開眼
幸せだけが待っているかのようだったロザリンドの人生に、影が落ち始め困難が襲います。祖父に寄っていた人生を自分の足で歩き始めます。
思いは叶うのでしょうか?!
今日は先日の王宮への伺候の礼にと、オルデンブルク公家へお茶会のお招きに預かって伺っております。
ご兄弟の親御様は先年自動車事故でお亡くなりになっておいでになりません。これと言って他にお血筋のおいでにならない公家を、アウロォラ様が家令の手を借りながら取り仕切って居られるのです。
わたくしも両親を亡くした孤児では有りますが、当代のお爺様がおいでになるので、家の差配を案じる事は有りません。
このお館の家令であり、内の総てを取り仕切る執事であるとマルグレーヴ様からご紹介のケインという人は、わたくしの家の執事とは比べものにならないくらい若く、もの柔らかい所作がとても好感が持てました。
この執事が整えたもので有りましょう茶会の設えがとてもステキ。でした。館の南の庭に面したコンサバトリーの扉が開け放してあり、奥の居間との往き来が出来るようにしてありました。
コンサバトリーとの境に花を散りばめた食卓が設えてあり、客が席に着くのを待っているのでした。
「ようこそ。ロザリンド。ゾフィー。お出で頂いて嬉しいです」
「本日はお招き頂きまして有り難うございました」
「またお目にかかれて嬉しゅう存じております」
「有り難う。ゾフィー」
マルグレーヴ様とゾフィーは、もう既にお互いを受け入れて睦まじいご様子。争いになる心配はしなくて良いようです。
…アウロォラ様はおいでにならないのかしら…
「ロザリンド。アウルは出かけていて未だ戻って居ないのです…あれに全て背負わせてしまっていて…申し訳ない。間もなく戻ると思います。それまで庭にでも出ませんか?!」
公領に何か問題でも起きたのでしょう。
改めてアウロォラ様がお気の毒になりました。わたくしはお爺様が、通常は親御様がなさるお仕事を、止むなく果たしておいでなのでした。
案内されて出た小さな庭は、時節柄も手伝って見事に広がる薔薇の海でした。色とりどりの名花が咲き乱れ、香気に噎せ返るようでした。
庭師が作る庭とは違うような気がして伺いました。
「マルグレーヴ様のご丹精ですの?!」
「アウルの趣味なんです。やっぱり判るんですね。私にはさっぱりで…アウルは何か有るとここに居るんです」
そう仰って、何故か少し寂しげになさったのが気に掛かりました。
「お戻りでございます」
執事が告げて、ややあってアウロォラ様が両手に花束を抱えてお戻りになりました。招かれて食卓の設えてある居間に赴き、席に着いた私達にアウロォラ様がお手づからお土産を下さいました。
ゾフィーには淡いピンクの濃淡、わたくしには真紅の大輪の花束。それぞれに合わせた花選び。
頂いた花束を抱えて思わず溜め息を付きました。
ケインが花束を持ち帰れるようにすると引き取って行き、昼食のサーブが始まって、未だ子供ばかりのお茶会のグラスには薔薇のゼリーを炭酸で割ったものが注がれました。
薔薇の香りとほんのりとしたバラ色が綺麗です。グラスを上げて食事が始まると、アウロォラ様がわたくしをご覧になります。
「怒ってらっしゃるの?!」
「え?!いいえ」
ふ…と、溜め息を付かれると、言葉を迷うようにつむりに手を置かれながら仰います。少し照れて居られるようでした。
「…城では、初めてお逢いしたのに、何だか意地を張ってしまったから…私は意地っ張りなんだ」
言われて、今まで経験したことの無い痛みが胸を支配するのを感じました。
「…もう宜しいの。美しい薔薇を有り難う。わたくしこそ…虚勢を張ってみっともない真似をしたと悔いておりますの」
言いながら恥ずかしさに赤くなってしまいました。
「護るものがお有りなんだものね。同じだからよく解る」
わたくしの立場を思いやって下さる…
この方とならば、諦めていた人としての幸せを持てるのかも知れない…胸が詰まりました。
「…ローザ?!泣かないで、大丈夫だから…ね」
何も言えなくてただ頷きました。
幸せなまま、アウロォラ様の8つのお誕生日も、先年と同じように王宮で王の主催として行われました。
居並ぶ重臣達にも、お披露目の意味合いも加味されて、一般の方々にも招待状が届けられた、それは盛大なものでした。
私達の未来はバラ色に染まっていたかに思えたのです。
その日から幾週も経たぬ内に、国王セオドリク8世は、急な病を得られ崩御あそばされました。
王が亡くなられ、わたくしの身辺にも変化が訪れました。
お爺様が不機嫌になり、王の葬儀にも列席を許されませんでした。不可解でした。アウロォラ様とのご婚儀が済めば、義理とは言え父になるはずの方でした。
その上、オルデンブルクの城にも出入りはならぬとお爺様の口から告げられたのです。
「何故ですの?!葬儀にも伺え無かったのですから、アウロォラ様にお悔やみを申し上げる事も出来ていないのですよ?!婚約者なら…」
「あれとの婚約は破棄することに決めた。其方には他に良い婿を探すでの。案じる事は無い」
「わたくしに不都合がお有りなのですか?!」
「何を言う。あれが王位に就かぬからじゃ。マルグレーヴが皇太子じゃと遺言に有ったそうな」
「では、オルデンブルクの家をお継ぎなのでしょう?!それなら…」
「くどい!!カーライツに付いた者に、リントの世継ぎをやる訳が無かろうが!!誰か有る!!この馬鹿を部屋へ入れておけ!!」
見た事も無い形相で、この馬鹿をと仰ったお爺様に、一瞬の内に信頼が喪われたのを感じました。
もう、何を言っても通じないでしょう。
その上、部屋に入れて置け、ですって?!
そう…家畜か何かのように思って居られたのですね?!
わたくしが何を思おうと、わたくしの幸せが何で有ろうと、お爺様には頓着の無い事なのですね?!
放り込まれた部屋で、涙にくれはしたものの、そう思い至ると、乱れていた感情がスウッと治まり、決心がつきました。
数日後、また、お爺様に呼ばれました。
「明日、フランスの女学校に赴くのじゃ。あちらでフランス語を納めて参るように」
こちらを見る事も無く、まるで、処理を言い渡すようなそのもの言いが、血縁の義を尽くすのに値しない者に成られたと悟らせました。
「畏まりました」
一言も否やを言わずに背を向けた私に、何か感情が動いたのでしょうか?!
お読み頂き有り難うございました。
「秘密の花園」はもう一遍で完結します。元々設定してあった話でしたが、「大団円」を書いて、より具体的な内容がで出て来ました。この後が「幼子」です。




