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恐怖

 ダンジョンを行く俺は、みっともないことに先を進むパーティーの後をこそこそと着いていくという進み方をしていた。

 利口な手法ではあるのだが、いわゆる漁夫の利狙いだったり魔物の死体のおこぼれを狙う低俗な冒険者として扱われて良い目では見られない。

 これで攻略しても自力至上主義のようなところがあるエルゥには叱られるかもしれないが、地理に詳しくないのだから仕方あるまい。


 エルゥやシトラの本職ほどではないが、気配をなるべく消して……魔法剣もしまって後を着いていっているので気付かれてはいない。

 気付かれたところで向こうも着いてくるなとは言うまいが、個人的な羞恥心を捨てきれない故に、この隠密行動である。


 それもあって、無事四階の中腹辺りまで来たろうか。

 追っていたパーティーは四階付近で魔物を狩るつもりだったらしく、そこからは単独行動。

 フロアは暗いし遮蔽物も多いが、開けている。

 なので遠くの方に大きな光が見え、そこが転移魔法陣の場所だろうと当たりをつけて進むわけだ。


「〈ドラゴンゾンビ〉」


 そこに待ち受けていたのは竜の屍。

 すでに生命はなく、肉の大体も削げ落ちている。

 だが、強い。普通のドラゴンとスペックは変わらないが、遥かに厄介な点が一つある。

 それはブレスだ。暗黒の瘴気を孕んだ息をなりふり構わず辺りに撒き散らし、敵の動きを止める。

 おそらくコイツ一匹の前に壊滅させられたパーティーは後を絶たないだろう。


 そんな〈ドラゴンゾンビ〉の対処法はただ一つ。


「先手必勝……!」


 まだ俺に気が付いていない〈ドラゴンゾンビ〉に魔法剣〈ウルト・ゼーノルト〉を抜刀すると同時に斬り払う。

 気が付いていない……はずだった。

 が、すんでのところで〈ドラゴンゾンビ〉は骨の腕で剣を受けてみせた。


 ──この程度なら!


 こちらはもとより断ち切るつもりで剣を振るっている。

 ガッ、と骨に剣がめり込み──両断。

 魔法剣の威力は竜種の堅牢な骨にも通用し、あっさりと〈ドラゴンゾンビ〉の腕を破壊した。


「骨を切らせて、ってか」


 ゾンビに痛覚などない。腕が切断されたことに対するリアクションなど皆無の〈ドラゴンゾンビ〉は、片腕を囮に逆の手で凪払おうとしてくる。

 だが、こちらも片方が塞がっていようと逆の手がある。


 利きとは逆の、左の手で対霊剣を抜くとその勢いのまま迫りくる腕を真っ逆さまに斬りあげる。

 〈ウルト・ゼーノルト〉ほどの華麗な切れ味ではないが、充分。

 前腕と背筋に力を込め、〈ドラゴンゾンビ〉の腕を切り飛ばした。


 両腕を落とした俺は、間髪入れず〈ウルト・ゼーノルト〉を振りかぶり──〈ドラゴンゾンビ〉の胸部へ一閃。

 薄く貼った肉を裂き、骨を砕く。

 至高の一本が放つ光刃は、〈ドラゴンゾンビ〉の〈魔核〉にまで到達すると、容易く貫通してゆく。


 スケルトンなどはただの骨なので〈魔核〉は存在しないが、コイツは元は竜種だ。

 高位のアンデッドは魔力を駆使し、魔法を使う。なので〈魔核〉が存在する。

 ややこしいのが〈魔核〉を持つ魔物でも壊せば死ぬタイプと壊しても魔力を失うだけのタイプが居るということ。


 これは死してなお活動するエネルギーを〈魔核〉から得ているか、超常の原理で得ているかの違いらしく、例えばこの〈ドラゴンゾンビ〉は〈魔核〉を壊しても死なない。

 ちなみに超常の原理は一説によれば〈不死〉のギフト持ちだから、と言われているが解明はされていない。


 そして、このダンジョンのボスだと言われている〈リッチ〉もアンデッド系の魔物だが、その生命は大きく〈魔核〉に依存している。

 なので、壊せば死ぬ。

 だからボスだけを倒すのであれば特別な装備は必要ないが、〈ドラゴンゾンビ〉などの厄介な敵を処理するのに対霊剣や魔法剣が有効なので持たざるを得ないのだ。


 〈魔核〉を失って勢いを削がれた〈ドラゴンゾンビ〉の頭部を〈ウルト・ゼーノルト〉で切り刻むと、俺は再びダンジョン探索を再開した。

 S級と言われるだけあって難儀な敵がひしめいている。


 空を飛び、鎌という冒険者達が慣れない武器で急襲してくる〈レイス〉。

 〈スケルトン〉も槍や剣、弓などの武器を持っており、対魔物というよりは対人の駆け引きや立ち回りを求められる。

 首を飛ばしても稼働する〈スケルトン〉にやられた、という冒険者も意外と居るらしい。

 素早く動く〈ウルフゾンビ〉なども面倒だし、なんといってもこれらの魔物は〈気配探知〉で引っかからないのが一番の難点だろう。


 何故なら死んでいるからというのが原因らしいが、先手を取ってなんぼの俺達冒険者にしてみれば勘弁してもらいたい事案だ。

 よって、頼りになるのは視力や音による探査。

 あとは魔力を持つものであれば〈魔力感知〉には引っかかるので持っているものであれば有用だが、俺にはない。


 一人で全方位への意識を割かなければならないわけで、改めて一人でダンジョンを進んだことを後悔しつつ……四階を突き進む。

 アンデッド系の魔物は地中から這い出てくることもあるので、まさに全方位に気を配らなければならない。

 とはいえ気にしていては仕方がないので主に耳を頼りに、〈ウルト・ゼーノルト〉で照らしつつガンガン歩く。

 面倒な魔物は無視だ。アンデッド系のダンジョンはいかに体力・気力を失わないかにかかっているといっても過言ではない。


 とっとと抜けよう、そんな考えが功を奏したのか歩くこと数十分、数回の戦闘を経て四階の転移魔法陣にたどり着いた。

 壁際などではなく、完全に通路のど真ん中にさも当然かのごとく佇む魔法陣。

 辺りには魔物もちらほら見え、油断できるような場所ではない。

 が、それでも俺は一度足を止めて休息を取る。


 どれだけの時間が経ったろうか。腹も減り、喉も渇いた。

 エルゥ達は心配……いや、エルゥは心配するとかそういうタチには見えない。

 シトラに関しては考えていることがよく分からないし、どうだか。彼女はあまり本心らしい本心を見せないので読めないところがある。


「……うし」


 それでもSランクダンジョンを攻略してきました、といえば「よくやった」と労いの言葉ぐらいくれるだろう。

 と、思わなければモチベーションが上がらない。

 俺は半ば無理やり攻略後を楽しみにしつつ、五階へと踏み入れた。

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