激闘(4)
難産でした
「……………………」
「……………………」
アタシとリアの戦いが始まって十数分、じりじりとした地味な攻防が続いていた。
レナとシトラがミリカを戦場から離し、被害が来ないよう注意しながら戦いを観戦する現状。
この間、アタシは短刀による牽制の他ほとんど何もやっていない。
対してリアも間合いを探りながらといった様子で、安易に踏み込んでくることはしない。
先程ミリカに見せたアクロバティックな動きも一切封印し、前後左右にただ“歩く”だけ。
おそらく、一発で決める大技を持っているのだろう。
リアの動きはその機を狙うようなやり口だが、こうされるとアタシも下手に動けないというもの。
そもそも、本来暗殺とは一発でカタをつけるような稼業だ。長期戦を想定されていない。
だから此方も基本は“一撃必殺”を狙っている。その結果が地味な睨み合いになっているというわけだ。
「あぁ、やめだやめだ」
短刀を懐の鞘におさめるアタシに、リアが訝しげに顔をしかめる。
元よりこんなチャチなもので勝てるとは思っていない。飽くまで“一撃必殺”の隙を作り出すための布石として使用しているだけである。
だが、アタシの技を警戒しているのか短刀のリーチにさえ中々踏み込んでこない。
ならば強硬手段に出るまで。
「性に合わねー」
元々嫌々やらされているだけで、“暗殺”という枷はどうも性に合わないのだ。
徒手空拳。真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。
それがアタシの元々のスタイルだ。元来、流れている“血脈”だ。
不本意ではあるが……な。
「──いくぜ」
地を蹴り出す。一歩、二歩と駆けるアタシの足跡は黒く焼けたような跡が残っているだろう。
魔力の爆発。“爆発的”なアタシの加速法は、そこに秘訣がある。
世の中には強化魔法だったり付与魔法というものが出回っているが、なんにせよ身体のスペックをオーバーするような動きをしてしまえば代償が来る。
しかし、その代償さえ気にしなければ使いたい放題というわけだ。
アタシのような高負荷に耐えられる存在が居れば尚更、使いこなせる。
「イイ……!」
さっきまでの仏頂面が一転、恍惚の笑みを浮かべるリア。
加速したアタシのハイキックに合わせるように、蹴りを合わせてくる。
先程蹴りを止めた構図と同じ画だが、衝撃が倍ほど違う。
脛がかち合うが、互いにダメージの程度を伺わせるようなものは顔に出さない。
脚を戻すと同時に、魔力を爆発させ瞬間的な速度を得る。
回転を加え、今度は中段への蹴りを繰り出す。至近距離からのこれがヒットすれば肋の一本や二本はもっていくだろう。
そう思ったアタシの考えは、甘かった。
「……!」
リアの腕にまるで吸収されるように蹴りが止まり……流れてゆく。
それはシトラが使うような柔の技だった。意外と器用な真似が出来るもんだと感心しつつも、冷や汗がたらり。
隙を晒し、間合いも充分。不可避の一撃が来るであろうことを悟りつつも抵抗とばかりに指を鳴らす。
するとリアの目の前に現れた闇の玉が爆散するように弾けた。
火と闇の混合魔法〈デビル・トリック〉。
ただの目眩しではない。闇の散弾はきっちりと、敵を蹴散らすだけの威力を持っている。
「面白い手品ね」
直撃すれば人の身体を浮かせることもできるほどの魔法だ。
が、リアは腕を円を描くようになぞらせ、簡単に弾いてしまう。
彼女に魔法が効かない、という噂の正体は本当だったらしい。
原理はよく分からないが、魔法を弾いた腕にも傷は無い。完全に効いていないということである。
冷静に分析しているアタシではあったが実際のところ余裕はない。
魔法を弾き、流れるように攻撃に移るリア。最短で向かってくる拳を避けきれず、腹部に受けてしまう。
しかし、狙いだったであろう鳩尾から少しポイントはズラしている。
タフさには自信のあるアタシはすぐにリアの手首を掴み取ると、そのまま引き込むようにして捻った。
完璧だ。腕まではいかずとも手首ぐらいはダメージを負わせることができるだろう。
そんなアタシの考えは、甘かったのだと気付かされる。
「なっ……!?」
“何故か手首を掴んで”引き倒そうとしている側のアタシが逆に倒されたのだ。
思わず掴んでいた手首も離してしまい、したり顔のリアを地から見上げることになる。
絶対絶命の窮地……かに思えたが、リアはあっさりと身を引いた。
アタシは魔法などを使う隙を与えないようすぐに立ち上がると、わざとらしく首を傾げた。
「慎重だな」
「何回も掴まれちゃあね。その内折られてしまうもの。毎度毎度対処してられないわ」
肩をすくめるリア。どうやらアタシが肉を切らせて骨を断つ作戦をもう一度敢行しようとしているのを悟っていたらしい。
関節技を決めさせてくれれば一気に楽になるのだが、そうも行かないと。
土を払いつつ、次の手をどうするかと考える。
そんな時だった、あまりにも強烈な気配を感じたのは。
「なんだ?」
身の毛のよだつような悪寒。ラースのそれとは少し違う、ただ殺意にまみれたような気配が森をざわつかせた。
どう表現すればいいだろうか。あまりにも……悪魔的というか。
凶暴で獰猛なオーラに、戸惑いを隠せなかった。
「あぁ……トライの奴、案外苦戦してるのね。“奥の手”まで引っ張り出されちゃったんだ」
強烈な存在感を放つ方角を眺め、リアが呟く。
「そういうギフトか?」
「半分そのようなものね」
トークには応じてくれるようで、足を止めて語るリア。
「アイツは普通の人間とは違うのよ。
貴女達みたいな、所謂亜人って言われる種族に分類されるのかもね。
大昔に絶滅したと言われてる“魔族”っていう魔物に近い種族の血が体に入ってるの。
スイッチが入るとそれが身体に現れるわけ」
わりとクリティカルな秘密を喋っているよウニ見えるが、この軽さだ。それほど問題ではないのだろう。
魔族というのは大昔に人間と縄張りを争っていた種族だ。
戦争に負けて滅びたと言われているが、戦争の裏で暗躍する別勢力の存在も噂されていたりするので純粋な闘争に負けたのかどうか、というのは分からない。
世界で亜人と呼ばれる種族は過去に幾つかある。
現存する有名なのが裏でエルフだったり、獣人と言われる存在だったりするが……それらも魔族とは対立していたらしく、人間側の勝利にはそれもあったのではないだろうかと囁かれている。
なんせ数千年以上前の話だ。文献もアテにならないものしか残っていないが……その生き残りがいたとは。
亜人を研究している学会が知れば大騒ぎになるだろう。ま、〈勇者〉の武力を考えれば気安く手は出せないだろうが。
「何よ、結構反応薄いわね。心配じゃないの?」
「まったく」
どこか不満そうなリアに、アタシは笑って首を振る。
「アタシらの親分はそんなにヤワじゃないんでね。相手が魔族だか狂戦士だか知らねえが、この歩みを止めたいなら神でも持ってこい」
アタシは再び短刀を取り出すと、構える。
言い訳するようだが、もう遠慮はしない。
倒すつもりじゃない──殺すつもりで、狩りにいく。
「やるぞ」




