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偉大な父の影

 俺達がエルフの国に到着してから数えて二日目。

 シトラが侵略者と啖呵を切った手前王城には泊まりづらく、宿を取った俺達だが活動の始まりは遅く、昼から。


 シトラはやるべきことがあると言って単独行動。

 ミリカも着いていきたいという顔をしていたが、邪魔だと追い払われたのでこちらのグループに。

 普段彼女は王女の近衛兵として城に勤務しているらしいが、今はまだ王女の捜索という特別任務が継続中扱いらしく暇を持て余している。


 なのでエルフの国を案内してあげます! と気前良く言っていたが、俺は見たい場所があったので敵地を一人でぶらぶらするという蛮行に出ていた。

 おそらく、こういうところが女性に気を使えないところの最たる点なのだろう。

 折角案内してやると言っているのになんだその態度は、とぶちぶち文句を言われたし。


 と、そんなことはさておき俺はとある武器屋の前で立ち止まっていた。

 エルフの国に来てまで武器とは俺も父の血が濃いのかもしれない。

 女好きというか女転がしの術は少し遺伝されて欲しかったと、俺を罵倒するミリカの顔を思い出しつつも……中に入る。


「いらっしゃい」


 中に居た若い男の店主は俺を人間だと判断しても、愛想良く迎え入れる。

 それどころか、どこか興味を持っているような表情だ。

 ただ、その目は俺本人ではなく武器の方に向かっている。


「良い剣ですね。腰の方も、何か特別な力を感じます」


 〈剛剣フレストリア〉を背負い、〈ウルト・ゼーノルト〉を腰に差すという非常に目立つスタイル。

 ここまでしているのは、エルフの国に居るという世界で二番目に腕の立つ鍛治職人を探すためだった。

 特に〈ウルト・ゼーノルト〉の方は納剣していると普通の剣と見分けが付かない。

 だからこれを良品と見分けられる者は必然的に腕が立つ鍛冶屋だと勝手な推察をして、この装備に至る。


「分かりますか」


 俺はそう言いつつ店主の手をちらと見ると、鍛冶屋特有のマメのようなものがあることに気がつく。

 彼も鍛冶屋なのだろう、そう思いながら眺めていると、視線に気が付いたのか「これですか」と言って手の平を向けてくる。


「お恥ずかしながら、ここに出している商品は全て僕が作ったものなんです」


「なるほど」


 店内を一望しつつ、興味を持っている剣の束が置かれた場所へ近づく。

 商品の数は多いが、お世辞にも品質が良いとは言い難い。

 なのに〈ウルト・ゼーノルト〉や〈剛剣フレストリア〉を一眼で見抜いたということは、失礼な話店主がどこかしらの貴族の坊ちゃんで、目が肥えているとかそういった話なのだろうか。


 雑多に剣が突っ込まれた箱の中から一本を取り上げる。

 ベザンさんはこういったところに失敗作とか凡作を突っ込む癖があったが、どこも共通なのだろうか。


「“G・V”。ということは、貴方は……」


 尋ねると、店主は暗い顔を見せる。

 鍛冶職人達は特注のものを除き、武器の柄に自分のイニシャルのアルファベットを刻むことが多い。

 この剣も例外ではなく、そしてG・Vというのは俺が探していた人物と合致していた。


「おそらく、思っている方ではありません。貴方が思い浮かべたのは、ギガビス・ヴェレットの方では?」


「ええ、失礼ながら」


 ギガビス・ヴェレット、その人物こそが俺が探していた世界で二番目の腕を持つと言われている鍛冶職人だ。

 ヴェレット家は代々鍛冶屋を営む、骨から血まで生粋の職人家系。

 もしやと思ったが、同じイニシャルの別人だったらしい。


「ギガビスは、私の父です。私はガビス・ヴェレット。

 よく見ていただければGの後に小さくAが刻まれているはずです」


 言われてから目を細めて見ると、たしかに控えめなAが刻まれていた。自信の無さが伺える。

 まあ、自信が無いのも仕方ないのかもしれない。正直ここに置いてあるものはそこらの武器防具屋の商品の品質と変わらない。

 偉大な父を持つと苦労するというのは人間もエルフも変わらないらしい。


「ギガビスの息子ということもあって義理で買っていただけたり、ネームバリューのおかげで売れることもありますが……自分の作品がお粗末だということは理解しています」


「そうですか? 良い出来の物もありますよ」


「はは、お世辞はやめてください、表情で分かります」


 指摘され、思わず顔を触る。エルゥほどのポーカーフェイスのつもりで話していたが、バレバレだったらしい。


「……私には才能がありませんから。店も閉めようかと思っていまして」


「才能がない、と。そうは思いませんけどね」


 到底彼に才能があるとは思えなかったが、俺は何故か引き下がらなかった。

 それはもしかすると、俺自身が過去に才能の差に壁を感じた過去があった為かもしれない。

 父も母も魔法を使えるのに、俺だけが使えない。後から訓練を始めたレナにも抜かれ、モチベーションの低下は免れなかった。


 それでも、ここまで辿り着いたのだ。才能の差を口にする彼を何か元気づけてやれないものかと再び店内を見渡す。

 すると、何やら目に付くものが壁に飾ってあり……俺はそれを手にした。


「ブーメランですか」


「ブーメランと言いますか、何と言いますか。初めはイケると思って作りました」


 鉄のブーメランだ。ただその両先端は尖っており、刀身からもブレードのようなものが数個突き出ている。

 特徴的なのは刀身自体は刃が付いておらず、切ることができる箇所は先端と突き出るブレードだけ。

 一体何を意図して作ったのだろうかと疑問が浮かぶ一品だが、使い手に技術さえあれば有益な使い方ができるのでは無いだろうか。


「面白い商品ですね、買いますよ」


「えっ」


 コイツ正気か? という疑いの目を向けてくるガビス・ヴェレット。

 お世辞では無いと誤魔化す手前もあるが、俺は何か決闘に使える小道具が無いかと探していた。

 ギガビスの作った武器を見てみたい気持ちは勿論あったが、それは別として欲しいものがあったのだ。

 この武器の方向性は、その方向性と少しマッチしている部分がある。


「俺にも偉大な父が居ましてね、随分と苦しんだものです」


「は、はぁ。でも、その商品は自分でもアイデアが先行しすぎているような気がしてなりません」


「いえ、素晴らしい一品ですよ。俺が証明してみましょう」


 ブーメランを手に取り、クルクルと手元で回してみる。

 まずまず重量のあるものだが、俺の腕力であればなんてことない。


「それほど気に入ったのであれば差し上げますよ。ただ、証明といっても実戦で使えるかどうかは保証できません」


「ご心配なく。四日後に国立闘技場で行われる決闘を見にきてください、これで勝利を収めてみせますよ」


「えっ!? 決闘って……ほ、本気ですか!? というか貴方はもしや、いや噂の…………」


「では、失礼します」


 再びガビスが見せた何を言っているんだコイツ、という表情に俺は傷つきながらもその場を後にする。

 決闘の噂はどうやら彼も知っているらしい。これほど広がっているなら俺がこのブーメラン……そうだな、仮に〈B・B(ブレードブーメラン)〉として、これで勝てば絶大な宣伝効果にはなるだろう。


 実際、この奇抜なアイデアは他では見ないものだ。彼の可能性を発掘するいい機会にもなるかもしれない。

 才能の壁など俺の場合は努力で何とか埋まったし、活路がどこにあるのかなんて案外分からないものだ。

 同じように偉大な父の影に苦しめられる立場として何とか力になれればいいが…………。


 店を出た俺は手元のブーメランを見下ろしつつ、冷静になる。

 なんだ、この鉄屑は。俺は大変な約束をしてしまったのではなかろうか。


「…………ま、なるようになるか」

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