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エルフの国(3)

 王都を出て馬車に揺られる。

 王都は大陸の中の方にあるのでまず海側に出る必要がある。

 その為には〈サージェスト〉を経由し、港町〈ボイストン〉に向かう。

 〈サージェスト〉を経由するのは念のためバリスさんに国外に出ますと報告するためだ。

 まあ、例によって一悶着あるだろうが通例行事なので耐え忍ぶのみ。


「なっ、何を見てるんですか!」


「へ?」


 バリスさんを思って憂鬱になっていた俺を、目の前のミリカが叱責する。

 隊列は俺とレナ。正面に真ん中にシトラを置き、サイドをちびっ子二人が固めている。

 俺に向かってビシッと指を差すミリカはひどく憤慨しているが、呆けていたので文脈も分からない。


「今私やシトラ様のことを性的な目で見ていたでしょう! 分かっていますよ! 嗚呼、人間の男というのは何故ここまで下品なのでしょうか!」


「いや、見てねーよ! シトラは見るにしても、何でお前のことを見なきゃならねえんだよ!」


 応戦する俺の後ろからレナによる魔手。腹を強く抓られるが、目の前のディベートに集中するのみ。


「はあ!? やっぱり見てるじゃないですか、誘導尋問に引っかかりましたね! というかなんで私を見ないのですか! この可憐でぷりちーな私をいだっ!?」


 勢いよく立ち上がったミリカは頭をぶつける。

 まるでエルゥみたいな奴だと視線を向けると、それを察したのかエルゥから高速の脛蹴りが飛んでくる。痛い。


「なっ、なんですか!?」


 俺とミリカが痛みに悶える中、馬車が急停止。

 慌てふためくミリカに、落ち着き払った俺達。場数を踏んでいる俺やレナはともかく、エルゥやシトラはもう少しぐらい慌ててもバチは当たらないはずだが。


「ラース」


 エルゥに顎で指図され、やれやれと馬車を降りる。


「やいテメェ、金品を出せ!」


 馬車の目の前を塞ぐのは、見るからに荒くれといった風貌の男達。

 いわゆる盗賊と呼ばれるお尋ね者の集団だ。馬車を狙っては刃物で脅して金品をかっさらう。

 主に成功しなかった冒険者の成れの果てなどが盗賊だ。

 なので戦闘能力は大したこともないが、油断できないギフトを持っていたり対人に長けていたりする。


「ど、どうしやしょう」


 御者のオッサンが困った顔で此方を眺めてくるが、黙って金を取られるわけにもいくまい。


「相手が悪い」


「で、ですよね。ここは大人しく……」


「相手にとっての話だよ」


 武器を構える盗賊達の前に出ると、俺は指の関節を擦り鳴らす。

 こちとら幼き頃から対人の術を叩き込まれた人間だ。魔物を狩るのは得意だが、人をぶん殴る事はもっと得意だ。

 身内とずっと殴り合い蹴り合いをしてきたのだ。他人をボコボコにすることに一切の抵抗はない。


「お待ちなさい! ここは私にお任せするのです!」


 馬車から飛び出てきたのはミリカ。細剣を構え、意気揚々と声を上げる。

 颯爽と参上し、そのまま突撃を敢行。


「ちょっと待……」


「わー! 何をするんですかこの!」


 俺が止めようとした瞬間、ミリカは視界の外から飛んできた闇魔法の網に引っかかって捕まってしまった。

 相手を捉えるようなネット状の闇魔法、〈ブラックワインダー〉。

 応戦してきた時のために用意していたのだろう、サイドで魔術師らしき男が構えていたのだが……あまりにも呆気なさすぎて逆に驚いている。

 網は引かれ、ミリカが拘束されたまま盗賊の元に回収される。


「コイツに危害を加えられたく無けりゃ大人しく投降しろ!」


「………………」


 ぐぬぬと歯を食いしばるミリカに、人質作戦に出てくる盗賊。

 数は一、ニ、三……十ぐらいは居るし、一瞬で回収するのは難しいかもしれない。

 と、なればだ。


「や、別に持って帰ってくれてもいいぞ。そいつ一人ぐらいくれてやるから道を通せよ。エルフだし、高く売れるだろ?」


「な、なななな何を言うんですか! こんな可愛いエルフが捕まってしまったらその行く末は貴方も分かるでしょう! あんなことやこんなことまでされてしまいます! 助けなさい!」


 喚くミリカ。俺は「はて?」とトボけるように首を傾げる。

 それを受けてギャーギャーと騒ぎ、盗賊達はどうしていいものかと困り果てた様子。

 そんな時、バチリと一筋の雷光が走る。


「お困り?」


 ひょっこりと、馬車から顔を出したレナの雷魔法だ。

 ミリカの周囲に居る人間を退かせ、俺が前進する隙を作ってくれた。


「あぁ、助かったよ!」


 十五mは離れた盗賊達に向けて、スプリント。

 まだ雷撃に怯んでいるのを良いことに接近した俺は、側に居た短剣を構えている男を殴り飛ばす。

 刃渡りの短い短剣などを持っている盗賊は毒などを塗り込んでいるパターンもあるので先に処理をしておく。

 毒耐性のギフトもあるので余程のもので無い限り俺の動きを止めることは出来ないだろうし、そもそも掠らせることも避ける動きを心がけるが、慎重に越したことはない。


「ぐっ、何だテメェは!」


 先頭に立って発言を繰り返している、おそらく親玉であろう男が青龍刀を振り上げる。

 が、刀は振り下ろされることなく飛来してきた何かに顔をぶつけ、仰け反って……そのまま背中から地面に落ちた。

 後方から飛んできて親玉の顔に当たったのは氷の弾丸。つまり、シトラだろう。


 その後も馬車から降りてきたレナ、シトラ両名の援護を受けつつ盗賊達を鎮圧。

 二、三人重傷を負っているようにも見えるが、気のせいである。例え負っていたとしても自業自得だろうし。


「やー、よくやったよくやった」


 終わった後にぱちぱちと手を叩きながらやってくるエルゥ。

 一人だけ働かなかった奴が居るが、聞いてもどうせ馬車を守護していたとかなんとか言い出すだろう。

 実際、馬車や御者を狙われた方が困るので一人待機しておいてくれて良かった、というのも事実だし言うつもりは無いが……。

 言うつもりは無いが、それでも少し腹が立つな。


「うぐぐ……人間に助けられるとは!」


 足元で闇魔法に拘束されたまま蠢く物体。

 すっかり忘れていたが、そういえば捕まっていた。魔法を手で引きちぎると、ミリカを救出する。

 手を差し伸べると、ふんっ! と手を払って俺を睨みつけながらシトラの元へと駆け寄っていくミリカ。

 飽くまで礼を言うつもりはないらしい。まぁ、俺も彼女の身柄一つで盗賊と和解しようとしていたので礼を貰う立場では無いのだが。


「こら、ミリカ。ラースさんやレナさんに礼を言いなさい」


 シトラは義理立てるタチだからか、俺達への礼をミリカに要求する。

 むーっ、とむくれるミリカだが……流石に一国の王女からの指示は断れないのか、頭を下げる。

 レナに向かって。


「助けて頂いてありがとうございました!」


「ラースさんには無いのですか?」


 その礼の対象に俺が含まれていないことは明らかであり、シトラはすぐに指摘をする。

 するとミリカはいつものぐぬぬといった表情で、俺とシトラを交互に見やる。


「あっ、アイツは私を盗賊に売り飛ばそうとしたのですよ!」


「彼が本気で言うはずないでしょう。私達の援護を待った方が確実に盗賊達を倒せると踏んだからこそ話を繋げたのですよ。そうでしょう?」


 随分と都合のいい解釈をしつつ、俺に視線を向けるシトラ。


「……………………うん」


「アイツ、絶対そんなつもりじゃなかったでしょう! 間が証明していますよ、間が! やっぱりアイツ、嫌いです!」


 ギャーギャーと騒ぐミリカ。俺があからさまな態度を取ってしまったからかシトラもフォローできず、頭を抱える。

 対象が人間云々から俺が嫌い、という風に成り代わってしまった。


 ……たしかに、あの状況においてミリカを無傷で救出するにはサポートが欲しかった。

 そのつもりで時間を稼ぐ意味を込めて舌戦に持ち込んだのだが、べつに彼女の身柄一つで何とかなるならそれでも良いというのが本音だった為に、間が空いてしまった。


「やれやれ、ダメだなラースは。女の子にモテるには私のように口が達者でないと」


 俺の肩をポンと叩き、馬鹿にしたように鼻で笑うのはエルゥ。

 今回ばかりはその通りであり、まったくもって反論できない。

 もう少し達者に……か。こんな時だけスケコマシ手段に長けた父が羨ましいものだ。

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