帰還へ
宿屋の一室。部屋に六人も入ると狭いもので、少しでも幅を取らまいとエルゥは俺の膝の上を占拠していた。
「SSランクの冒険者に会ってみたい」
それがエルゥの次の望みだった。
ダンジョンを攻略した後は帰省し、そしてエルフの国へ。次は人探しと一切の資金繰りを気にしていない行動だが、資金源はある。
カヤだ。パーティーに入ることになって一度王城に帰った彼女は硬貨と衣類が入ったバッグを持参してきた。
あまり表立って行動しないようにと王に抑制されていた彼女は派手にお金を使うことはなく、貯蓄は十分。
パーティーとしての資金もまだあるということで、当面資金を気にする必要はないだろう。
カヤに対抗してミリカもお金を持ってきた。実家が裕福だということもあって彼女の貯蓄も十分だったらしい。
「しかし、SSランクのパーティーといえば今は二つあるけど、どちらも神出鬼没で有名だから難しいね。
勇敢なる者〈勇者〉と呼ばれる攻撃特化の三人パーティーに、普通のパーティー構成だがそれぞれが世界トップクラスの実力を持つ〈レジェンズ〉。
どちらかといえば五人で行動している〈レジェンズ〉の方が目撃情報は多いけど、最近は姿を消しているね。〈キングスクラウン〉島に行ったって噂もある」
エルゥの提案に難しげな顔をしたのはレナだった。
国を守護する騎士の情報網は国外まで張られている。そういったこともあって彼女は世界情勢にも詳しい。
何故か俺個人に対して専属の騎士をつけていた(らしい)黒歴史もあるが、さておき。
「〈勇者〉の奴等なら〈テルスタン〉の王都に居るらしいーな。なんでもSランク超のダンジョンが出たってことで大騒ぎ」
カヤの情報に、皆の懐疑的な視線が集まる。
「ん?」と首を傾げるところを見ると……事情は知らないらしい。
「Sランクダンジョンならクリアしてきた。この狂人が一人で」
「狂人言うな」
つんつん、と俺の頬を突きながら指すエルゥの柔らかい頬を更に突き返す。
それを聞いてカヤは目を丸くしてきょとん、とした表情をした。
「なんだ、例のSダンジョンを一人で攻略したバケモノってのはアンタのことだったのか。や、それからまた新たに出たらしいってことで噂になってるわけよ。
それを嗅ぎつけたのが〈勇者〉の面々。アイツらなら心配いらないってことで民は安心してるみたいだけどな」
カヤの話に一同ふむふむと納得する。
前のアンデッドひしめくSランクダンジョンの話が行き届いていないのかと思ったが、意外にも情報は早いらしい。
もしかするとエルフの国も他の国にスパイというか人員を放って情報を収集しているのかもしれない。
「しかし、SSランクの冒険者に会って何をするつもりなのですか? もしかして戦う、だなんて言いませんよね!」
心配そうに、というかあからさまに勘弁してくれといった態度を表に出すミリカの問いに、エルゥは「無論」と笑い。
「比べてみるよ、私達と。理を超えた者達との実力の差の如何をね。
〈勇者〉にはとんだ荒くれ者の戦士が居るって聞くし、ラースとの力比べが見たいな」
簡単に言ってみせるエルゥに苦い表情を返すと、「頼りにしてる」と背中を預けられる。物理的に。
〈勇者〉の戦士担当──ディオ・カッサム。この業界で前線を張っていると嫌でも耳にする名前だ。
例えば〈鉄壁要塞〉と呼ばれる俺ならどちらの方が壁として優秀か? なんて議論されるのを耳にしたことがある。
結果として、耐久があって力があって速度もあるディオの方が強いだろうといつも結論付く。
それは彼のギフト〈エナジー・バースト〉に理由があった。
気力という曖昧な概念を消費し、身体能力を突出させる万能オブ万能なものだ。
もとより身体能力の高い彼が耐久と力を持ったまま速度を進化させ、壁として荒らす。
敵によっては耐久を上げて耐えてもいいし、力を上げて一点集中の火力を叩き出してもいい。
つまり、彼の気分次第で一般的な前衛職をつとめるほぼ全ての人間の上位互換になる。俺も例に漏れないだろう。力では敵わないし、耐久も速度も大幅に劣るはずだ。
〈バーサーク〉を加味すればどうなるかは定かではないが。
「だけど、彼等は各地を転々としているし早く帰らないと間に合いそうにないね。今から急いでも会えるかどうかってとこ」
やや諦め気味に見えるレナの冷静な分析に、カヤがにやりと唇の端を釣り上げた。
「それだが、転移魔法石がある。親父のせめてもの詫びの気持ちだってよ」
鞄から取り出した二つの石を、シトラに向かって投げた。
転移魔法石は本当に限られた人物しか使えない国宝級のお宝だ。
転移魔法ギフト持ちの者が寝ずに数週間かけて魔力を込めるらしい。
二つの点と点を線で結ぶだけの作業だが、空間を飛び越える魔力に必要な量を一人で供給しなければならないために時間がかかるのだとか。
膨大な魔力を詰め込めることができるだけの〈魔核〉が二つ、それも似たような性質(文献によれば種族が同じだとかそういった限定があったはず)の物を集める手間もある。
だが、転移魔法のギフト持ちはワンセット作成するだけで一生暮らせる程度の富を得ることができるのだ。
この人材を取り合って国同士で争うことも昔はあったらしい。
「一つはこの国に帰ってくる為のモノ。もう一つが〈クロッタ大陸〉まで飛べるモノだ。港町〈ボイストン〉の近くの海岸に出るってよ。戦争においての手段の一つとして持ってたんじゃねえかな」
カヤの説明にふうん、と一同。
戦争に、というのはカヤの解釈だが基本的に人間嫌いの国王が人間の領地に設置する理由としては適切だろう。
ただ人間嫌い以上に女好きが勝っているのだし、案外お忍びで女漁りをしに行く為だったりして。
「なんにせよ、準備が出来たなら言ってくれ。使い方は一人が魔力を込めて、発動までに転移したい奴が触っていけばいい。アタシが使おうか?」
「…………ええ、お任せますわ」
怪訝な視線を向けたシトラだったが、小考のち二つの転移魔法石をカヤに返す。
仲間になったカヤだが、皆からの信頼度はまだ足りていない。
もし彼女が王のせめてもの仕返しに差し出した刺客であれば、転移魔法石によってとんでもないところに飛ばされる可能性だってある。
が、それでもシトラが信じたのは血の繋がりだろうか。それとも、彼女独自の洞察力によるもの?
なんにせよ、シトラが信じると決めたのであれば俺達も従うだけ。
エルゥも異論は無いらしく、沈黙を貫いている。
「んじゃっ、準備するか」
だっ、と俺の膝の上から飛び降りたエルゥがそそくさと支度を始める。
全員が動き出した中、俺はミリカに視線をやった。
仲間に入った以上、約束を果たさねばならない。彼女をギガビス氏の元に連れて行き、武器を譲ってもらおう。
「な、何故私を見るのです! さては体目当てですね!」
怒号を飛ばしてくるミリカに、ううむと唸りたくなる。
素直にカヤだけを仲間に入れておけばよかったかもしれない。そんな後悔を抱えつつ、俺も腰を上げた。




