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俺の結論(2)

 本来、決闘が約束されていた時間になり、騎士達が規則正しく立ち並ぶ。


「……今日をもって私は騎士を辞める。後任はディリック・ゼーノルトだ」


 決闘は既に行われ、決着した。それは雰囲気で伝わっており、いつも通り朝礼が開始される。

 ボロボロのレナが俺の肩を借り、なんとか立っている状態で話しを始めた。

 いつもの柔らかい物とは違い、騎士長としての立場を考えた固い口調。

 しかし内容はとてつもなく責任を放棄した投げやりなもので、賛否……というか突然の辞任に対する戸惑いの声が騎士達から上がる。

 それを収めたのは、俺の父ディリックだった。


「静粛に!」


 普段、訓練以外でビシッとしていることなどない父が一喝すると、一気に訓練場の雰囲気が締まる。


「えー、レナ・ギルフィの言う通り本日付で騎士長に就任することになったディリック・ゼーノルトだ。

 突然上司が変わることに違和感もあるだろうが、諸君らにとってそれよりも疑問に思うのは俺が真面目に仕事をするのか、といったところだろう」


 よほど人望がないのだろうか、父の言葉に騎士達はうんうんと頷く。

 自覚しているなら改善のしようはあると思うが、息子としては情けないばかりだ。


「その点は安心してくれ。俺が騎士長を就任するにあたり、契約が交わされている。

 昨日、俺の息子でもあるラース・ゼーノルトに決闘を挑まれ、完膚なきまでに叩きのめされた。

 その際に引き受けた条件が騎士長に就任し、真面目に働くこと。それと女遊びを止めるということだ」


 騎士達の間ではあの女遊びに命を賭けたディリック・ゼーノルトが? などと馬鹿にされている。

 息子としてはやはり恥ずかしい事実だが、事実は事実だ。言われても仕方が無いだろう。


「え……」


 レナは驚いた顔で俺を見つめる。

 彼女との決闘の結果に自信があったわけではないが、勝った時にはパーティーに引き入れると決めていた俺は内々に話をつけていた。

 昨日の父との決闘はそのことだ。ちなみに、そもそも父に負けた場合はレナに勝てるはずも無いので、“何でも言うことを聞く”という条件を出した。


 負けた場合、ゼーノルト家を継がされ騎士にされていたらしい。後、魔法剣の返却と新しい魔法剣を買ってくること。

 付与魔法が珍しい世の中、魔法剣を手に入れることができる者なんて大富豪しかいない。

 俺がゼーノルト家を継いだ瞬間に財産を食い潰すことになっていたかもしれないと思うと、身震いする。


「故に、安心してくれ。書類などでの引き継ぎは後々やるが、実質的には今から俺が騎士長となる!

 とはいえ、騎士の仕事は何も変わらない。

 国の、民の剣となり、盾となる。正義の名の下に俺達は日々、治安を守るだけだ。俺からの挨拶は以上! 解散!」


 ディリック・ゼーノルトの騎士長就任に騎士達は戸惑いつつもなんとなくは納得した様子だ。

 自由人のわりに仕事っぷりには定評のある父だ。訓練さえ共にしなければ気もいいし、信頼はある。

 レナの就任前に一度次期騎士長を打診されていたようだが、それでも断っていたのは本人の気質の問題だ。

 体を張るのは良いが、机に向かうのは嫌。訓練嫌いの俺が言うことではないが、年齢を重ねてなんとまあワガママな。


「これでよかったんだろ?」


「あぁ、助かるよ父さん」


「んじゃ、とりあえずお偉いさん方に挨拶でもしてくるよ。その後に軽く仕事の引き継ぎに時間を頂くが、大丈夫か?」


 レナは父の問いに頷く。

 先に周りに報告して回ってくると言ったのは決闘の直後である俺達に対する父の気遣いだろうか。

 父が去ると、レナが騎士達に囲まれ軽い事情説明と別れの挨拶をしている。

 俺に対してはアレだが、他の人には至って普通の対応。


 レナから少し距離を取って眺める俺はそのギャップに不覚にも萌えつつも、視界に入ったエルゥとシトラに手を振る。

 朝礼が始まる前から居たが、タイミングを見計らっていたのか訓練場の隅っこで大人しくしていた。


「決闘は見ることができなかったけど、勝ったということでいいの?」


「勿論だ」


 親指を立てる俺に、エルゥは何が勿論だと肩を叩いてくる。

 決闘前の俺が勿論だと言うならまだしも、勝ってから余裕をアピールするのは確かにダサいかもしれない。


「それで、彼女は騎士を辞めてどうしますの?」


 薄々察しているのか、まさかパーティーに入るとは言いませんよね、とシトラの目が訴えかけてくる。

 エルゥも似たような視線で、「パーティーに入れます!」とは言いづらい雰囲気。

 レナにヘルプの視線を送ると、一通り挨拶も終わったのか、騎士達が離れてゆき……此方へと向かってくる。

 レナは俺の隣に立つが、二人とも一悶着あった為に堂々とはし辛いのか俺に助けを乞うような視線を返してくる。


 レナにパーティーに入れと言ったのは俺だし、説明責任はこちらにある。

 そう感じた俺は即座にエルゥ、シトラの両名に向かって──土下座をした。


「すまん! まこと勝手なお願いなんだが、レナをパーティーに入れてくれ! 頼む! すまん!」


 百年の恋も冷めるような、シンプルな力押しの土下座頼み。

 ちらと顔を上げてみるとエルゥは仏頂面で、シトラは困り顔。

 シトラの表情から内心は読み取れないが、エルゥは明らかに不満が顔に出ている。

 なんとか加勢してくれないかと隣を見上げると、レナも神妙な面持ちで腰を下ろし……両膝をつく。

 まさかとは思ったが、レナは地に手を付き、俺と同じように土下座を繰り出した。


「今までの非礼は詫びる。水に流してくれとも言わない。だけど、ボクは必ず君達の役に立ってみせる! お願いだ、パーティーに入れてくれ!」


 懇願するレナに合わせて、再び俺も頭を下げる。

 数秒の沈黙の後、やはり先に口を開いたのはシトラだった。


「顔を上げてください」


 びくびくしながら顔を上げると、シトラはいつもの優しい笑みを見せている。


「私達も散々煽り倒しましたし、非礼はお互い様ですわ。それに、ラースさんも熟考した上で出した答えでしょう。私は貴女を歓迎しますわ」


 流石の懐の深さ。シトラに差し出された手を、レナは感銘を受けながらも取る。

 ……言われて思い返せば揉め事の発端は彼女である。

 初っ端の挨拶から「今のラースさんのハニーです」だなんて煽り散らかしていたので非礼は互い様、というのは確かだ。

 ということを言うと今度は俺が揉め事の火種になりかねないので心に閉まっておき、未だ納得いかなさそうな顔のエルゥに声をかける。


「あの、そのー、エルゥさん。どうかレナをパーティーに入れて頂けませんか」


 なんと説得すればいいのか、俺には分からず再度頼み込む。


「なーにがパーティーに入れるだ。入れたいのは(しも)の方じゃないの。カラダで和解したんじゃないの」


 やはり怒ってらっしゃるようで、毒舌を交えながら腕を組み、頬を膨らませる。

 そもそも決闘はカラダで解決するものだと思うが、さておき根は深そうだ。


「殴られたことは忘れない」


 彼女が一番根に持っているのは王都に帰ってきて初夜のことらしく、その時に殴られたエピソードを持ち出してくる。

 すまないが一発二発殴られてくれるか、とレナに視線を向けつつも……流石にその発言はできない。

 だが、エルゥの怒りを解消するにはそれしかないとレナも感じているのかおもむろに立ち上がると、手を広げる。

 レナが立った際にエルゥは相当ビックリしていたので、怒りもさながらトラウマも深く残っているらしい。


「好きなだけ殴ってくれ」


 エルゥはその言葉で意図を理解し、ほっとしつつもよーしと肩を回す。

 ぐるぐると腕を回し、躊躇いのない一撃。

 あまりにも早い決断にレナは驚きつつも、エルゥの拳を鼻っ柱で受けた。

 小さな体には見合わぬ怪力がレナを吹き飛ばし、尻もちをつかせた。


「これにて終わりっ」


 強烈な一撃に鼻血を垂らし、ぽかんと呆けるレナ。

 フラストレーションを解き放ち、締めくくったエルゥだが…………何故か「いや」と首を振った。


「まだ足りない。でも、既にボロボロのレナをこれ以上殴るのは多少私の良心も痛む」


 まだわだかまりがあるらしく、エルゥは物足りなさを口にした。

 ──そして何故か、その視線は俺に向いた。


「元気なラースが代わりに、数発受けてくれれば万事解決すると思うけど、どう?」


 どうと言われましても。俺は困りつつも、受けるしかない雰囲気の中で頷く他なかった。

 〈バーサーク〉を使っていない俺に対し、エルゥの物理攻撃は正直な話、有効だ。

 さっき肩を叩かれるだけでも痛かったし、ストレスを乗せた拳を受ければ俺だって溜まったものではない。


 だけど、今回の件は俺にも一因がある。レナが夜這いをしてきたのも元を辿れば俺のせいなのだし。


「さ、一件落着パンチで締めくくろう」


 再び腕をぐるぐると回すエルゥに、俺は目を瞑る。

 この度、屈強な精神力を手に入れた。痛みを、力を、愛を恐れない。

 俺が殴られることで問題が解決するのであれば、何度だって受けよう。

 という強靭な精神力を盾に、空を切って放たれるエルゥの拳を受ける。


「一件落着……!」


 思った数倍の衝撃が俺の顔にねじ込まれ、エルゥのストレスが発散される。

 強靭な、精神力……。

 そんなものは何の盾にもならない。それを実感しつつ、俺は殴られ役を買って出た後悔を抱え地面に倒れ込むのであった。

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