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私の見た未来

「お疲れ様です、ラースさん」


「あぁ」


 決闘を終えたラースさんが不機嫌そうな顔で通路に引き上げてきた。

 その理由は明確だろう。見ていたものなら誰でも分かる。

 この決闘に、大した意味はない。彼にとっては訓練以下の無駄な時間だったろう。


 といっても仕方ないのかもしれない。嘆かわしいことにエルフの国の今の戦士のレベルは、ここが限界。

 閉鎖的であまり外には出ないエルフの特性も妨げになっていたのかもしれない、と王女としては少し悲しくなってしまう。


「……よし!」


 次は私の番だとすぐに切り替え、一歩踏み出す。


「待て、シトラ」


 そんな私の肩を、ラースさんが掴んだ。


「力が入っているぞ」


 彼はエルゥにやるように、私の肩を軽く揉みほぐす。

 緊張がすこし緩くなった私は、突如ピンと来る。


「あの、もっとリラックスできるように…………その」


 が、言い淀む。背伸びをし、私よりやや高いラースさんの顔に近づくと、察してくれとばかりに目を瞑る。

 や、やるにしろやらないにしろ早く終わってほしい。

 自分で始めたことだが、すぐに後悔に苛まれる。

 僅か一、二秒の沈黙がいやに長く、背中に汗が伝い、緊張で心なしか身体も震えている。


「あぁ、存分に父親に力を見せつけてやれ」


 私の想いを汲み取ってくれたラースさんが、自分の唇を私のそれに重ねた。

 ……男性と接吻するのは初めての経験だった。

 女性の唇とは違ってとてつもなく柔らかいものではなかったが、彼らしい優しく包容力のあるキスに、私の鼓動は跳ね上がった。


「ええ、五分でカタをつけてきます」


 高揚そのままに、決闘の地へと踏み出す。

 父は既に姿を見せており、得物の槍を持ったまま腕を組み、堂々と立っていた。


「父の前で人間の男に盛るとは、アイツも教育が下手だ」


 対面し、開口一番嫌味を放つ父。一部始終を見られていたかと思うと、やや気恥ずかしさはある。

 アイツというのは母のことだろう。父からは武を教わったが、それ以外の教育は母が熱心だった。

 それを受けて私は一瞬押し黙った。私もヒステリックな母の教育に関しては物申したい点がある。なので庇うつもりはなかったが、棚にあげる父には腹が立った。


「見えないところでなら、盛ってもいいと? 人を嫌っている素振りを見せておいて、ご自身は戦に出て子供を作っているクセに、よくそんな立派な口が叩けますね」


「…………」


 眉をひそめて私を睨む父。否定はせずに槍の柄をトン、と地面に下ろした。

 私は先の戦争の後期に産まれた。エルフの国が劣勢になると後継を残そうという本能が生まれたのか、母と営みを交わす回数が増えたらしい。


 そんなことはさておき、私が産まれた頃にはカヤはこの国で暗殺者としての教育を受けていたらしい。

 つまり、私より姉ということになる。戦に出て人間を引っ掛けたのか襲ったのかは知らないが、おそらくその頃に作ったのだろうとカマをかけてみれば、図星のようなリアクションを見せた。


「何の話かは知らんが、例えそうであってもお前はワシを脅しはしないだろう」


 それも図星である。わざわざこの場に立って、決闘をする気満々の時点で筒抜けかもしれないが、私は彼を力でねじ伏せる気だ。

 いつもの弓、そしてこの身だけで……戦の最前線を戦い抜いてきた、偉大なる王を。


「その通りですわ。情報は飽くまで貴方が負けた際に探す抜け道を潰すための道具にすぎません。民衆の前で元婚約者共々あなた方を叩き潰すこと、そこに意味がありますから」


「負けた時にゴネるような男だと思われているのが心外だ」


 肩をすくめて笑う父だが、彼なら間違いなくやる。父が私の気質を理解しているように、私も父を理解している。

 残念ながら私と父は似ているからだ。女の子への手が早いところも、意地の貫き方も。


「…………フッ、お見通しらしいな」


 父は間を置いて、鼻で笑った。


「ただ、彼のことは認めている。聞けばカヤにすんなり腕を一本差し出したらしいではないか。それでいて平然とこの場に立ち、自分を貫いた。気概のある男だよ」


 意外にも父は通路で見守るラースさんに目をやり、滅多に吐かない褒め言葉を口にした。

 しかしキリッ、と表情を固くし私の方に向き直ると。


「それでも、譲れないものはある。“我々”王族には通すべき筋がある」


 槍を構える父。意固地で頑固なバカ親父に、私は血管が切れそうな程の怒りを抱えた。


「我々?」


 今回のリサーチで私の他に数人の子供がいることが分かった。私は王位など譲ることに抵抗はない。

 父が正妻に頭を下げて「すみません隠し子が居るのでそいつに王位を引き渡します」とでも言えば丸く収まるのだ。


 ……いや、丸くはならないだろうけど。


 それで、盲信的な一部の血筋信者共は騙せる。

 血筋に五月蝿いのは大抵、貴族階級の者たちだ。民にも浸透しているが、発言力があるのはやはりこの者達。

 隠し子にしろ新たに生むにしろ、純血であればいい、というのが彼等の考えだ。

 父が新たな後継を発表すればエルフの国のくだらない伝統は守られ、民は何事も無かったかのように日々を過ごしてゆくだろう。


 そもそも、エルフの寿命は長い。母だってまだ百五十歳程度で、子供だって産める。

 王族は後継ぎに女の子が産まれた場合、側室を取ったり二人目を作るケースが幾らでもある。

 母だって女の子を産んだ負い目はあった。だから熱心に教育に取り組んだ面もあったかもしれない。


 だが父が母とそれをしなかったのは、やはり気が合わないからだろう。

 気が合わないから、外で子供を作ったのだ。それが浮気性によるものだったのか、“予備”の感覚だったのかは知らないが。


「貴方が意固地で引き下がれないだけでしょう」


 唯一の武器である弓を構え、氷の初級魔法(アイスアロー)を引き絞る。


「でも、安心してくださいまし。私が退かせてあげますわ……五分で」

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