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決闘のルール

「その方が連れてきたという結婚相手ですか」


 頭部から爪先まで、まるで品定めをするような目線を俺に向けるリフィール。

 驚きも少ないように見えるし、彼には話が通っているのだろう。

 俺達と会ったのも意図あって迎えに来たような雰囲気だったし、はなから気配を強く感じたのも……彼が殺気に似たようなものを放っていたからだ。


「そうですわ。ですが王族の婚約破棄というものは簡単に破れるものではありません。ですから──」


「命を賭した果し合いを、私と彼が行う。望むところです」


 リフィールは瞳は既に覚悟が完了した、力強いもの。話が早くて助かる。


「決闘は少し猶予を持って五日後。王立闘技場で行うということでよろしいでしょうか」


「ええ、構いませんよ」


 シトラ主導のもと、決闘の日程が決められる。

 五日という間隔にやや疑問はあったが、双方争うことなく合意。


「ひとついいか?」


 ただ、当人である俺を置いて話を進められても困ると手を上げる。


「命を賭して戦うと言ったが、死以外の決着は無いのか?」


 俺の言葉に不快感を感じたのか、リフィールは表情を歪める。

 決闘をやる前に泣き言を、とでも思ったのだろうか。


「決闘は命のやり取り。基本的に死以外の決着は考えられません」


 堂々と言い切るリフィール。

 過去二回の決闘を経験した俺は、どちらも勝利を収めなおかつ敵が生存した状態で決闘を終えた。

 今回も同じ結果に導けるよう、最善を尽くすだけ。


「そうか。では仮に、どちらかが戦闘不能状態に陥ったりしてもそこで戦いは終わらないのか?」


「エルフの決闘にそんな生温い決着はありません。ましてや国の未来を賭けた戦い、たとえ意識が無くなろうとも戦う所存です」


 引かない、と強く言い張るリフィール。

 わりと生半可な想いでここに居る俺が申し訳なくなるほど、彼の意思は固い。

 それにしてはあっさりと勝利を手放した奴も居たけど、とミリカに視線を送ってみると顔を逸らして口笛を吹いている。そんな分かり易い誤魔化し方があるか。


「それなら片方が敗北を宣言しても終わらない、と」


「……何が言いたいのです? 最終的な逃げ道が欲しいと?」


 ついに痺れを切らしたか、直接的な単語を使うリフィール。

 俺はいいや、首を振る。


「たとえばそちらさんが敗北を宣言した時に決闘を終えるということは出来るのか、という質問だ。

 無益な殺生をするつもりはない」


 勝利宣言ともとれる俺の言葉に、リフィールはまた顔をしかめ、口を閉ざす。

 先程から随分と言葉を選んでいるが、怒りはきっちりと表情に浮かんでいる。


「では、双方敗北を宣言した時点で決闘を終わりとしましょう。ですが、私は敗北を認めるぐらいなら潔く死を選ぶ覚悟です」


 リフィールはそこまで言って、踵を返す。

 彼の固い覚悟と立派な弁論に町の人々からは歓声が上がるが、エルゥが呆れたように大きな溜息を吐き出した。


「エルフの国の未来! とか言うわりには負けたら死にますって、何言ってんの。

 負けたら負けたでお国のために精一杯尽くすことを考えるのがより良い未来への道筋であって、死はただの逃げでしかないでしょ。


 恥に耐えきれず死を選ぶという逃げ道を作り、無益な殺生を拒む相手に精神的揺さぶりをかける。

 これほど情けない話はない。


 それとも、自分が生きていても何の役に立たないと自嘲しているの?

 まったく、弱っちい戦士の弱気な弁は聞いていて反吐が出ますなあ、ミリカさんや」


「わ、私に聞かないでください! ノーコメントです!」


 慌てふためくミリカに、静まり返る群衆。

 エルゥの挑発を受けて振り返ったリフィールは最早柔らかな表情の維持がままならないのか、鬼の形相。

 それをにやにやと眺めるエルゥの姿は鬼を上回る大悪魔である。


「…………クッ」


 悔しそうなリフィールだが、彼も利口な男だ。ここで手を出すことはしない。

 大人しく引き下がっていく後ろ姿に、ぶいっ! とエルゥは指でビクトリーポーズを取る。

 そんなエルゥの脳天を俺は軽く叩く。


「ぶいっ! じゃねーんだよ、ぶいじゃ。話をややこしくするな」


「むむむっ、ラースのために弁護してあげただけ。それに、あのままだと私達が悪役(ヒール)みたいじゃない」


 唇の先を尖らせるエルゥだが、彼等から見れば間違いなく俺達は悪役(ヒール)である。

 エルフの国の歴史をぶち壊しに来た人間共、としか見えないだろうからな。実際似たようなものだし。


「──しかし、ひとつ引っかかるね。何故五日という期間を設けたの? “アレ”ならボクでも勝てるでしょ」


 訝しげに言うレナ。

 そもそも俺の〈バーサーク〉という無茶苦茶なギフトが特例だっただけで、レナと決闘して勝てる者など世界中に何人居るかというレベルだ。


「五日という期間はラースさんの為のものではなく、“私”の準備に充てる時間ですわ。あの頭の硬い王族が決闘に敗北したというだけで退くはずもありません。

 なので、彼等を納得させるだけの材料を集める期間という意味合いでの五日です」


 なるほど、と一同納得するが王族を納得させるための材料とは……見当もつかない。

 実は俺がエルフであるとかいうトンチを持ってくるわけもないし、何か王族の弱みでも探すつもりだろうか。


「じゃあまた観光か。五日でエルフ飯制覇、できるかな」


 腹をぱんぱんと叩き、臨戦体制のエルゥ。コイツの頭の中は相手への罵倒と飯のことしか無いのか?

 やや呆れつつも、俺は待ってくれと制止する。


「五日の中でレナ、エルゥ、そしてミリカ。それぞれ一日ずつ時間を貸して欲しい」


「わ、私もですか!? 不埒な! デートでもして回るつもりですか!」


 真っ先に抗議したのはミリカだった。相変わらず気が早い奴だ。


「いや、勿論訓練のために時間を使いたい。一日とは言わず数時間でいい」


「訓練……訓練ならまあ、構いません………………って、構わなくないですよ! 私はエルフの国側の立場です! 何故敵である貴方に協力しなければならないのですか!」


「敵? ミリカ、貴女は私のことを敵だとおっしゃるのですか? 嗚呼、悲しいですわ。貴女に剣の指導をし、王女の近衛兵としての立場も差し上げた私はとっても、悲しいです」


 精一杯反論してくるミリカだったが、シトラの嫌味によって沈黙。

 歯を食いしばり、俺を睨みつけるが……王女の言葉には勝てない。


「仕方ありません、付き合ってあげます。やっ、今の付き合ってあげるは交際的な意味ではなく訓練という意味合いですからね! 勘違いは気持ち悪いですよ!」


「わかってる。わかってるから剣を抜くな」


 鬼気迫る表情で俺に細剣の切先を向けるミリカに、落ち着け落ち着けとジェスチャーをする。

 彼女がシトラに入れ込むような態度なのは、そういった過程もあってある程度親密だから、なのであろう。

 だからこそ俺の事を憎み嫌っているのかもしれないが、だからといって一々剣を抜かれては迷惑極まりない。


 ミリカにだけは誤解を防ぐため、一連の騒動は芝居であることを伝えておくべきか、否か。

 いや……どう見ても口は軽い方だ。伏せておく方が無難だろう。


「シトラ、お城まで我慢できない」


「ひゃあっ!? そ、そんなところを掴まないでください!」


 エルゥはぐい、とシトラのお腹の肉を引っ張って空腹をアピールする。

 それが珍しくシトラの怒りを買い、拳骨を頭に貰う。

 ざまあないな、と内心笑いつつ……少し同情する。


 腕や太もも、それにお腹が露出した格好をしているシトラは掴む面積も少ない。

 シトラの胸までしか背丈のないエルゥが掴む場所は、必然的にお腹辺りになる。せめて普通の服であれば裾を掴んでいただろうと考えると、やや不憫である。


 それならそれで肩を叩くなり何かしらあっただろうと言われると、それまでだが。


「と、ともかくエルゥが我慢できないと言うのであれば昼食を取った後、王城に向かいましょう。お父様への挨拶もしておかなければなりませんし、私用もありますから」


 悪いと思ったのか、シトラは若干涙目のエルゥの頭を撫でながら言った。

 やはり、どれだけ弁論が強いエルゥでも彼女には勝てない。

 それは何かしら強さの指標に基づくものではなく、子と保護者という関係性のようなものから来ているのかもしれない、と一人思う俺であった。

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