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バーサーク

「爪を剥がすってのは王道かも」


「良いアイデアだが装備を着けているかもしれないから脱がす手間もあるな。手足を折ってから行動に移るのが無難か」


 エルフの国滞在、三日目。

 シトラは相変わらず欲しい情報を集める、といって奔走している。

 レナとミリカは訓練中ということで、俺とエルゥは街にくり出した。

 俺は回りたい場所がないので必然的に彼女が求める場所に行くのだが、エルゥの趣味的にファッション関係か飲食関係かのどちらかになる。


 今は露店で買った菓子をベンチに腰掛けて頬張っている。

 これで隣に居るのがシトラやレナならデートなのだが、残念!

 相手はエルゥである。妹や娘の付き添いという気分にしかならない。


「ラース、次は図書館に行こう」


「ん、いいな」


 手元の菓子を食べ終えたエルゥが立ち上がると、そんな提案をした。

 今まで見せた彼女の趣味からは逸れているように思えたが、ギルドの受付嬢をしながら中級の魔法まで習得していたのだ。

 相応の勉学は積んだのだろう。王都にいた時もふらっと単独行動していたみたいだし、もしかすると図書館に行っていたのかもしれない。


 俺も本は好きで、訓練を抜けて向かった先は街外れの花畑か無料で入れる図書館ぐらいのものだった。

 魔法を覚えたかったのと、待ち合わせのギフトの可能性。

 そこらの知識を得るために幾度なく通ったものだ。


「おい、テメェが王女様が連れてきたっていう例の結婚相手か?」


 腰を上げた俺の目の前に三人の男が立ちはだかる。

 勝手ながらエルフは華奢なイメージがあったが、この国に来てから印象がガラリと変わった。

 筋骨隆々とした、冒険者で言えば戦士型のエルフ。それがずらりと並び、迫力を出している。


「退け、デカブツ。図体だけの小物は呼んでない」


「なにぃっ!?」


「テメェこのチビ、この方がどれだけ凄い戦士か……!」


 退けと口にするエルゥだが、挑発にしかなっておらず両端の男達が喚き出す。

 それを真ん中の男が手で制止した形だ。おそらくサイドの二人は取り巻きで、本命は真ん中の男なのだろう。

 心なしか気配も大きい。そこそこ“出来る”戦士だろう。


「誰かの差し金か?」


 俺が尋ねると、真ん中の男は顔をしかめる。

 初日にリフィールと対面した後から俺達の後をつけるような気配がいくつかあった。

 気配を薄くしてはいたが、完全な遮断ではないため俺の〈気配察知〉がちょろちょろと拾っていた。


 むしろ、小さくポツンと存在する気配はそこらの通行人より目立つ。

 今も複数個存在するが、何か仕掛けてくる気配もないために放置していた。

 誰からの差し金なのか判断も付かないし、事を起こさず正々堂々と決闘でケリをつける、というのは俺達で話し合ったことだ。


 しかし、ここに来て事態が動いた。まだ直接的な明言はしていないが、気配は言っている。

 喧嘩を売りにきた、と。


「そんなんじゃねえよ。ぽっと出の人間(おまえ)を嫌ってる奴はこの国には大勢居るぜ」


 嘘は言っていないという面だ。それでもタダで通してくれそうにないことは明らか。


「だからどうしたの? お前じゃ人類最強の戦士様ラース・ゼーノルトには敵わない。もう少し大物を連れてきて欲しい」


 口の減らないエルゥ。俺に関しては誇張しすぎだが、こういった多方面に喧嘩を売っていくスタイルで行くことは許可している。

 何も無ければそのまま約束の日まで過ごすつもりだったが、もし刺客などを送ってくる事態になれば出来るだけ大物を釣って叩こう、という話になったのだ。


 大物を叩けば早々手出しはできないだろう、という目論見だ。

 だから、こんな少し出来る程度の戦士を倒す程度では話にならない。俺もエルゥも、シトラ達も同じ意見だ。


 とりあえず相手はすることになるだろうが。


「何を言ってんだ! このお方は冒険者ランク“S”のパーティーを率いる偉大なお方! メイガス・イーベルス様だぞ!」


「そうだ! いくらその人間が手練れであろうが、メイガスさんには勝てねえ!」


「おいおい、やめろよ恥ずかしい」


 メイガス・イーベルスとやらは照れながら取り巻き達を注意するが、どこか嬉しそうだ。


「ぶっ……!」


 その様に、エルゥが吹き出した。

 まだ口の中に残っていた咀嚼物が飛び出し、きたねえ! と取り巻きが避ける。


「これがSランク? 笑わせないで」


 けたけたと笑うエルゥの意見はごもっともだ。リフィールと比べてもオーラが劣るし、強者の圧を感じない。


「あぁ、随分とくだらないジョークだ。本当にアンタはSランクの冒険者なのか?」


「……何が言いたい?」


「率直な感想だ。そうは見えないもんでな、念のため確認を取った」


 途端、不機嫌そうな顔を見せるメイガス。

 俺の質問が煽りではなく、心の底からの疑問だ

と判断してくれたのか、少しの間のあとメイガスは「本当だ」と答えた。


「本当にSランクなんだって。世も末だね、ラース………………ラース?」


 俺を見たエルゥの表情が、凍りつく。


「あぁ、悪い」


 ──エルフの国の冒険者ギルドのランクの基準というのは人間とすこし違うのかもしれない。

 それでも。


「怒りを抑えていた」


 俺は珍しく、怒りに打ち震えていた。

 ヴァイン達と過ごした冒険の日々は壮絶なものだった。辛い思い出もあったが、激しい戦闘の数々は俺にとっては今でも誇りだ。

 彼の、メイガスの道のりが決して緩やかだったと断定するわけではない。彼なりに苦労を重ねてきただろう。


 だが、Sランクの冒険者というのは(ほまれ)あるものだ。

 Sランクのダンジョンに手が届くからこそ、Sランク。

 国内でも最高峰の武力を有しているからこそ、Sランク。

 もしダンジョンに居る魔物が溢れかえった時に人々の希望として戦える戦力を有していて、Sランクと名乗る権利がある。


 俺が、俺達が死に物狂いで積み上げ、登ってきた階段。

 Sランク冒険者という高みは。


「──これほど低く、安いものだったか?」


 波状の怒りが体の底から湧き上がってくると、そのまま脳を支配する。

 同時に、〈バーサーク〉が発動するのを感じた。


「喧嘩、売ってんだろ? それなら買って…………」


 知らぬ間に拳は握られ、体が前に出る。

 そんな俺の腰に、腕が巻かれていることに気がつく。

 柔らかい、少女の手。

 俺を止めるように後ろから抱き締めているのは、エルゥだ。


「やめて」


 受付嬢時代もギルド内での乱闘を止めることなく眺めていたエルゥが、俺を止めている。

 気がつくと取り巻き達は数メートル先まで後ずさっており、メイガスも尻餅をついていた。

 ……喧嘩を始める必要は、ないか。


「ラース、こわい」


 俺を抱きしめるエルゥの手は心なしか震えており、我に返る。

 拘束する手に力は無く、簡単に解ける。

 俺は振り返ってエルゥを抱き寄せると、悪かったと頭を撫でた。


「…………」


 握りっぱなしだった拳を開き、手のひらを眺める。

 大した怒りでもなかった。元々怒りっぽくはないし、いつもなら「これがSランク冒険者か」と肩をすくめる程度のことだったろう。

 が、小さな怒りが突如こみ上げてきた何かに後押しされ、爆発した。


 ──これは、いったい。


「図書館、行こうか」


 やがてエルゥも落ち着いた頃、そう言うと小さく「ん」と返ってくる。

 最早俺達の前に立ち塞がる者もおらず、悠々と道の真ん中を歩く。

 ……今度、テザリーンにでも聞いてみるか。

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