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孤独と仲間(2)

「都会……」


 ダンジョン攻略から日が明け、俺達三人は街に出ていた。

 傷は完治していないが、充分に動ける。問題は俺の心の方だった。

 王都のダンジョン攻略がメンタル強化に役に立つ、とテザリーンは言っていたが……実感はない。

 むしろ、悩みが増えたのである。俺がレナに言いかけた言葉、アレがどうも俺の中で引っかかって仕方ない。


 べつにメンタルの弱さ強さというよりは単なる悩み事なのだが、ううむと悩んでいる俺を見てかエルゥが連れ出したのだ。

 シトラも一緒で、魔法剣を見事俺の物にしてくれたお礼に何か買うと言うと喜んでいた。

 ま、個人的な出費は基本的に無いので有り余っている。


 〈サージェスト〉では氷のダンジョンの下見の為に盾とか買ったが、それを上回る収益がある。

 こっそりと珍しい〈リッチ〉の〈魔核〉を一つ取ってきたのだ。何を求められても大抵は事足りるだろう。


 ちなみに〈リッチ〉の〈魔核〉が珍しいと言われるゆえんは簡単、倒すのに〈魔核〉を壊す必要があるからである。

 〈魔核〉は胸骨に囲まれていて、骨とも強い魔力の結びつきがあって中々離れない。

 加えて取りだそうとすると突っかかるのだが、俺は接近してから素手で骨をもいで、更に〈魔核〉も腕力で引き剥がして回収した。

 こんな戦い方ばかりしていると〈鉄壁要塞〉から〈脳まで筋肉男〉なんて通り名で呼ばれかねないので自重したいところだ。


「この国はそこまで発展してない方だって聞くけどな。他の国に行ったらもっと凄い施設があるらしい」


「それでもあの街で育った私にとっては目新しい景色。何度街に繰り出してもびっくりする」


 エルゥは大層満足で、出ている露店に何度も立ち寄る。

 飯、飯、飯。女の子らしいところを探す方が難しいぐらいには彼女の生活は飯で埋まっている。

 あの街……〈サージェスト〉もそこまで田舎ではないのだが、王都と比べるとたしかに街自体の規模が圧倒的に違う。


「見て、ラース。可愛い服。アレはぷりてぃーを極めた私にこそ似合うものだと思わない?」


 俺達が停止したのは服屋の前。

 珍しく食以外に足を止めたかと思うと、サンプリングとしてケース越しに飾られてある服を指して寝ぼけたことをぬかすエルゥ。

 実際そこらの少女より群を抜いて可愛いのだが、中身がこれのため認めたくない感情が大いにある。


「中身の腹黒さが出てぴっダッ……!」


 エルゥにまだわずかに痛みの残る胸部を殴打される。

 彼女が普段着ている受付嬢の服は白を基調に水色が混ざった、爽やかで、目に優しい清純なもの。

 それとは対照的で、ふりふりひらひらとした黒のワンピース……? ドレスにも見える。

 あまりにもごてごてしていてどこに注視すればいいのか無頓着な俺にはよく分からないが、着る者が着れば可愛いのであろう。


 エルゥが着ても似合うに違いない。美少女とはいっても“容姿に関しては”派手な感じではなく、大人しそうな雰囲気だし、マッチしている。

 言った通り中身の黒さとも合致している。


「ふんっ、もういい」


 エルゥは俺の言動に機嫌を損ねてしまい、先々と行ってしまう。


「ふふ、相変わらず乙女心が分かっていませんわねラースさんは。何やら昨晩から悩んでいる様子、お城にてレナさんとも何かあったのでは?」


「いや…………まぁ、それはそうなんだけど」


 シトラに指摘され、図星だったので違いますとも言えず照れ隠しに頬を掻く。

 正確にはあの場で何も起こらなかった、いや起こせなかったことが俺にとっては引っかっているのだが……上手く立ち回れなかったことには違いない。

 しかしいつもながら勘が鋭い。エルゥから何か聞いたのだろうか。それとも、持ち前の読心術?


「いけませんわね、いけませんわ」


 やれやれ、と呆れた様子で首を振って早足でエルゥに追いつくシトラ。

 決して走らないところが優雅で、高貴である。


「エルゥ。今の服、ラースさんが買ってくれるみたいですよ」


「! ん…………い、いいもん」


 唐突に何を言い出すのかと驚いたが、完全に拗ねてしまっているエルゥは簡単には崩せない。

 大分揺らいだようにも見えたけど。


「そうですか? 彼は照れ屋ですからね、素直に可愛いと褒めるのが嫌ではぐらかしただけです。私も着た姿が見てみたいですわ。さ、戻りましょう?」


「むう……」


 むくれているエルゥだが、段々と表情は軟化してゆく。

 シトラに手をぎゅっと握られ、渋々踵を返すとそのまま俺を睨んだ。

 強大な迫力を持つ〈氷の巨人〉や〈リッチキング〉を前にしても前進していった俺だが、小さなエルゥに気圧される。

 思わず後退りしたのは、滅多にない事だった。


 だが、シトラにアイコンタクトを送られて逃げ出したい気持ちをしまい込む。

 フォローしたのだから何か言えと、そういった顔だ。


「わ、悪かったよ。あんまり素直に可愛いとか言えなくて…………その、そういうアレなんだ」


 我ながら情けない対応。エルゥは前まで来ると、顔を背ける俺をじっと見上げてくる。

 無言の圧が、数秒間。たった数秒間だが魔物より恐ろしい女性という種族のオーラに対して小動物のように震えながら待つ。

 やがてエルゥは「ふっ」と笑って俺の肩をバシン!と叩いた。


「追加で何か買ってもらうから」


 一転、上機嫌で服屋に入っていくエルゥ。


「女の子には思ってなくとも優しい言葉をかけてあげるといいですわ。あと、私に何か買ってくださるという約束も、代わりにエルゥに服を買って差し上げていただければ大丈夫です」


「そんな、何度も借りを作るようで悪いよ」


「ふふ、いつか返していただければ。エルゥのように言うならば、貸し一……ですね」


 人差し指を立てて、妖艶にも口の側に持っていくシトラ。

 あ、あざとい。あざといが、不覚にもドキッとしてしまう自分が居た。


「それに、私の欲しいものはラースさんは買えないでしょうから」


「ん、頭に入れておくから何か聞かせてくれないか?」


 俺には買えない、と言われて黙っちゃいられない。

 甲斐性があるんだぞ、という男としての謎のプライドが駆り立てた。


「うーん、旦那様とか?」


「へ?」


「冗談ですよ、冗談。内緒でーす」


 首を傾げる俺に、シトラはニコッと笑って服屋に入っていく。

 旦那様、それはたしかに金では買えない。

 しかしシトラがそれほど結婚相手を欲しているようにも見えないし、ジョークだろうか。


「はやく」


 悩む俺に、服屋の入り口からひょっこりと顔を出したエルゥが急かす。

 ……ま、いいか。深く考えても答えは出なさそうだ。

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