激闘(6)
新作のストックを真面目にため始めるのでこれからは多分水曜日に更新すると思います
もしこっちのもたまれば水日あたりに
「シャアッッ!!」
大斧を軽く持つトライの初手は、当たりもしない距離からの一振り。
それは風圧……いや、斧圧?
私の〈クラッシュウェーブ〉のように衝撃波を打ち出す攻撃だ。
ただし牽制に使ったりとりあえず魔法のような形で打ち込むそれとは違って、あまりに“殺意”に溢れたものではあったが。
「くっ!」
薄皮一枚めくれたものの、すんでのところで回避。
続けてトライが折り返すように大斧を薙ぎ払い、再び衝撃波が飛来する。
速いは速いが、かわせない大きさや速度でもない。
二発目は難なく避けるが、トライの追撃を見て私はぎょっとした。
「〈エビル・ボルト〉」
トライがかざした指の先には魔力が集い、空中から闇の雷が私に向けて放たれる。
ジグザグな軌道で向かってくるそれを、私は高く跳躍して避けた。
見たところトライはこの状態を完全に制御できていないのか、魔力がダダ漏れの状態である。
魔力の枯渇を待っていれば優位に傾く戦だ。
「〈デス・ライトニング〉!!!!」
──が、そんな手段を選ぶつもりはない。
まだ空中に滞在する私に向けて、雷撃により死の雨が降り注ぐ。
頭上から振り落ちてくる魔力の場所を感知しつつ、〈エアコントロール〉と持ち前の身体能力で空中制動。
小柄も生かし、雷の隙間を縫うように動いて攻撃を避ける。
着地をした私は、まずトライの後方にある大剣を見据えた。
〈ミラージュ〉を駆使してアレを回収し、最終手段に出る。
「〈フレア〉」
最早何でもありのトライ。彼が腕を振るうと、私に襲いかかるように弧を描くような範囲的な爆発が起こった。
だが、予備動作のある攻撃は私と相性が悪い。
常に働いているセンサーが濃い魔力の位置を感知し、攻撃をある程度予測できる。
加速も早く、いつどこでもブレーキを踏める天性の身体能力があってこそのものだが。
「──狩るぞ」
爆炎は目眩し。低く突っ込んでくるトライは突如私の視界に現れた。
何度も言うが、優秀なセンサーを持つ私にそんな小細工は通じない。
〈ミラージュ〉。
火と風を操り、人工的な蜃気楼を作り出す複合魔法。
魔法書に載っているポピュラーな魔法だが、土壇場では役に立つ。
これで私の正確な位置を認識することができない。
あとはトライの出方を見て…………。
「!!」
悪魔と、目が合う。その視線はしっかりと私を捉えており、首元を目掛けて手が伸びてくる。
当てずっぽうではない、見切られている。
掴まれたらマズイと身を屈め、トライの腕の下を抜けて〈剛剣フレストリア〉の方へ駆け出す。
後方から魔力反応。勘のいい私とはいえ後ろに目はついていないので、気休め程度にジグザグに走る。
二、三と雷が脇を抜けていく。運がいいとそれを眺めつつ、大剣の元へ。
「ぐうあっ!」
大剣を掴むその時を狙われたのだろう、雷撃が私を打つ。
強烈な衝撃だ。これを詠唱なしで連発できるトライはやはり強敵と言えよう。
だが、それだけで私は止まらない。
「〈タイフーン〉」
走りながらも構築していた風の中級魔法を発動させる。
嵐を巻き起こす風の魔法。ただそれだけといえばそれだけだし、トライに通用する代物ではない。
……以前、私はエルフの国でラースを狙った暗殺者を倒す際に〈サイクロン〉という中級魔法で追い風を作った。
強烈な突風を起こすそれとは違って、〈タイフーン〉は砂や埃、そして敵を持ち上げるような竜巻だ。
無論、トライレベルには効くはずもない。それが目的ではないのだ。
「よし」
ふわあっ、という浮遊感に包まれ、空に放り出される私は手応えを感じる。
追加で〈サイクロン〉を下から上へ、宙に浮く私を運ぶように吹かせた。
更に高く、高く。雲が手に届く程の場所に到達した私は地上を見下ろす。
トライの姿が豆粒のような小ささだ。何か魔法を唱えているような素振りもあるが、関係ない。
風の初級魔法〈エア・コントロール〉。私が落下しないように敷かれた魔法の絨毯のようなものに寝転びつつ、私はとうとう今まで使ったこともない“上級魔法”を唱え出した。
──燃え盛る魂よ、火の精霊の力を借りて熱を増せ。
──古より伝わりし災いその姿を顕現し、彼の者へ降り注げ。
「〈メテオフォール〉」
魔法陣から出現した巨大な隕石がゆっくりと、腰を下ろすように地上目掛けて射出される。
着地すれば辺りは焼け野原になるであろう、強烈な火の上級魔法。
だが、私の攻めはそこで途切れない。
「仕上げ仕上げっと」
無数の〈ファイアボール〉だ。魔力の尽くす限り、とにかく大量に用意する。
まるで衛星のように隕石の周りを囲う火の球は、出番を今か今かと待ちきれなさそうに燃え盛っている。
これだけの範囲攻撃だ。相当遠くに逃げなければ避けることは不可能だが、今のところはそんな様子はない。
それに、トライのことだ。大型魔法で迎え撃つとでも考えているのだろう。敵を前にして逃げるようなタマじゃない。
今回ばかりはそれがアダとなるわけだ。
私は〈気配遮断〉を使用し、火球に紛れるように落下を始める。
大剣は手放し、自由落下させる。解き放たれたそれは加速度を増して地面に向けて直進し、途中で私の風魔法によって軌道を変え、トライを狙う。
彼の大きな魔力や存在感は弱点でもある。目の前に〈メテオフォール〉があったとしても私には彼の場所が透けて見えるようだ。
大剣の行方を確認するため風魔法ですすすと傍に逸れてゆき、〈メテオフォール〉からはみ出て目を凝らす。
弾かれたのか、トライが居る場所から少し離れた場所に刺さっている。
それは私にとっては好都合だったが、唯一計算にない──トライの大魔法がついに展開された。
扇状に放たれる雷。それはかなりの広範囲、高密度で〈メテオフォール〉はおろか辺りの〈ファイアボール〉をも包み込んだ。
その様子はまるで暴食。すっぽりと胃袋に吸い込まれていくかのように私の火魔法たちは蹂躙され、残った〈ファイアボール〉もさほど量はなく、そもそも範囲から逃れた外周の物が落ちていくだけなので、てんで関係のない場所に着弾してしまう。
そんな陰に、体を丸めて着地する私の姿があった。勿論、衝撃を逃すように風魔法で着地の寸前にぴたりと止まる。
「クソッッ、どこだァッ!?」
怒り狂うトライ。私は着地同時にこっそりと隠れていた“大剣の陰”から飛び出すと、彼を目掛けて走り出した。
魔力は散々駆使した風魔法や火魔法の撹乱でほとんどすっからかん。最早後中級の魔法一発が限界程度だろう。
だが、だからこそ掴めたチャンスだ。気配を遮断し、極限まで魔力を使い果たすことで感知系のギフトで気付かれないようにし、接近。
彼が私に気がつく頃には、固く握った拳を突き出していた。
ゴッ、という鈍い音がトライの顎を捉える。
的確に急所を撃ち抜いたはずが、何事も無かったかのようにキッと睨み返してくる。
私は誤魔化せない。そんな眼をしても、ダメージはたしかにあるはず。
手を止めることなくトライのレバーを叩く。
流石に堪えたのか、大斧を手放し動きを止めた。
「まだまだっ!」
私はトライが完全に停止するまでは追撃を止めるつもりはない。
絶え間なく攻撃しないと負けるのは私だと理解していたからだ。
怯むトライの喉を容赦なく打ち抜く。
そしてもう一発顔面に、と振りかぶったところで彼の目が光った。
──あ、マズイ。
顔を目掛けた拳はトライの手の平に吸い込まれる。
ぎち、と拳が彼の握力に締め付けられる。
そこで、“保険”が発動した。
「がっ…………!!!」
風の中級魔法〈エアロブラスト〉。
圧縮された空気砲が、“私の背中”に直撃する。
その勢いで体は浮き、頭からトライの鼻っ面に激突。
結果的に頭突きをした形になり、私は攻撃を再開した。
こめかみに一撃──ようやく足にきたトライはぐらっと姿勢を崩す。
こんなガタイだが当たればレナやラースを吹き飛ばすほどの剛力を持つ私なのだ。その攻撃を受けてタダで済む筈もあるまい。
絶好の好機にまだ止まらない私はトライの人中に、一閃。
ようやくもぎ取ったダウンに、安堵の息を吐きつつ足を運ぶ。
頭部への蹴りから入り、頭部への踏み付け。
「よいしょ……っと」
トライの胸部へ腰を下ろした私は、拳を振り下ろす。
一回、二回。
殺意を込めた拳でひたすら、ただひたすら──彼の意識が飛ぶまで無慈悲の鉄槌を数十回下した。
「……………………」
顔は腫れ上がり、鼻血を噴き出して痙攣するトライに少しやりすぎたかと頭を掻きつつ、腰を上げる。
このまま死なれても後腐れが悪いと、彼の襟首を掴むとずりずりと引きずって連れてゆく。
武器の回収は……後で良いだろう。
なんにせよ、
「あー、疲れた」
私の勝利だ。




