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それぞれの準備

 戦に出ては負け無し。政治力は歴代でも群を抜いており、エルフの国を世界の諸国に比肩するまでに押し上げた立役者。

 そんな父に勝つにはどうすればいいか。

 私の持てる全てを振り絞り、綿密に作戦を練ることが勝率を上げるせめてもの術だろう。


 そう思った私、シトラフィア・アル・エリコットは女神テザリーンのもとへとやって来た。

 以前来た時からそれほど時間は経っていないが、食っちゃ寝食っちゃ寝という怠惰ループを繰り返していたエルゥと違って体術は鍛えてある。


 ラースさんの妹であるフィルアちゃんと稽古漬けの日々を過ごしたのだ。それなりに体術の向上があるはず。

 そんな期待を胸に、テザリーン様の居る扉を叩く。


「やあ、待っていたよ」


 部屋に入ると、既に“中身”の入っているテザリーン様がそこには居た。


「ほれ、お望みのものだ。君が期待しているような体術の向上はそうでも無いが、ようやく開花の兆しが見えてきた」


 渡された紙を見ると、残念なことに体術の変化は微々たるもの。

 しかし、見慣れないギフトが目に付く。〈先見〉というものだ。


「君は今までの人生を“良い子ちゃん”として過ごしてきた。取り繕った笑顔を振る舞い、数々の権力者達と上っ面の会話をしてきた。皮肉にも、そのおかげで他人の心中を察する能力を得たはずだ」


「…………その通りですわ」


 仕草や表情。声色や、用いられる言葉。

 あらゆる点を観察し、心を読む。王女としての振る舞いを心がけて過ごしてきた日常が唯一生んだ利点だ。

 ただ、下賤な感情を読み取ることも簡単なので必ずしもこの能力が役に立つとは限らない。世の中知らない方がいいこともあるのだ。


「それが進化した姿がその〈先見〉という能力だ」


「これは単に先見の明がありますよ、という褒め言葉ではなく?」


「ではなく、もっと役立つものだ。レベルの低いうちは窮地になるまで発揮されないかもしれないが、決闘で必ず役に立つことだろう。

 そんなことより、君が考えていることを進めた方が良いと思うが」


「…………そう、ですわね。ありがとうございます」


 私は一礼し、テザリーン様の部屋を後にする。

 五日という期間は決して、決闘のために用意した期間ではない。

 決闘に勝つというのは大前提であり、最低限のノルマ。他にやるべきことがある。


「何か収穫があればいいのですが」


 私が向かう先は、王城。

 ここに真の勝利を得るための鍵があると、睨んでいる。





「ん?」


 街を散策する私達の視界に、おかしな姿の男性が目に入る。


「ラースか。何やら変な物を持っているね」


 隣に居るレナが変な物、と形容したのは黒いブーメランのようなもの。


「あ、アレが私の案内を断ってまで欲しかった物ですか? 馬鹿にしてます、馬鹿にしてますよ!」


 ぷんすかなのはミリカ。言っていることはごもっともで、わざわざ案内を断って買ったものがオモチャのようなブーメランだとはラースも人の心を気にしない奴である。

 私はふむ、と腕を組んでブーメランを見つめながらどこかへ歩いていくラースの背中を眺めていると、頭の中でピカンと光る。


「もしかして、娼館にでも行くつもりじゃ」


「「なに!?」」


 ジョークが九割混ざった私の発言に食い付いたのは両名。

 よくよく考えれ彼は日頃から美少女達に囲まれているのだ。


 そう、私を筆頭とした美少女達に。私もラースには日々常々えっちな目で見られて困ったものである。

 むむむ、今思えばマッサージの時の手つきもいやらしかったように思えてきた。


 ともかく、相当抑圧された何かが溜まっているはず。ラースが娼館に行くことも考えられる。


「尾行しましょう。アレは性欲に満ちた怪しい顔です。間違いありません、女性を買いに行くつもりです!」


 断言するミリカ。私もそう思うとふざけて同調すると、レナも「ボクなら性欲処理として使ってくれればいいのに」としょんぼりしつつ尾行に同意する。

 女の子が白昼堂々とそんな発言をするのもどうかと思うが、怪しい展開になってきた。


 ぶっちゃけ、王女の婚約者としてやってきた彼の今の立場を考えれば娼館に行くとは思えない。

 あと、あんなクソ真面目な奴がこそこそ隠れて行く姿は想像が付かない。

 私が彼について女遊びが激しい噂を流そうとしても真面目すぎて中々定着しなかったぐらいだ。アレは苦労した。


「何か店を探していますね。挙動不審です」


「くう、せめて言ってくれればいくらでも……」


 物陰に隠れつつ、ラースを追いかける。

 きょろきょろしてはいるが、初めてくる土地で探し物をしようと思ったらああなるのも仕方がない。

 むしろ、はたから見ればお前らの方が怪しいだろうとツッコミを入れたいところだ。

 面白いので黙っているに決まっているけど。


「あっ…………」


 声を上げかけたミリカの口を手で塞ぐ。

 我ながら良い反応。それにしてもラースが人に声をかけただけで過剰反応を示そうとするところを見ると、やはりコイツが一番不審人物だ。


「ふ、普通に会話してますね。てっきり人と喋れない人種なのかと」


 驚いた表情であまりにも失礼な発言をするミリカ。

 私達に対しては心を開いているからアホみたいな言動をすることもあるが、アレでも問題児二人を擁するパーティーの仲裁役だったわけだ。

 横の繋がりも案外あるし、コミュニケーション能力というか勝手に人を惹きつけるようなものはある。

 なので悪名を流すには苦労した。いやぁ、苦労しましたよ、うんうん。


「む、アレは娼館の方向。なるほど、先程の人に場所を聞きましたね? 見れば見るほどすけべな顔をしています」


「ラース、キミもあの男の息子なら同じように仕事をサボって娼館に入り浸るのか……?」


 追いかける最中勝手なことを言い出す二人。ディリック・ゼーノルトが娼館に入り浸っているという悲しい事実はさておき、私は口が読めるのでラースが何を尋ねたのかは分かっている。

 ギルドの喧騒の中、情報を収集するために練習したものだ、えっへん。


 そんなこんなしている内にいかにも大人の世界といった道へ到着。

 客引きの女の子達が道に立ち並ぶ中、ミリカがとうとう重い腰を上げた。


「確保確保確保〜! とうとう正体を現しましたね、ぶへっ!?」


 ラースへと駆け寄っていったミリカは、何故か襲い掛かろうとして叩き落とされる。

 私達は呆れながら物陰に身を潜めると、ミリカを引きずりながら何をやっているんだという顔でラースがやってくる。

 よくよく考えると彼は〈気配探知〉のギフトを持っているし、私達が尾行していたことはとっくに気付いていたかもしれない。


「ら、ラース! 何故ボクを性奴隷にしないんだ! わざわざこのような場所に足を運ばずとも、ここにいくらでもさせてあげる人間が居るだろう!」


 あまりにも身体を張っているレナがラースに詰め寄るが、本人は「いやぁ」と口籠る。

 勢いのある押しに困っている顔だ。押されると弱いのが彼で、頼めばなんでもやってくれる時の顔をしている。

 彼自身が疲れていても、疲れていない私のマッサージをやってくれるぐらいなのでもう少しぐらいノーと言う術を身につけた方が良いとは思う。


「レナ、ラースは鍛冶屋を探しているみたい」


「へ……?」


 ラースの口を読んで彼の目的を知っている私は、レナの肩をぽんぽんと叩いて教えてあげる。


「なんだ、知っていたのか。実はギガビス・ヴェレットの店を探しているんだ。どうせなら皆も来るか?」


 すっかりと誤解も解け、レナは「うん!」と元気の良い返事。

 かの有名なギガビスの店。私も興味があり、頷こうとするが、突如足首を何者かに掴まれる。


「知ってたなら言っていただければ、私が犠牲になることはなかったのでは!!??」


「わっ……ゾンビ」


「誰がゾンビですか、誰が!」


 体を跳ね上がらせての激しいツッコミ。実に元気なゾンビだ。


「私はラースがいやらしい顔をしているから娼館に行くかも、と言っただけ。責任を押し付けないで」


 いやいやいや、と手を振る三人。


「それは完全にエルゥが責任の十割負担だと思う。というか、行くつもりならあんなにバレバレの尾行は撒くし、もっとコソコソと潜んで歩くっつーの」


「行かないでよ!」


「い、行かないって。もし行くならの話だ」


「ぼっ、ボクを使えば良いじゃないか!」


「女の子が使うとか言うんじゃありません。それに、仲間をそんな風には出来ない」


 レナに詰め寄られ、私に救いを乞うような視線を向けてくる。

 やはり尾行はバレていたらしいが、一つだけ思い違いをしていたらしい。

 クソ真面目な男だからコソコソと行くはずもないとは言ったが、逆である。

 クソ真面目だからこそ私達に気を使い、気を使わせまいと隠れて行くのかもしれない。


「その時だけ仲間じゃなくペットだとでも思えばいいだろう!!!!」


 エルフの国の空に、レナの大きな声が響き渡る。

 私より無茶苦茶を言う奴が居るとは思わなかった。

 ここ二日で二人も(一人はシトラ)出るとは、私の無茶度もまだまだ甘いということだ。


「え、エルゥなんとかしてくれ」


 とうとう声に出して助けを求めてくるが、無茶度で下回っているのだ。勝てない。


「溜まったらお願いすればいいんじゃない。素直にそれで手を打てばいいでしょ」


「うむむ……必ずボクに言ってくれよ!」


 うんうん、と首を縦に振るラース。結局、レナの望み通りに場はまとまった形だ。

 ただ、今回茶化してはみたが、実際彼から性欲を感じたことはない。

 たまにシトラのおっぱいを眺めているが、宝物を眺めるアホの顔をしているので性欲が絡んでいるかというと言われると微妙である。


 面白そうなのでいつか彼が性欲を剥き出しにしている姿を見たいものだ、と思いつつも歩き出す。

 まあこのロリボディではやや厳しいので、その役目が私に回ってくることはないだろうけど。

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