ミリカの新武器は
「そういや、カヤの武器は?」
準備が完了し、宿を出てパーティー全員が行く道中。
どう見ても丸腰の彼女に対し、俺が質問をぶつける。
カヤは私服を持っていないらしく、自室では下着のみ。
あとは仕事用の服を数着を持っているだけだが、黒一色の装束だ。
衣服は少しダボっとしているのでもしかすると中に仕込んでいるのかもしれないが、仲間になる以上手の内を知っておきたいわけだ。
「あぁ、アタシは短刀を懐に持ってるよ。後は徒手空拳と、火と闇の魔法に適性がある。個別に使うってよりは複合魔法メインで使ってる」
「むう」
複合魔法、という言葉に反応したのは勤勉なエルゥだった。
『二つの魔法適性を持つ者が、体内にある相性の良い属性の魔力回路二つを繋ぎ合わせ、魔法をかけ合わせた時に発動する魔法』
というのが複合魔法入門という本から引っ張ってきた複合魔法の説明だ。
相性がいい、と限定されているのは相乗効果が無いと魔法がきちんと発動しなかったり、別々に発動してしまうらしい。
例えばエルゥの火と風という魔法の属性は比較的相性がいいらしい。
これを上手くかけ合わせると熱風を吹き出す魔法を作れたりする。
それが失敗すると相殺する可能性だったり制御不能になったりすると。そこがデメリットでもある。
あと、単に相性の悪い属性を組み合わせることは難しいらしい。
結局のところ魔法を二つ足し算かけ算するわけなので、火と氷が両立する魔法を作ることが難しかったりする。
作ったところで火と氷のバランスの調整に相当神経を使いらしいし、魔力のコストも多少安くはなるらしいがそれに見合った利便さを持っているかと言われると頷き難い。
よって、実戦に投入される複合魔法は比較的組み合わせやすい属性の魔法を二つかけ合わせた、なおかつシンプルな構造の物というのが定番だ。
一つも魔法を使えない俺からすれば鼻をほじって聞き流す話だが。
「ちょっと待ってくださいよ。火の魔法って、私と被ってるじゃないですか! しかも複合使いって、そんな上位互換みたいなこともできるだなんて!」
黙っていればいいものを、自分の劣っている点をベラベラと並べるミリカ。
「じゃあ要らないじゃん」
「待ってくださいよぅ!」
ミリカはあっさりと切り捨てようとしたエルゥの足に向かって滑り込み、華奢な脚に頬を擦り付ける。
皆、気付いてはいただろうが自分で言わなければわざわざ突っ込まなかったというのに……何故墓穴を掘るのか。
「ま、私だっておニューの武器を手に入れれば強化されますよ!」
今からが楽しみだ! と声を
そんなミリカにま、私だっておニューの武器を手に入れれば強化されますよ!」
今からが楽しみだ! と声を弾ませるミリカ。
そんな彼女にレナが腕を組みつつ、渋い表情で。
「でも、キミにはシトラから貰った剣があるんじゃないのかい?」
浮かれた足取りも一言で止まり、ぎくっ、と体を硬直させる。
ミリカが腰に差す細剣はどうやらシトラからの贈り物らしい。
「そそそ、それはそうですが私だって新しい武器は欲しいですよっ! 年々筋力だって付いてきましたし、多少ゴツい剣に憧れたっていいでしょうがぁ!」
最早鉄板の逆ギレ芸。その矛先は何故か俺で、唾を飛ばさん勢いで訴えかけてくる。
反論しなさそうな俺を選んだのだろうが、横からエルゥがいつも通り無愛想にぽつりと。
「騎士様の忠誠心も大したもんじゃないね。主人から貰った剣を大事に出来ないんだもの」
「べ、別に大事にしてないわけではないでしょうが!」
「でも、大きな剣に憧れてるって自分で言ってるじゃん。本心は別のところにあるんでしょ」
エルゥに論破され、ぐぬぬと歯を食いしばるミリカ。
いつもの光景だが、べつに使うことが大事にすることに直結するかどうかは怪しいところである。俺みたいにサブの武器を持っている冒険者は少なくないものだ。
身の丈に合わない剣を扱う難しさもあるし、一概に薦められはしないが。
「私は構いませんわよ。とりあえず現地に行って剣を持ち、振ってから考えてみてもいいのでは?」
シトラが寛容というか冷静な意見を出し、ミリカが「そうですよ!」と乗っかる。
その様にはイラッときたが、いう通りだ。ただ、実戦レベルに扱えないと今から鍛えるにしても遅いだろう。
ただでさえ一人、レベルが劣っているというのに……どうなるものか。
───
「ふうんっ! ふうんッッ! さ、どうですか!?」
ギガビス氏の工房にやってきて、彼女がお望みの長剣を振るう。
実戦に投入できるかどうか、ということの判断は剣技を嗜んでいる俺とレナ。
剣を振るぎこちなさやとろとろとした動き。剣を振り下ろす音だけでも落第を告げたいところだったが、将来性を視る眼に関しては俺よりレナだろう。
騎士の卵を育成する立場にあったのだ。判断を委ねよう、と視線をやると……彼女は腕を組んだまま指を二本立てた。
「勝利のビクトリーサインですね!」
「いや、二点」
「三点満点中ですか!?」
「千点満点中」
「伸び代はあるということですね!?」
「どこかの軍事施設で数十年ぐらい研鑽を積めばなんとか」
「そんなもん旅が終わってるでしょうがッッ!!」
細い可能性を探っていたミリカだが、レナの頑なに“使えない”という態度に折れ、その場に崩れ落ちる。
四つん這いになりながら地面をどんどんと叩く様は騎士とは思えぬほど非常に情けないものだった。
「そもそもミリカちゃんの持ってる剣だってウチで作ったもんだぜ。手入れを欠かさなきゃ十分今でも使えると思うが」
「それはそうですが……ぐむむ…………!」
ギガビスさんに諭されると、唸ったまま何も言わなくなってしまう。
「じゃ、代わりにアタシが何か貰ってもいいか?」
挙手したのはカヤだった。
そこに異論あり! と起き上がったミリカだったが、エルゥが「カヤでいいでしょ」と言いながら彼女を店の端に連れ去る。
そもそも、パーティーメンバーが増えるということは一人一人の負担が減るということ。
俺やレナ、エルゥとカヤも居るのでミリカがわざわざ前線に出る必要はないのだ。
だから最低限自衛の手段だけを確保し、後方で治癒やサポートに徹してくれればいい。
というかそれぐらいしか仕事が無いと思うので、大袈裟な剣を持たれたところで邪魔にしかならないのである。
「おめぇさんは……………………いや、何もない。どれでも選んでくれ」
ギガビス氏はカヤの顔に覚えでもあったのか、数秒見つめた後に首を振る。
王の子だと本能的に勘づいたかもしれないが、追求することはなかった。彼もこの国に長く住んでいるだろうし、深い事情に突っ込むつもりはないのだろう。
「よし、これにきめた!」
しばらくしてカヤが手に取ったのは刀のような造形をしたものだった。
終始ミリカは不満そうだったが、決まったものは決まったのでギガビス氏の店を後にする。
短くも長かったエルフの国とはおさらばだ。個人的にはまた来て、エルゥが食べたがっていた豪勢な料理を食べさせてやりたいが……。
シトラの気持ちの整理がつくまで難しいだろうな。




