それぞれの準備(3)
「おや、見えてきましたね」
ミリカの道案内もあって目的のギガビス・ヴェレットが経営するという店に着く。
街の外れも外れ。ほぼ端っこである。
「彼は大抵工房に居るみたいなので、先にそちらから尋ねてみましょう」
先頭を歩いていたミリカは武器・防具屋には入らず、裏へと回る。
店と工房、そして家らしきものが隣接している。
家が一番小さく、工房と店が大きい。ここから既にギガビスのウェイトが生活より職にあることが透けて見える。
「すみませーん!!!」
ミリカが先行して入ると、私達も続く。
工房自体はドリアン・ゲデルやベザン・グレードの所と変わらない。
世界有数の鍛冶屋となると自分の作業に集中さえ出来れば何でもいいのだろう。
失敗作と思われるものが端の方に雑に寄せられていて、他に置いてあるものは道具のみ。
本当の仕事場、といった風景が広がっている。
「ん?」
中央奥で作業していたゴーグル付きの老エルフがミリカの馬鹿大声でこちらに気が付き、作業を中断する。
エルフにしてはいかめしい顔つきで、筋骨隆々としている。
いかにも頑固そうなオッサンといった風貌だが、職人というのはこんなのばっかなのだろうか。
スマートで爽やかな人物が出てきてもバチは当たらないと思う。
そんな男性がゴーグルを上げ、目を細めて近づいてくる。
作業に割り込まれて怒っているようにも見えるが、近くまで来るとミリカの顔を見て、「おおミリカちゃんか!」と笑顔を見せた。
こんなでも王女に仕える騎士といったところか、顔は広いらしい。
「久しぶりだな! そっちは……人間か。むっ、これは…………」
人間という種族に抵抗があったのか顔をしかめたギガビスと思われるエルフだったが、興味はすぐにラースが背負う大剣〈剛剣フレストリア〉に向かう。
次にしゃがみ込んで腰に刺している〈ウルト・ゼーノルト〉を眺め、抜いてもいいか? とラースを見上げた。
特上のおもちゃを前にした子供のような表情で、ラースもたじたじになる。
「どうぞ」
抵抗は無かったのかラースはすんなり許可を出す。
許可を得てノータイムで剣を抜いたギガビスっぽいエルフは「おぉ!」と感銘の声を上げた。
私もおねだりして一度見せてもらったが、相変わらずピカピカとした眩しい剣だ。
なので成金剣と呼んでいる。良家生まれの成金坊ちゃん剣だ。
多分言ったら怒るだろうが。
「我々鍛冶屋では付与はできないからな。剣自体も良い。そっちの大剣もこれも、ベザンの奴が作ったものか……」
ぶつぶつと言いながら分析をするギガビス。
魔法剣を鞘に戻すと、今度はレナの剣に興味が移る。
「ぬ?」
一歩退いたレナにギガビスが首を傾げる。
グイグイと来るおっさんに引いている。私も若干引いている。
「……ま、いい。それで、なんの用だ? 生憎と“息子の作品のクレーム”なら承ってないぞ」
ギガビスが視線をやったのはラースの持っている例のブーメランだ。
世界で二番目の鍛冶屋としてこの珍品をきちんと息子の作品だと認識しているところは偉いかもしれない。
私なら我が子の作品だとは間違いなく認めないだろう。知らんぷりをする。
「えっと、何の為にきたんでしたっけ?」
馬鹿丸出しの顔で小首を傾げるミリカ。
あざといが、顔が良いから許される仕草だ。あと、中身のアレさも相まって本当に馬鹿丸出しで首を傾げているのだろうと思われるから許せる。
「俺は一度ギガビス氏の店を見たいと思って歩き回ってただけだ。それと、これにクレームを出すつもりはないよ。俺が選んだヤツだし、タダで貰った商品だ」
「選んで? 物好きな奴も居たもんだな。そんな立派な武器を持ってるのに、今更何のために使うんだ?」
このブーメランを見た感想は万人が同じ答えを出すらしい。
ギガビスは腕を組んで不思議そうな顔を見せた。
「敵を殺す武器もあれば、殺さない武器もあっていいと思っています。生かしたまま傷付ける為にこの武器を貰ったんです」
「サイコな答えだが、ごもっともだ。そういった意味ではそいつは案外適しているかもな」
拷問する為だが誤解を招いたのもあってか、それっぽい論理を出すラース。
相手はプライドも高そうだったし、国や名誉の為に戦う決闘だ。
そんな場所で拷問にかけるぐらいなら、いっそのことひと思いに殺してあげた方が相手の為なのではないか、とも思う。
昨日私が言った事とは反対だが、ああいう煽りはその場のノリで言っているだけなので本心ではない。
ヴァインと裸踊りの約束をした時もダンジョンを攻略できなければ潔く腹を切るぐらいの覚悟はあったし、咄嗟に出る言葉は信用してはいけない。
何故なら当事者の私でさえ、勢い任せに言った言葉は信用してないから。
「ギガビスさん、彼はいま国中で噂になっている決闘に出る人間なのですが、どうやらブーメランを基軸に戦うつもりらしいです。私は無謀だと思いますが、“リフィール・ゼロヘブンに武器を提供する”当事者としてはどう思われますか?」
「ふむ、正気か?」
やはりこれも万人の答えらしく、ミリカの問いに問いで返すギガビス。
「“これで勝利してみせる”と勢いで約束してしまったので。まぁ、実際のところ始めは剣で戦って終盤にブーメランを持ち出す作戦になるかもしれませんけど」
繰り返し聞かれるせいで自信がなくなったのか、ラースはついに最後に使うかも、と保険をかける。
「ただ、戦いは武器防具で決まるもんじゃ無いですから」
ドヤ顔で言い切るラース。はたから見ると何か策略を企てたり魔法で戦ったりする人間に見えるかもしれない。
残念ながら彼の戦闘手段は原始的なものである。
〈バーサーク〉さえ発動してしまえばたしかに武器は必要ないのだろうけど。
「…………リフィールは強いぞ。兄ちゃんも相当腕が立つように見えるが、アイツの強さはエルフでも国王を抜けば随一だ」
「お二方と手合わせした私の感想を述べると、女たらしがリフィールに勝つのは至難でしょう。それほど余裕ぶって大丈夫なのですか? シトラフィア様を泣かせたら承知しませんよ?」
エルフ二人はラースの真価を知らないのだろう。
初めは向こう側の立場だったミリカもシトラが絡んでいる以上こちらの味方なのか、憎まれ口ながらも心配だという口ぶりだ。
そんな心配は杞憂に決まっている。ウチのラースが負けるはずない。
「うーん、俺は基本的に魔物専門だしなぁ。対人ならレナの方が強いぐらいだし、そんなに言われたら俺も自信を無くすな」
「おい」
泣き言をぼやくラースに、思わずツッコミ。
私がパーティーのリーダー面をしてはいるが、実質的なリーダー兼エースは彼だ。もう少しシャキッとしてもらわなければ困る。
「ま、エルゥもミリカも心配するな。レナとの決闘が怖くてビクビク震えていたあの頃の俺じゃないんだ」
「だ、誰が心配なんか!」
吠えるミリカは、ラースの胸を叩く。
たしかにSランクダンジョンを攻略した日を境に強靭なラースが生まれたが、数日前のことなのに威張るほどではない。
「レナはどう思う?」
参考程度にラースと本気の勝負をしたレナに尋ねてみると、聞き流していたのか「うん?」と生返事をした。
こういうところはラースに似ている。夫婦同士そっくりというか、なんというか。
「そんなの議論するまでもないでしょ。マトモに戦った時に強い選手権が世界で開催されたらラースが一位に君臨すると思うよ。
油断して負けるパターンはあるかもしれないけど、シトラやパーティーの未来がかかってるんだ。気を引き締めてやるでしょ」
ね? とアイコンタクトを送られたラースは褒められたことに照れているのか、「あ、あぁ」としっくりこない頷き方をする。
言われてみればその通り、一対一のガチンコでこの人間オーガが負けるはずもない。
プロの見解はさすがだと感心しつつも、私は話題を変える。
「それより、ギガビス・ヴェレット氏の作品には私も興味がある。店の方に移動しよう」




