喰らう
「そろそろギルドに行ってみよう」
午後のおやつタイムまで満喫したエルゥが、頃合いだと立ち上がる。
続々とパーティーメンバーが立ち上がる中、俺は一人疲れ果てながら重い腰を上げる。
父との訓練はたった十数分だった。少し付き合った後に昼食に行こうとしたが、何度負けてもしつこくワンモアと求めてくるので起き上がれなくなるまで木剣で打ちのめした。
だがその後に妹のフィルアがやってきて、父と入れ替わるように木剣を構えたので仕方なく相手をすることになったのだ。
フィルアも譲りの負けず嫌いだ。あまりにも執念じみた再戦を何度も持ちかけ、ようやくスタミナを切らしたかと思いきや次はカヤの相手をすることになった。
カヤに関しては手を抜ける相手でも無かった。木製の剣は素手で叩き折られ、意味をなさない。
かといって〈ウルト・ゼーノルト〉や〈剛剣フレストリア〉を持ち出すのは大仰すぎる。
ということで剣は一度捨てて体術をメインに模擬戦を行っていたが、カヤもプロだ。
打撃に関しては分があったが、気を抜けば投げ技や関節技の体勢に入られ、冷や汗ものだった。
それでも体力極振り、疲れ知らずの俺に対してカヤの消耗は激しく、結局レナやシトラまで参戦。
そんな中庭の傍でエルゥとミリカはティータイムを満喫、現在に至る。
「俺の飯は?」
「ギルドで食べればいいんじゃない」
リラックスにリラックスを重ねていたエルゥにごもっともなことを言われてカチンと来るが、いちいちコイツに怒っていてはキリがない。
いいご身分である。
「しかし、お嬢は全然訓練をしねーんだな。ウチの国でも本を読み漁ってばかりだったろ」
ギルドに向かう道中、不動のエルゥに疑問を持ったのかカヤが尋ねる。
「私の役割は知識を詰め込むことに、魔物を倒すこと。対人の訓練は合わないし、詰め込んだ知識と体がシンクロするかってことを定期的にチェックできればオーケーなの。
ま、天才だから?」
エルゥはふふん、という何故か誇らしげな顔で答えた。
悔しいことにエルゥの天賦の才は俺達の中では一番抜けているだろう。
それに彼女には〈野性〉というギフトがある。曰く、危機を感じた時に本能的なサポートが自動で行われるらしい。
俺の〈バーサーク〉と似たようなものだろう。“勝手に体が動く”というやつだ。
それが持ち味だと考えるのであれば、対人の模擬戦などを行わないのは正解だ。
人と魔物を相手にするのではワケが違う。変な癖が付いてもよろしくないからな。
「それでも、今回〈勇者〉と顔を合わせるに当たってがっつり喧嘩を売っていこうと思う。
三人居るんだし、ディオ・カッサムの相手はラースとして、後の二人のうちどっちかは貰っていく」
「やる気満々のところ悪いが、向こうは受けてくれるのか?」
俺が聞くと、なんとかするっ! と胸を張るエルゥ。今のところ無策らしい。
日々闘争の中に身を投じる冒険者は喧嘩好きが多い。
ダンジョン内やギルドでの争いは日常だが、今回は低ランクの冒険者同士の争いではない。
Sランク相当の俺達と、SSランクに踏み入れた〈勇者〉。
やるとなればただの喧嘩では済まないだろう。受けてくれるか、というのがネックである。
「あぁ、それならアイツ等、やる気満々だったよ。アタシが少し挑発したら乗ってきた。心配いらないと思うぜ」
「さっすがぁ。SSランクは懐が深いね」
よきよき、と上機嫌のエルゥ。挑発に乗るのは懐が深いのではなく、浅すぎるが故ではないだろうか。
どうやら“荒くれ”という噂に違いはないらしい。事を構えるとなれば相当な激戦になるのは必至だろう。
出来れば〈勇者〉に出会う前にヴァインと会って話をしたいが……ギルドで張り込むならそうも行かないのかもしれない。
向こうだって探知能力の一つや二つは持っているはず。特徴的な気配を持った面子が集まっているのだ、すぐにバレるだろう。
「相変わらず良いとこだね。ウチも増築しようかな」
王都のギルドを眺め、出たエルゥの感想はそれだった。
〈EL〉も二階建てだし、個人で経営しているにしては立派なのだが……彼女にしてみれば差が気に食わないらしい。
とはいえ基本的に国の王都に置かれているギルドは国の代表となる。ここが一番立派で然るべきだろう。
〈EL〉で冒険者登録をしたとしても、情報や向こうでの依頼の成果などは定期的にここに送られ、管理される。
ランク付けの裁定も国で行われるのだ。基本的に冒険者は個人ではなくパーティーであることが前提なので、個人でのランク付けは無い。
個人は冒険者同士の噂で推定どれくらいのランクだとか言われる程度である。
まあ個人として弱くてもパーティーに必要なファクターであるケースなどもあるので、一概に冒険者としてのランクは決め難いのである。
仮に決めるとすれば治癒師だったりの補助職が印象的な面でワリを食うから、致し方ないところだろう。
それで、パーティーとしてギルドに申請してランクを決めてもらう形になるのだが、その申請も成果などと同じで、地方支部に申請した場合、定期的な情報の通達と同タイミングで送られることになる。
だから俺達はまだランクが存在しない状態だ。そろそろ出ていてもおかしくない頃合いではあるが、おそらくBかAがいいところだろう。
経歴が真っ白な冒険者に対しては慎重な裁定が下される。
エルゥとシトラは実績が無いし、〈サージェスト〉のあのダンジョンを攻略したのを加味してもその程度が妥当だ。
「チッ、アイツ等よぉ……!」
中に入るとギルドの一角で声を荒げる冒険者の姿が目に入った。
四人組の女性。近接職のみという歪な構成の冒険者パーティー。
「荒れてるな、アマンダさん」
「あぁ!? ん……何だラースか」
Sランクパーティーの〈アマゾネス〉だ。リーダーのアマンダさんに話しかけると鬼の形相で振り返ってきたが、俺に気がつくとクールダウンした。
「どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも、〈勇者〉の奴等が戦闘中のアタシ達を後ろから蹴散らして通っていったんだよ。アイツ等苛ついてるからって……ん? アンタは昨日の」
どうやら原因は〈勇者〉のようで、憤った様子を見せるアマンダさん。
話の途中で後方にいる人物に意識が移り変わる。振り返ってみると、どうやら話題の人物はカヤらしい。
当の本人は「へ?」と面食らったような顔をしているが。
「そういやアタシがここに来た時、アンタ等も近くに座ってたな。中々のもんだとは思ったが、目的は〈勇者〉だったからな」
「勢いよく喧嘩を売るもんだとは思ったけど……ラースの仲間かい。あの〈勇者〉に向かって大層な啖呵を切ってたけど、大丈夫なのかい?」
心配そうなアマンダさんだが、一歩前に出たエルゥが分と小さな胸を張る。
「ぶっ倒すつもりで、王都に戻ってきた。ラースがディオ、私と誰かが残りの二人をいただく形で──喰らってやる」
エルゥはめらめらと下克上の炎を眼に宿し、両拳を握ってガッツポーズを作った。
熱い闘志は他のメンバーにもきっちり伝わっている。
伝わったとは言っても渋々である。一人、リーダーの熱意が先行しているような気もする。
なんだかんだ力比べの好きなメンツだ。秘めたる楽しみというのはあるのだろうけど、な。




