの代わりに騎士団長に就任したディリック・ゼーノルトが問題を起こしたのだろうと予測がつき、頭が痛くなる。

 それと同時に、混乱する。ラースが関係していることといえば、何だろうか。


「ボク達のパーティーリーダーが〈勇者〉の面々に会いたいらしくてね、足止めするため二人で先乗りしでいる状況。

 ラース達は数日後に着くと思うけど……何かあったのかい?」


「何かあったも何も……ディリックの馬鹿がステクルのとこの当主をぶん殴りおって、それが問題になってるんじゃよ」


 ステクルといえばラースが以前属していたパーティーのリーダーであるヴァインの家名だ。

 何か揉め事があってラースはパーティーを抜け、その後エルゥに拾われたと聞く。

 それからヴァインとは新人だらけのパーティーでAランクダンジョンを短期間で攻略することができるか、という賭けを行い──それに勝利したラース達はヴァインに公共の面前で土下座させたという。


 パーティーに籍を置いた今なら分かるが、おそらく賭けや土下座というのはエルゥの提案だろう。彼女ならやりかねない。

 そして見事賭けに勝利したワケだが、ラースとヴァインの確執はより深いものができたと。

 今回のディリック・ゼーノルトの凶行にラースが絡んでいるとすれば、息子達の確執から発展した揉め事という可能性が高くなる。


 まあ、元よりステクル家の当主であるテイル・ステクルとディリック・ゼーノルトの関係は好ましくない。

 ヴァイン・ステクルの剣技の家庭教師としてディリック・ゼーノルトは雇われた経緯もあるが、これはヴァインが“国で一番の剣士に教えてもらいたい”という要望であって、テイルとディリックの性格は合わなかった。


 ゼーノルト家は貴族ではあるが、これは戦による褒賞だ。

 由緒正しき血筋のステクルと、剣と血の上に積み上げた地位のゼーノルトでは家柄からして真逆の路線をゆく。

 しかも、ディリック・ゼーノルトは戦の功績もあって一騎士ながら英雄と呼ばれるほどの名誉を得ている。


 そこらの……妬みに似た感情があったのかもしれない。

 血筋があって財務省の大臣をやっているテイル・ステクルは、騎士でありながら自分の上に立つディリック・ゼーノルトを敵視していた。

 騎士団長として役人共にへーこら頭を下げる立場だったボクが言うのだから、間違いない。


「アンタ達はどうもトラブルが好きらしい」


「ウチのリーダー格二人がSSランク相当のトラブルメーカーなのさ。仕方ないだろう」


 呆れて吐き捨てるボクは、ベイルの顔を見る。


「明日中にラースを連れてくるよ。だけどとりあえず、中に入っていいかい?」


 ボクの問いにベイルは勿論、と門を開けてくれる。

 騎士団長の地位を捨てたボクにも責任はある。が、こういった時にノープランで動いてもあまりいい方向には転ばない。

 えてして、時間を稼ぐのが一番である。〈ボイストン〉からであれば丸一日で着くので明日にはラース達は到着するだろうが、ひとまず王都でゆっくり状況を把握してから引っ張り出したいところだ。

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