父の後悔と
昼過ぎ、〈サージェスト〉に帰ってきた私は早速通い慣れたギルド〈EL〉で食事を取っていた。
何をするにも食。そして肉である。肉が無いと私は気が狂いそうになるし、動けない。
そんな私の前に、不可思議そうな顔をした父がやってくると、腰を下ろした。
この暑苦しい顔、そして筋肉を誇示するかのようなタンクトップ姿。
中々に食欲の失せるものがある。
「どうした? 皆が居ないじゃあねーか」
「激しい戦いの後で、休暇中。次のダンジョン攻略までの準備期間として私はこの街に用事があって、一人で行動している」
「ふーん、まあこの街にゃ大したモンは置いてねえけどな」
いつもの仏頂面でテーブルに頬肘をつく父に、心の中で頷く。
言っちゃ悪いがそれはそうだ。小さい頃から私は王都に憧れがあったし、様々な景色を見たかった。
だが世界を少し見てきて思うのは、なんだかんだ故郷の風は馴染むということである。ギルドの喧騒も、父の暑苦しい顔もたまには悪くはない。
……いや、やはり食欲が減退するな。もう王都に帰りたい気分である。
「暇そうなら、パパの昔のパーティーメンバーであるガイアさんのことでも教えてくれない?」
パパの眉がピクリと上がる。
他人からこの話を切り出すのは本来タブーである。
それもパパがあまり話したくない事であることを一番理解している私が尋ねるのだ。
少しぐらいの怒気は降りかかってくるかもしれない。そう思いつつ私は食事から父に視線を上げてみると、怒りかというよりはやや困惑したような表情だった。
何故今、その話を? という顔である。
「…………」
食事の手を止めた私は、一旦口の中のものを咀嚼し終えるとジュースで一気に流し込む。
「〈キングスクラウン〉に行くの、私達」
今言うか言うまいか、という迷いは多少あったがどうせ伝える話だ。
タイミングの問題で、私の覚悟の問題。
対して父の眉は歪みっぱなし。やはり怒りは感じられないが、親として先輩冒険者として非常に複雑といったようなものに見える。
「実は昨日〈勇者〉と私達のパーティーが戦ったの。今の実力が知りたくてね……その噂は〈サージェスト〉にもじきに届くはず」
「既に号外だぜ。ラースが王都の闘技場で派手に世界一の戦士をぶっ飛ばしたってな」
アイツならやると思ってたよとどこか誇らしげな父。
しかし、情報屋は駆けつけるのは早いが、リサーチ不足である。
「私も戦ったんだけど、載ってないの?」
「エルゥのエの字も載ってなかったが」
「そう」
その事実に肩を落とす。辺り一帯を巻き込む大勝負だったのに、じぇんじぇん誰も見ていなかったと?
トライも人気のない場所を選んだのであろうが、それにしても付いていない。
何故エルゥ様の活躍を記事にしないのか? 不満極まりない。
そんなことはどうでもよく、本題があるのだ。
「それで、〈勇者〉と戦った後に話をしたんだけど、一度踏み入れた彼等の話によるとどうやら〈キングスクラウン〉のダンジョンは死んだ冒険者が蘇って魔物と化す場所らしい」
「なにっ!?」
驚いた表情を見せる父は、腕を組んで考え込む。
「そういやアンデッド系の魔物が多かったような、そんなこともなかったような」ととぼけた事を口にする父に、大丈夫かコイツと不安になりつつも話を進める。
「それで、ガイアさんが蘇っていてなおかつ他の冒険者に倒されていなかったとすれば、私が倒そうと思う。遺品とかすら持って帰ってきていないでしょ?」
「ううむ…………そりゃ俺にとってはありがたいことだが、〈キングスクラウン〉に挑むにゃ早計じゃないか?」
予想はしていたが、父は私達が頂点へ挑むことに否定的である。
ただ、猛烈な反対ではない。私達の実力は認めつつも、実際に行った父からしてみればそれでも心配といったところなのだろう。
「…………」
まだ早いという意見を出した父に、私は返答することなく食事を再開する。
何を言われようと行くことは決めているが、頑固な父を崩す論理が思い浮かばない。
実は猛反発してくるものだと思っていた。その時はボコボコに殴って「私達は強いから」と言って認めさせるつもりだったのだ。
それがやんわりと来られては計算が違う。私達なら大丈夫」と押し切ってもいいが、根拠のない言葉を返すのも何か抵抗がある。
一体どうして説き伏せればいいのか。そう思いながら肉を頬張る。
「べつに焦って攻略するつもりはない。数日かけて現地を下調べをしつつレベルアップをしつつって構想。
正直、ラースをダンジョンに放り込んで暴れさせておけば楽に奥の方に進めてしまう。
でも、あのメンバーの中じゃ私が抜けて一つ下なの。きっちり実力を揃えて心残りなく攻略したい」
最早クリアは当然、私にとってはそういったものだが、これは油断でも慢心でもない。
伝説級の冒険者だろうが何だろうが、ぶっちゃけあの域に至ったラースが居れば問題にならない。
ただ、彼の力で攻略できたという結果になってしまうのは私の冒険者としてのプライドが許さない。
それだけの話である。
という私の話に、父は腕を組んだまま口をつぐんだ。
思考を巡らせているのだろう、目を閉じて思考にふける父。
「──お前は昔から大口叩きではあるが、嘘つきではない」
数秒して目を見開いた父の言葉は、やや肯定的なもの。
「信じるぞ、エルゥ」
「まかせんしゃい」
これから豊かに育つであろう胸を叩き、父の言葉に応える。
正式に許可も降りたということで、私は紙とペンを取り出す。
「はい、ここにガイアさんの特徴をお願い」
テーブルに置いて突き出すと、うむと言って父は筆を走らせる。
パパにしてみればかなり古い記憶だろうから、絵付きとは頼まなかった。彼に絵のセンスがあるかと言われれば、昔から無い方だし。
でも。
「…………」
忙しなく筆を走らせる彼を見ていると、冒険者時代の事は強く頭に残っているのだろう。
酸いも甘いも、全て。
私はいつかこうして過去を振り返る時が来るのかもしれない。その時に出来るだけ後悔を思い出したくない。
ふと、そう思う私であった。




