頂点への手応え
エルゥの嬢ちゃんが帰省して時間ができ、暇を持て余したアタシ達はぶらぶらと王都でショッピング。
──したのも初日だけ。
二日目はゼーノルト邸の庭を借りて訓練に励むというある意味いつも通りの日常を過ごしていた。
ラースは出かけているが、アタシとレナ、シトラが残っている。
対するは〈勇者〉の面々。ダメージの大きいディオはゆっくりとアタシの隣に腰掛けており、まずはトライとレナが対面した。
リアもトライもまずまず重傷だったはずだが、回復魔法に加えてトライは魔族という種族の特性である異常なまでの自然治癒。
リアは〈魔導武術〉の自己治癒術である程度体力が戻っていた。
二人とも正真正銘のバケモノである。二度と相手したくねえな、と思いながら眺めていたアタシだった。
が、更に上をゆくバケモノが身内に居ることを知らされる。
「えげつねえな」
アタシがそう口にしたのはレナの闘いを観戦してのことだった。
例の魔族の力を解放する技を使っていないとはいえ、雷による滅多打ちである。
しかも剣を使っているわけでも遠距離から魔法を放っているわけでもない。
素手に雷を纏って撃ち込む、リアの〈魔導武術〉に似たもの。
レナの雷を纏う技術は組技の概念を壊す。いや、接近戦すらままならないかもしれない。
ただ、着眼するべき点はそこではないだろう。彼女の動きには一切の無駄がない。
まずトライのパンチを軽くいなし、最短のカウンターを叩き込んだ。
それから雷拳による三連撃を打ち込むが、そこはタフなトライ。
距離を取ろうとするが、先読みしているかのように着いてゆく。
レナはずっとぴったりと密接な距離を保ち、敵をゼーノルト邸の壁際まで追い込んだところで蹴りを放ち動きを抑制。
どうしようも無くなって苦し紛れに反撃に出たトライに対し、更にカウンターを喰らわせたところで勝負は決した。
「たまには剣を持たないのも良いものだね」
ずるりと崩れ落ちたトライを尻目に、さっと爽やかに髪をかき上げたレナは踵を返した。
彼女の本懐は武器を使った戦い、並びに雷魔法による圧倒的な加速にあると言う。
それが素手でこの強さとは、あまりにも規格外。おそらく強いであろうということは佇まいなどで察していたが、流石は対人のプロといったところだろうか。
「それは、王国の武術?」
リアが興味を持ったのか、拳の関節を擦り鳴らしつつ──レナの前に立ちはだかった。
「違う」
きっぱりとリアの問いを否定したレナは、不敵に笑う。
「愛の結晶さ」
あまりにも自信満々、そして爽やかに言い切る彼女の言葉には謎の説得力があったが、リアは納得がいかないのか首を傾げる。
レナの強さはお家への想い、そしてラースへの愛がもたらした結果だという。
それは〈バーサーク〉にも似た狂気とも言えるだろう。
なんせ家の没落、父の死に続いて母や義父になる予定だった人物を手にかけた。
そんな状況で頼るものがラースしかなかった状態から積み上げたらしい強さだという。
ラースが彼女の前から逃げ出したいうのも中々悲惨な現実(笑ってしまいそうにはなった)だが、それが皮肉にも彼女の強さを加速させたのかもしれない。
「そんなにいきり立たずとも、今すぐお相手しますわよ」
リアの前に立つはシトラ。だが当のリアは少し残念そうな表情で、仕方ない相手をしてやろうといった態度だ。
彼女の“見立て”ではシトラは相当格下に位置付けられているのだろう。何であればミリカと同じレベルだと思われているかもしれない。
ちなみにミリカは昨日は王都を満喫していたが、今日の朝に国へ帰った。
潔いでしょうと胸を張っていたが、ここまで着いてきただけでもかなり図々しかった気もする。
「では、始めましょう」
丁寧に一礼したシトラを相手に困惑気味のリアだったが、遠慮なく距離を詰めていく。
シトラは装備からして一目でサポート職と分かる格好をしている。そんな彼女が素手という条件で本職であるリアに敵うはずがない。
──といった、油断なのだろう。
容易に踏み込み、容易に打ちこんだ蹴り。
それは容易く、シトラに捌かれる。
「!?」
リアが驚いた表情を見せたのは、おそらく単に蹴りを防がれた事実に対してだけではない。
相手の行動に対して更に踏み込み返し、蹴りが加速する前に払い落としたという判断力も目を見張るものがあったのだろう。
まぁシトラの能力を知っている側からすれば、当然と言えば当然だ。
完全にリアが蹴りを放つ前に動き出しているのでアタシがリアと戦っていたのを見て学習したはず。
彼女にしてみれば〈先見〉の範囲内の行動だったろう。
シトラはお返しとばかりに腹部に掌底を叩き込むと、逃がさないとリアの腕を掴んだ。
だが、リアの腕を取るというのはアタシがしてやられたパターンだ。力の流れを操られ、強引に体勢を崩される。
シトラもその道を辿る、そう思ったが……現実となることはなかった。
「なるほどね」
冷や汗が伝うリアが見せた笑顔は、シトラを強敵だと認めた証拠だろう。
あの謎の崩し技を発動させないのは、おそらくアルコット家の護身術によるもの。
力を使わず、相手の力の流れを操って制する。つまりはリアのそれと似た技術がエルフ王家には伝わっている。
まぁ父とかは“敗者の技術”なんて言って馬鹿にしているし会得もしていない。あの人は力でねじ伏せたがるタイプなのだ。
アタシも会得していないが、父のような偏見があるわけではない。向き不向きもあるし、いわゆる柔と剛の違い。
破壊を求めるアタシは攻めて破壊する技術ばかり学んできたが……。
「が……はっ……!!」
腕を掴まれたまま再び掌底を腹部にねじ込まれたリア。シトラは続けて執拗なボディ攻撃──膝を突き刺した。
これを見る限り、少しぐらい習った方が得をするかもしれない。
是非姉妹の交流を深めるためにも教えていただきたいところだが、アタシを疎ましく思っている面もあるシトラが素直に師事してくれるだろうか。
それから、何とか拘束から逃れたリアとシトラの互角の攻防が永く繰り返される。
互いに息もあがったところで、止め。
「……貴女達、悔しいけど強いわね」
勝負も終わってリアの方から握手が求められる。
「いえいえ、まだまだ……あら」
それを受けたシトラだが、油断していたのかリアにさらっと転がされてしまう。
「ふふ、たしかにまだまだね」
悪戯っぽく笑うリアは、疲れた疲れたと腰を下ろした。彼女なりに一矢報いたつもりなのだろう。
……まあ、甘いところはあるがリアの言う通りしトラは強い。正直まだ疑っていたというか舐めていたところはあったが、いつの間にか立派になっている。
「…………」
妹を幼い頃から陰ながら見ていた側からしてみれば、感慨深いものがある。
そんな嬉しさがバレぬよう、表情を隠しつつ……感じた手応えにぎゅっと拳を握る。
シトラだけではなく、このパーティーは強い。世界の頂点に立つダンジョン、挑むに不足はないだろう。




