港町
〈サージェスト〉を後にし、再び馬車に揺られる一行。
この世界は陸路における移動手段が基本的に馬車以外に無く、それ以外で速い方法となるとレナのように独自の魔法で高速移動するしかない。
俺やシトラ、エルゥも走れば相当な速さで移動することが出来るとは思うが如何せん荷物もある。
なので街から街へと移動する馬車を捕まえてお金を対価に運んで貰うのが一番なのだ。
ちなみに、ひどく高価ではあるが距離関係なく街から街へ、国から国へと転移する特殊な魔法石もあるらしい。
これも伝達魔法石と同じように出発と到着の為の二つの石が必要となる上、額も国家予算レベルになる。
シトラを探索するエルフ達の一人がシトラを見つけた時の為に持っているらしいが、残念なことにミリカではない。
先走って盗賊の魔法に捕まるような者にはそんな高価な物は渡されないのである。
実力はあると思うが、気質のせいでエルフの国の兵士としては評価は低いらしい。
俺もミリカに何かしらの役職を与えようとは思わないので、彼女がポンコツなのは人間・エルフ共通の認識だということだ。
「寝る」
〈サージェスト〉を発ってすぐ、エルゥが俺の膝の上に飛び込んでくる。
エルゥは寝やすいように俺を強引にリクライニングし、そのまま目を瞑った。
「彼女ほど神経の太い人間は見たことがないね」
それを見たレナのコメント。うんうんと頷くエルフ二名を見る限り、それもおそらく人間・エルフの共通認識だろう。
それから俺達は陽が落ちるまで揺られた。
道中数回魔物が出現したが、レナが対処。
そこらに生息する魔物というのは死んでも消えないので、珍しい素材だけもぎ取って死体はレナの雷撃で燃やした。
ダンジョンの外の魔物が死んでも消えないのは大昔に浸透しているが、理由は明らかでない。
ただ、ダンジョンの中に居た魔物が外で死んだ場合は消えてしまう、という法則がある。
なので根本的にダンジョンに生息する魔物は造りが違うのだろうと言われている。
俺はなんとなくではあるが、ダンジョンに居る魔物は……いや、ダンジョンそのものが大いなる思惑によって生み出されているものだと思っている。
ダンジョンというのは危険で、それでいて浪漫が埋まっている場所。
冒険者の中ではそんな認識だが、ダンジョンの役割というのはそれだけではないような気がするのだ。
冷静になって考えてみると、ダンジョンは攻略する度に何かしらギフトが手に入ったり、成長する。
それに、どうしても越せないような無理な仕掛けは無い。何かしら工夫すれば活路は見出せる。
前回のアンデッドのダンジョンも自分の弱さと向き合うような形だったし、ダンジョンは人間が成長するための場所のように思えてならない。
そして王都のダンジョンに入るように促したのはテザリーンだ。彼女は俺が成長するよう画策する節がある。
どこを目指して欲しいのかは知らないが、それらを結び合わせるとダンジョンは人間が成長するよう、神々の手によって創られている場所なのでは? という推論が立つが……。
正直、俺にとってはどうでもいい。と思いつつ外の景色に目をやった。
「あい、着いたよ!」
初めて見た、海という広大な水色。
月の光が反射して、神秘的な景色を演出している。
俺が今まで見てきた小さな湖とは違った趣がある。
久しく旅をしていて良かったと感想を抱きながらまだ眠るエルゥを叩き起こし、馬車を降りた。
「んー…………海だぁっ!」
馬車を出て背伸びをし、一息ついたところでようやく海に気がついたエルゥが高揚した様子で叫ぶ。
独特な潮の香り。彼女ほどではないが、遠い場所へやってきたという実感に俺も心が湧く。
はしゃぐエルゥを傍目に馬車の後ろにある荷物を回収。
運賃を払うレナ、そしてエルフの二人は海は初見では無いのだろう、特に感想もないようで平然とした態度で港町〈ボイストン〉を眺めている。
それを見てどこか恥ずかしくなった俺は上がったテンションを表に出すことはなく、海へと駆け出そうとするエルゥを確保して一足先に町へ向かうメンバーを追いかけた。
「まずは宿の確保、ですわね」
シトラが提案した途端、抗議するかの如くぐうとエルゥの腹の音が鳴る。
先に腹を満たしたいのだろう、エルゥの穢れなき瞳はそれを物語っているが、さすがに割り込むつもりはないのか大人しくしている。
ぺこぺこだと、お腹をさすりながら無言の訴えを続けつつも。
「……私が宿を取っておきますから自由に行動しても構いませんわよ。ミリカも」
「へっ!? わっ、私は大丈夫ですよお腹も減ってませんし!」
自分は構わないと言うミリカだが、タイミングよくお腹が鳴る。
恥ずかしそうに顔を隠すミリカ。
「二人のお守りは……」
二人の面倒を見る役目は、と言うシトラの視線は自然と……俺の方を向く。
ミリカを抑え込めない以上適任とは言えない気がするが、エルゥを抑える役目ぐらいなら。
いや、それも出来ないのでまるっきり適任ではないと思います。
「はあ、分かったよ。レナはどうする?」
「ボクは何度か来たことがあって地理は把握している。だから……どうしよう」
要するに俺達の案内か、シトラの案内か。
その二択で迷ったレナは優先すべきと思ったのかシトラを向く。
「私もこの町はこの大陸にやってきた時に数日滞在していたので、地理に関しては大丈夫ですわ。宿を取ったらすぐに向かいますので、ギルドで落ち合いますか?」
「オーケー、それならボクに子供達の面倒は任せてもらって、ラースはシトラに着いて行きなよ」
俺はその意外な発言に、いいのか? 聞き返してしまう。
子供達の面倒を見るのもそうだが、俺とシトラを二人きりにさせるとは思いもしなかった。べつに、宿を探すだけなのでやましいことはないのだが。
「フッ、エスコートしてあげなよ。女の子一人で行かせるのは忍びないしね」
な、なんという男前具合。当時から既に女騎士達の間でファンが居たぐらいだし、今のハンサム具合を考えればファンクラブが出来ていてもおかしくはない。
それじゃあ、とレナはエルゥとミリカを連れて歩いてゆく。
「………い、行きましょうか」
「あ、あぁ」
エスコートしてやれ、と言われたせいもあってか残された俺とシトラはどうも気まずい雰囲気の中、歩き出した。




