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万事解決ということで

エルフの国編終わりです。予定では後2章で完結ですが、新作のストックをちまちま作ってるのでいずれ並行して出すと思います

 城を後にした俺達だったが、これからの目的はどうするかという議論になった。

 ああいった結末を迎えた以上城には泊まりづらい。エルゥはお城の豪勢な料理が食べたかった! と相変わらず面の皮が厚いことを言っていたが、シトラの気持ちを考えて俺が棄却した。


 それならひとまず宿に帰ってこれからの方針を決めよう、という話になったが俺は先に用事があるからと一人、出てきた。

 目的地までの道中、民衆から向けられる目は今までとは違うものがあった。


 やはり俺を親の仇とばかりに睨む者もいれば、友好的で話しかけてくる者も居た。決闘に感銘を受けたらしい。

 ただ、俺の戦いっぷりが良かったとかではなくリフィールの情け無さに目が覚めたのだと俺は思っている。


 実際決闘で大したことはしていないし、〈バーサーク〉が発動していたら評価はまた変わっていただろう。

 リフィールの情けない姿という対比があって、彼等も少し歩み寄ってくれた。

 しばらく汚名と孤独の中で戦い続けていた俺にとって悪い気分ではない。


「お邪魔します」


 そうして着いたのは、ガビス・ヴェレットの店だった。

 中に入ると親子が肩を並べて話していたが、声を発した俺に気がついたようで会話を中断した。


「よっ、見てたぜ」


 会釈で返してきたのが息子のガビス。片手を上げて挨拶をしたのは父の方、ギガビスだ。


「どうでしたか、俺の武器捌きは」


「オメェさんにしかできねえよ。あれは武器云々じゃなく、実力だ」


 ストレートな意見を言われ、ははと苦笑いを浮かべる。

 その通りだ。べつに剣を持ったところで結果は変わっていない。

 剣を刺すか、ブレードブーメランを刺すかの違いだ。そこから降参するよう話術に持ち込む流れは一切変わらないだろう。


「ま……武器が良くても使い手がヘボだったら意味は無いし、当たらなきゃ折角の切れ味も意味をなさねえ。結局武器なんて鍛冶屋が浪漫を求めるために作ってるだけなのさ」


 先の戦いのことを嘆いているのか、ギガビスさんは腕を組み、語る。


「ガビス、おめえには浪漫が足らねえんだよ。もっかい俺の下で修行しろ」


「……それは」


 父の提案にガビスさんは渋る様子を見せる。親子の間で何かあったから彼は実家を出て店を開業したのかもしれないと思うと、どこも同じなんだなとしみじみ感じる。


「その、なんだ。あん時は悪かったよ。俺も教え方が下手だった」


 言いづらそうに、どこか照れたように口にする。


「それに、もう年も年だしな。商売の方は一旦落ち着けようと思ってる。時間も余るし、どうせなら息子に俺の技術の全てを託してえ」


「父さん…………!」


 目頭を滲ませるガビスさん。わだかまりが全て解けたわけではないだろうが、彼等の距離が少し縮まったように見えた。

 まあ俺は大口を叩いておいて一切役に立てなかったことを恥じるべきなのだろうが、触れない方向でいこう。


「それより、例の約束の件だな。これから取りに行くか?」


 約束? と首を傾げる俺にギガビスさんは「おいおい」と頭を掻いた。


「決闘に勝ったら武器をやるって言っただろ。オメェさん達は装備は整ってるからミリカちゃんが挙手した形だったろ」


「あー」


 そんなこともあったな、と思い出した俺にギガビスさんは呆れて首を振った。

 そういえばミリカが挙手をして、そもそも着いてくるのかどうかといったところで議論になり、レナに修練の旅に連れて行かれた経緯があった。


「ちょっと、一度戻って確認してきます。アイツをパーティーに加入させるかどうかすらまだ決まってないので、その話し合いをしてきます」


「おうよ、俺の待ってるぜ」


 店を後にした俺は、昨晩までの手応えを手にしたといった顔のミリカを思い浮かべる。

 エルゥと戦ってその結果如何で最終決定をするという話になっていたが、あの様子であれば何とかなるのではないだろうか。

 個人的には目の敵にされる回数が多すぎて苦手ではあるのだが……戦力が増えることに越したことはない。


 何せあのレナが鍛えたのだし、モノにはなっているだろうからな。



───



「うーん」


 泊まっていた宿に戻ってきて、ラースを待つ間の時間にミリカの採用試験をしようという話になった。

 仕えるべき主人が決闘している間も一人、ぐっすりと宿で睡眠を取っていたミリカは気合満点。

 シトラの勝利報告を受けて「私も続きます!」という意気込みで臨んだ戦い。

 宿の前のストリートにて、素手の私といつもの細剣を持ったミリカ。


「レナ、本当に鍛えた?」


 私のワンパンで沈んだミリカを中腰で眺める私は、苦い表情のレナに尋ねた。


「う、うーん。ボクもちょっと記憶が曖昧でね……鍛えたような鍛えていないような…………」


 すっとぼけているのか、あまりにショッキングな光景だった故に記憶に支障をきたしているのか。

 それは分からないが、散々息巻いていたわりにはこの様である。

 最早この笑撃のオチを作り出す前振りだったのではないだろうかとさえ思うが、彼女なりに必死にはやってきたのだろう。


 だが、調子に乗ると気が緩むクセ。この危機管理能力の無さというのはダンジョンにおいて致命的だ。

 現に、剣を構えたミリカは隙だらけだった。ダンジョンではたとえ休憩中だろうと、眠りの中だろうと、頭の片隅に警戒を置いておかなければ……足を引っ張るだけだ。

 それだけ私を舐めていたという話ではあるのだろうけど。


「そんなのよりアタシの方が良いんじゃねーのか?」


 声のした方に視線をやる。

 腕を組んで戦いを眺めていたのはカヤとかいうこの国の暗殺部隊の首領だ。シトラの姉でもあるらしい。

 しかし、気配も魔力も感じさせなかった。彼女が優秀な戦士であることは肌で感じていたが、思ったより更に強いかもしれない。

 だが。


「ラースの腕を折ったことは忘れてない」


 むっ、と睨むとカヤは「おいおい」と笑った。


「仕事だよ仕事。アレはアイツも納得してのことだろ?」


 おどけるが、皆から向けられる視線は冷たい。

 レナはまだ品定めをするような目にも見えるが、特にシトラは敵対心がバリバリだ。血の繋がりだけあって何か思うところはあるのかもしれない。


 対して私は恨み節を言ったはものの、内心ラースの腕のことは怒っていなかった。

 彼女には割り切れる姿勢がある。これは冒険者にとっては大事な事だろうと評価していたところだ。

 でも、シトラと険悪となるとなあ、という懸念が私の判断を揺さぶっている。


 そんな中、ようやくミリカが立ち上がった。


「ど……どこの女かは知りませんが」


 膝が笑いながらも剣を支えになんとか、といった様子。


「パーティーの残り一枠は私の席でしょうがぁ!!」


 吠えるミリカ。その雄叫びには力が無く、残念ながら子犬の鳴き声程度にしか聞こえなかった。

 加減したとはいえ私の攻撃をくらって平然と去っていったシトラママの方が頑丈だ。

 根性は見上げたものだが、現実は残酷。あまりにも脆弱である。


「エルゥさん、見てくださいこの根性ォ! 私はきっと役に立ちますよ!」


「根性じゃ旅のお供はつとまんねーだろ。可愛くて強いお嬢ちゃん、アタシを仲間に入れないか? 外の世界が見てみたいんだ」


 二人に迫られ、私は腕を組みつつ「むむむ」と唸る。

 くそう、迷う。可愛くて強いお嬢ちゃんという単語で八割がたカヤに寄ったが……ぐむむ!


「道端で何やってんだ?」


 迷う私、迫る二人にタイミング良く、もう一人のパーティーリーダーのような存在であるラースが到着した。


「いま二人の採用試験してるの。どっちをパーティーに加入させるって話になって」


「ふうん。でもこっちの姉ちゃんはシトラと険悪だろ。なんて言ってんだ?」


 雰囲気で全て察してくれたのか、そんなラースは疑問を口にする。

 自然とシトラの方に視線は集まる。


「……私個人としてはカヤを入れるのは納得が行きませんが、ミリカの体たらくを見て考えが揺らいでいます。正直ここまで情けないとは思ってませんでしたから。

 それに、べつにカヤ自身は悪意や敵意があってパーティーに入れろと言っているわけでは無さそうですからね。

 外の世界を見てみたい、という気持ちは気持ちは分かりますし」


 渋々、といった表情だが大分カヤの方に寄った分析を下すシトラ。

 シトラの姉で暗殺部隊の首領という複雑な立場。おそらく人間の血が混ざっているであろうことから表には出られず、王位も継げない。


 そんな彼女にシンパシーを感じるところがあるのだろう。

 その見解を聞いてミリカは力尽きたようにがくり、と項垂れる。

 自分の落選を悟ったのかもしれない。南無。


「じゃあどっちも入れればいいんじゃないか?」


 話を聞いてラースが出したのは第三の候補だった。


「今すぐ“目的地”に行くってワケじゃないだろうし、ミリカを落とすかどうかは過程で決めればいい。よっぽどダメなら叩き出せばいいし、回復魔法持ちが居れば困ることはないだろ」


「ぶえええええええんんん! わっ、私は今!! 初めてあなたに感謝してますうううううう!!!」


 涙と鼻水を流して抱きついてくるミリカに苦笑いを浮かべつつ、ラースは私に視線を向ける。

 彼がいう目的地というのはSS級と認定される〈キングスクラウン〉のダンジョンである。

 そういえばこの数日の間でまだやり残していることがあると、彼には言っていた。それも覚えていたのだろう。

 さすが女の子を二人手に入れた男の気配りは違う、と茶化すと怒られそうなのでここは黙っておこう。


「相変わらずの器だな、大将。今度とも頼むよ」


 ラースとカヤと握手が交わされる。カヤは続いて私、レナ、そしてシトラにも友好の握手を交わした。

 個人的には私を侮ってかかってきたミリカに思うところがあるが、まあ良しとしておこう。

 万事解決ということで。

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