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孤独と仲間

 目を覚ますと、どこか見覚えのある部屋に居た。

 ……城の、医務室か。

 何度か運ばれたことのある部屋だ。内装が少し変わっているが、おそらく城の医務室だろう。


「ん」


 側に気配があると思って視線を向けると、そこには背もたれのない丸椅子に座り、腕と脚を組んで器用に寝ているレナの姿があった。

 どうやら変な場所に連れ込むつもりではなかったらしい。


 少しでも疑う感情があった俺は申し訳ないと思いつつも、ベッドを降りる。

 体はあまり痛くない。骨が何本か折れたという確信があったのだが、何か処置が施されただろうか。

 服の下に包帯が巻かれている感覚があるが、それが治るに至るはずもない。おそらく治癒魔法でもかけられたのだろうな。


 俺は器用な体勢で寝るレナを脚ごとすくい上げ、俗に言うお姫様抱っこで俺が寝ていたベッドに移す。

 決闘相手なので馴れ合うつもりはない。治療してくれた恩はいつか返そうと、俺は踵を返す。


「なんだ、襲うわけじゃないの」


 声が聞こえ、去るのを止めた。

 振り返るとレナが半身を起こし、残念そうな顔でこちらを見上げている。

 襲われる気が満々だったのか、服を少しめくり上げてお腹をちらと見せている。

 その策略にまんまと釣られて視線は向くわけだが、冷静を装いつつ椅子に腰掛けた。


「治療してくれたみたいだな、ありがとう」


「ま、したのは救護班だけどね。ボクは運んだだけ」


「それでもありがたいよ。ボロボロの状態だったし」


 そこで会話が途切れ、俺は脚を組み交わす。

 寝転がっているレナと目が合い、なんだか気まずい雰囲気が流れる。

 視線がずっと交差しているのは変だし、かといって逸らすにも逸らせない圧がある。

 十数秒ぐらいだろうか、見つめ合っていると先に視線を外したのはレナ。

 ごろん、と寝転がって天井を見つめた。


「冒険、楽しい?」


 何の捻りもない、至って普通の質問。

 唐突な世間話に俺は戸惑う。相手は数日後には決闘を行う相手だ、馴れ合っていると幼馴染ということもあって情が再び湧き出てくると思ってそそくさと立ち去りたい気持ちだったのに、「いや、決闘相手だから!」と答えないような気分ではなくなる。


「あぁ、楽しいよ。人それぞれ楽しみ方はあるだろうけど、ダンジョンを攻略してる瞬間が一番好きかな。どんな職業でも一緒かもしれないけど、きちんと前に進んでるっていう実感を得た時に気分が上がる」


 べつに面白くもなんともない、真面目な返し。

 真剣に語ってしまったが、エルゥに話せば「あっそ」と返されとしまいそうな話だ。

 レナにも「そ」の一言で返されてしまう。

 だが、その一言には悲壮感や寂しさが込められているような気がして……気まずくなって、再び静まり返る。


「ボクも……………………」


 言いかけて、レナは止める。

 自分も冒険者になればこんな展開にはなってなかったかもしれない、と言おうかと迷ったのかもしれない。


 もしかするとレナが冒険者になるという世界線もあったのは事実だ。

 彼女が騎士を選んだのは両親を亡くし、騎士に囲まれた環境で過ごしたのもあるだろうが、昔一度聞いた話によればギルフィ家の汚名も挽回したかったらしい。

 父は女遊びの挙句クスリに漬かってしまったし、母も酒に溺れて歩き回っていた。


 ギルフィ家の名誉を挽回するにはお偉いさんになって、国に貢献する。

 その宣言通り、おそらく沢山あったであろう陰口や逆風を乗り越え、騎士団長という座に着いた。

 それは自由人として生きている俺からすればとてつもない偉業だと思うが、もっと幼い頃。


 物心が付くか付かないかぐらいの頃、レナはただの大人しい少女だった。

 貴族の会合などに連れて行かれてうんざりしていたその頃は平和的な夢ばかりで、パン屋になりたいとか、田舎でのどかに暮らしたいとか、旅行して綺麗な景色を眺めたいとか。

 やがて歯車が狂い始めた頃、俺の訓練を眺めていたレナが一緒に参加するようになって、ぼそっとこぼした。


 両親のもとから逃げ出して、遠く離れた国で冒険者にでもなって暮らしたい。

 一緒に、と。


「あのさ、レナ」


「あれ、意外と元気」


 俺が言いかけたところで、医務室に空気の読めない者が一人入ってくる。

 エルゥだ。レナを見た後にエルゥを連続して見るとスタイルの差があまりにも残酷な現実だが、ともかくとして。


「なんでここに?」


「連絡を受けたの、ラースが倒れてたからお城に運んだって」


 気を利かせてくれたのだろうか、と思いレナの方を見ると、エルゥに背を向ける形でベッドに丸まっている。

 早く行けと、手で追い払うようなジェスチャー。


 ……俺は帰る場所があって、彼女にはない。

 そんなことずっと昔から分かっていた筈なのに、歳を食ってその対比を考えて、切なくなる。

 持っている者が何を言っても嫌味にしかならないのだろうが。

 怪訝な表情のエルゥを連れて、部屋を出る。


「なんかあったの?」


「や、何も無かった」


「? そっか」


 頭の上にハテナマークを浮かべるエルゥだが、それ以上追求してくることはなかった。


「ラースさん、ご無事でしたか」


 城を出ると、シトラが待っていた。今回の騒動の火種は彼女だし、レナと顔を合わせづらかったのかもしれない。


「や、無事ではなかったよ。ダンジョンの主が思ったより強くて苦戦したんだ。正直、負けかけた」


「あ、ちゃんと攻略したんだ。道で倒れてたって聞いたから他の誰かがクリアしたのかと思った」


 俺のことを全く信じていなかったらしく、エルゥはしらっとそんなことを言った。

 たしかに、勝った者の姿とは言えなかったが前回の氷の巨人と戦った後だって三人ともボロボロの状態で出てきたのだ。

 ランクの高いダンジョンはそういうものである。

 熟練の冒険者でも命からがら攻略できるか否やといった難易度だからこそ、高ランクなのだ。


「んじゃ、その話は後で聞くとして……君のパパがさ」


 エルゥはどうしても話したいらしく、ウチの父とシトラが対決したことを語り始めた。

 シトラは気恥ずかしそうな表情をしていて、簡潔に話して欲しいと言うがエルゥのシトラ自慢は止まらない。

 珍しく赤面するシトラに、相変わらずペラが回るエルゥ。


 ……仲間、か。


 今回は一人でダンジョンに潜ったが、やはりパーティーの輪の中に居るのが一番安心する。

 しみじみそう思う俺であった。

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