エルフの国(4)
「じゃ、ボクは騎士団でも呼んでくるよ」
レナの雷の中級魔法、〈エレキネット〉によって盗賊達を拘束。
ビリビリと痺れる緊縛魔法に悲鳴が上がる中、平然とした顔でレナは言った。
「でも王都を後にして結構経ったし、距離もあるだろ?」
「心配せずに進んでくれればいいよ。すぐに追いつく」
心配ないさ、と言うレナに一同不安を覚えつつも旅は再開する。
ただ、唯一〈雷姫〉姿の彼女を見ている俺はアレで追いかけてくるのだろうと予測が立てる。
実際に対峙した者にしか分からないだろうが、凄まじい速度だ。
俺も〈バーサーク〉が無ければ対応できないスピードだろう。
「……しかし、中々の連携ですね」
旅が再開し、数分経って沈黙を破ったのはミリカだった。
それほどでも、と俺が言うと何故か睨まれ、口をつぐむ。
「一つ質問なのですが、何故合図も無しに魔法を放てるのですか?」
質問の先はシトラ。彼女はエルゥとの時は何かしらアクションを行なってサポートを行うことが多いが、俺の場合はそうでもない。
エルゥは縦横無尽に動き、俺は立ち止まることが多い為だろうか。
動きが読めるか読めないかという違いでシトラは声掛けを少なくしているのかもしれない。
「それは……呼吸が合っていますから。合図がなくとも完璧な連携ができるのですわ」
答えるまでに間があったが、ミリカはなるほど! と深く感銘を受ける。
「や、ラースは誤射しても死なないから大丈夫っていう確信があるからこそ遠慮なく打ってる面もあるでしょ。まだ当たってないだけで、いつか当たると思うけど」
エルゥの一言で、シトラは汗がぶわっと噴き出る。
ミリカにシトラ様? と尋ねるとシトラは慌てふためいて「ちちち、違いますわ息があってますもの」と身振り手振り誤魔化す。
どうやら俺のサポートに合図が無いのは絆などではなく頑丈だから、という理由らしい。
しかし、彼女が慌てた時は分かりやすいものだ。普段はポーカーフェイスのわりに慌てた時の汗や態度はあからさまである。
「むっ」
再び馬車が急停止し、エルゥが外を睨む。
なんだなんだまた盗賊かと顔を出すと、馬車の前にはドヤ顔のレナが立っていた。
「待たせたかい?」
あまりにも爽やかな笑顔で馬車に寄ってくるレナは、そのまま乗車してくる。
「戻ってくるのが速すぎて待ったという実感はない」
「ふむ、それなら惚れたかい?」
困る質問に、エルゥ、シトラ、ミリカが並んで「カッコ良い」と発言する。
レナは今こそ髪は長くなったが、一人称も相まって昔から“王子様”なんて言われるほど爽やかで、格好いい。
男子女子問わず人気があるし、実際俺も格好いい女性だと思うが……。
「ああ、可愛かったよ」
どちらかといえば此方の解答が欲しいのだろう。そう思って言ってみると、レナは赤くなって「好き」とくっついてくる。
彼女が凛々しく振る舞うのは騎士として訓練を始めてからだ。昔は一人称だって私だったし、心は根っからの乙女なのである。
「彼はシトラ様の婚約者、でしたよね?」
疑うようなミリカの視線。やってしまったと少し後悔しつつシトラに助けを求める。
「彼はハーレムが好きなのです」
「なるほど……やはり下賤な輩ですね。強いだけの猿です。気持ち悪いです」
新しく追加された設定のせいで軽蔑の視線を向けられることになったが、なんとか理解してくれたらしい。
俺が余計なことを言って蒔いた種なので文句は言えないが、散々な仕打ちである。
◇
「国外だと!? ダメだダメだダメだー! 俺はな、エルゥ! お前が一週間以上街を離れるだけでも拒否反応が出て気が狂いそうにばああああああああ!?」
〈サージェスト〉に着き、ギルド〈EL〉にやってきた俺達は早速暑苦しいのに絡まれ、エルゥの拳が火を吹いた。
鉄拳を喰らったバリスさんは吹き飛んで円卓の上をバウンドして転がっていくが、特に心配の声が上がらないのが可哀想である。
「エルゥ! パパは折れないぞ!」
「臭い」
「か、がーん!!!!」
エルゥに詰め寄るバリスさんは、キツい一言で沈む。
「臭い、臭いか……」と地面に這いつくばっていじいじとするバリスさん。そのダメージは計り知れないだろう。
「はぁ、面倒くさいなあ親バカ。ラースのところの心配しなさ加減も酷いけど、心配性は心配性でウザイ」
困ったようにエルゥはむくれる。
極端な親を持つと苦労するのはお互い様らしい。ウチは放任主義のおかげで助かる場面も多いが、心配性は度が過ぎるとどの場面でもこうだからエルゥの方が大変だろうけど。
「行かせてあげましょう、あなた」
騒ぎを聞きつけて奥の方からやってきたのは、エルゥの母親であるエレシアさんだった。
娘には引き継がれなかったお淑やかな性格で、温厚な人だ。
シトラは分からないが、レナは初対面だろう。深々と「エルゥがお世話になっております」と頭を下げる姿に二人は困惑している。
俺はエレシアさんのエルゥの両名を見比べる。
この人から、これ。これの親が、この人。
改めて似ているところは胸のボリュームぐらいだと思って眺めていると、不遜な視線だと感じ取ったのかエルゥが俺の脇腹に肘打ちを食らわせた。
「そんな簡単に言うけどなぁ!」
「私だって簡単に口にしているわけでは無いわ。冒険者になると言い出した時だって、凄く迷ったもの」
「なら!」
「でも、今は安心しているわ。だって素敵な仲間の方々もいらっしゃるし……見てください、このエルゥの瞳を。一点の曇りもないの。
きっと、新たなる冒険への期待で満ちているのよ。この可愛い娘を送り出してやるのが、私達の使命ではなくって?」
エレシアさんの説得に、バリスさんはぐむむと唸る。
たしかにエルゥの瞳はいつも一点の曇りもないが、今は父に対する“面倒臭い”の一点に集約されているだけだと思う。
しかし、両親二人には穢れなき希望に満ち溢れた眼に見えているのだろう。親バカである。
「皆様、エルゥは口も減りませんし食費も掛かるふつつか娘ではありますが……どうぞ、よろしくお願いしますね」
バリスさんは丸め込んだものだとして、話を進めるエレシアさん。
俺達は戸惑いつつも、俺が代表して任せて下さいと口にする。
「それではそれでは〜」
エレシアさんに腕を掴まれ、ギルドの奥へと連れ去られてゆくバリスさんを見て不憫に思いつつ、残された俺達は顔を見合わせる。
とりあえず、昼飯時だ。皆、これから腹を満たすつもりだろうが……。
「人格は似ても似つきませんけど、エルゥの口の上手さはお母様からの遺伝かもしれませんわね」
おそらく皆が思っていたであろうことをシトラが代弁し、俺は頷く。
「その通り。私はシトラとママには口では勝てないのだ、えっへん」
胸を張ることではないが、認めるエルゥ。
安心して欲しい、口の減らなさはナンバーワンである。




