どうも
「飯だ飯だ飯だー! ミリカが美味しいと言い張るエルフの国の料理、食べ尽くしてやる!」
島を入ってすぐに町があるというわけではなく、島の外周は森に囲まれている。
なので森を数時間かけて抜け、それからようやくエルフの大国に到着なのだ。
道中歩くばかりだったので、到着したからご飯だと駆け出そうとするエルゥ……の首根っこを掴む。
「先に城に向かわないとな」
結婚を断る他、冒険者としてしばらくやっていくというウマを伝えなければならないので、パーティーで顔を揃えていく必要がある。
というのは船内で決めたはずだが、エルゥはぷーっと頬を膨らませる。
腹が減っているのは皆同じだ。我慢しなさい。
「そうですわ。それに、歓迎されてはいないでしょうが、一応は客人ですし料理も出るはずです」
「お城の料理!?」
シトラの言葉を聞いた瞬間目の色を変え、「目的地変更!」と遠くにそびえ立つ城の方を指差した。
現金なやつだ。というか目的地は元からそこだっつーの。
「意外と人間も少なくはないんだな」
街中を歩いていて、人の姿がちらほら見えることに気がつく。
異種族間の溝というのはどのご時世でもあるものだ。人間がエルフの国で住むのは相当肩身が狭いだろう。
「ええ、ですがほとんど商業目的の者しか居ませんわ。エルフは人間を差別しがちなので」
俺の視線は自然とミリカに向くが、それに気がついた本人はなんですか! と怒鳴り散らしてくる。
彼女の場合、人間というよりシトラの婿になる俺に対して私怨があるような気もするが……やはり、差別はあるらしい。
国のトップが堂々と口にして良いことではないが、事実は事実。
それに、奴隷商などが容姿の綺麗なエルフ達を拐っては売り飛ばすこともある。
エルフは高値で売れるらしいが、逆にエルフの国でも人間を家畜同然の扱いとして労働させるケースもあるらしい。
そりゃ種族間の歪み合いは無くならないわけだ。
「そういえば、シトラの婚約者ってのはどんな感じの男?」
エルゥの質問に、シトラはそうですねと頰に手を当てて思い出すような素振りを見せる。
聞くにしては敵地に乗り込んでからという、あまりにも遅いタイミング。
でも、俺としては聞いておいた方が急な決闘になった時に有利かもしれない。
ここまで旅行気分だったが、今になって焦燥がやってくる。
そういえば俺は人の人生の行く先を賭けた決闘をしにエルフの国に来たのだと。
「うーん、素晴らしい方だと思いますよ。文武両道、容姿、家柄と全てが上から数えた方が早いようなお方です。
ただ、私は嫌いですね。良家特有のものがあるというか、とにかく好きになれませんわ」
すっぱりと言い切ってしまうシトラに、ミリカが「あまり大っぴらには言わない方が」と小声で耳打ちをする。
肩をすくめ、「知りません」と珍しくおどけてみせるシトラ。
段々俺やエルゥの仕草が移ってきているのかもしれない。悪影響である。
「そういった意味ではラースは真逆の立ち位置にいるね。飾らないし、驕らない」
レナが俺を持ち上げてくれるが、非常に恥ずかしい。
「そんなことないよ。俺だって格好付けたくなるし、エルゥがふざけた発言し出したらまた馬鹿なこと言ってるって見下してるからな」
「ふんっ、ラースは飾らないっていうか馬鹿なだけ。女の子に気を使ったことも言えないし、驕らないのも人との能力差を考える知能が無いだけじゃないの」
「何を」
「うむむ」
エルゥを睨むと、睨み返される。ぐぐぐと顔を近付けられるが、可愛いだけでまったく威圧感はない。
「二人とも同類・同レベルだと思いますが」
辛辣なミリカの言葉にばっと二人、揃って睨みを利かせると、シトラを盾にするようにして隠れてしまう。
思わず睨んでしまったが、今の俺はたしかにエルゥと同じレベルのバカになっていた。反省しなければならない。
「ん?」
街に入って十分程度、メインストリートを突き進む俺達の直線上に何やら目立つ集団。
横に広がり、道を威風堂々と歩いてくる様は今から戦争にでも出るのかというもの。
「もしかして、先頭を歩くあの男がシトラの婚約者とやらか?」
「その通りですわ、よく見えましたわね」
「視界に映ったのもそうだが、強者の気配を感じ取れたからな。なるほど、アレは手強そうだ」
距離は縮まってゆき、やがて対峙する。
仰々しく兵士を引き連れているのは威嚇のためか、自分の力を誇示するためか。
先頭に立つエルフの美男子は、俺達一同を一瞥し、それからシトラに対して片膝を付いて頭を下げた。
「お帰りなさいませ、シトラフィア王女」
「いえ、ほぼ無断という形で国を開けて申し訳ありませんでした。ですが相応の収穫はありました」
「それは、国益になり得ることでしょうか」
「ええ、国の未来により良い収益をもたらすものだと、私は確信しています」
エルフの美男子はそこで顔を上げ、立ち上がる。
表情はクールなものだが、俯いていた際に少し眉が動いた。出会い頭の牽制合戦はシトラの勝ちといったところだろうか。
「リフィール・ゼロヘブン。私は旅の途中で“真”の運命の方を見つけました。なので、貴方との婚約を破棄させていただきます」
話はまだ広まっていないのだろう。シトラの宣言を聞いて町の人々はざわめき出す。
それを受けてリフィールは顔色ひとつ変えず、少しの沈黙の後……口を開く。
「婚約は私共が決めたことではなく、国によって、歴史によって定められた決定事項ですので。国をより良い未来に運ぶためには当人達の意思など」
「エルフの国の王女が、貴方と結ばれる未来は国のためにならないと言っているのですわ」
大胆不敵な発言に、更に激震が走る。
当人同士はクールかつクレバーに、顔色ひとつ変えず話しているが、周りの者はドラゴン二頭の睨み合いにいつ戦が始まるのかと冷や冷やしている感覚である。
「旅路で随分と人柄が変わりましたね」
「そうでしょうか。元々お転婆な方だとは思いますが、王女という体裁もあったので猫を被っていただけです。
本当の私も知らない方と婚約なんて、あらやだかないませんわ」
煽り散らかすシトラに、流石のリフィールも顔をしかめる。
この煽りスキルも彼女の本性というより、(おそらく)エルゥの悪影響である。なので旅路で人柄が変わったというのは(多分)間違いではない。
二人の争いが佳境を迎えたところで、シトラの視線は俺に向く。
「さ、そろそろ紹介しておきましょう。旅で見つけた私のダーリン、ラース・ゼーノルトですわ」
シトラは俺の腕に組みついて密着してくる。
ようやく出番が来たかと思えばとんでもない業火が広がっている。ここに来たことを早々後悔するが、俺は腹を括って。
「どうも、紹介に預かりましたダーリンです」
獄炎の中に身を投じた。




