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秘密の花園  作者: みすみいく
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ロザリンド

 孤児の自分を認めて、可愛がってくれる祖父のためにも家を継ぎたいと決心しているロザリンドの前に、3つも年下ながら自分を凌駕する婚約者に出逢う。

 環境が変わったことによって、見えてくる別の自分に戸惑いながらも前へ向かって踏み出すのでした。

 その日わたくしは生涯1度の、大きな戦に赴くべく、戦装束に身を包んで居りました。

 わたくしには既に父も母も亡く、一人娘でしたので兄弟姉妹もなく育ちました。


 わたくし、サラ・ロザリンド・フォン・リントは欧州の小国、シェネリンデ王国を支えてきた双璧の一方、リント伯爵の唯一の後継者なのです。


 偉大な祖父の庇護の元何不自由なく今日を迎えました。

 世間では我が祖父を、権力の権化のように申しますが祖父の英断無くして、列強ひしめく欧州の中で、大した産業もない我が国が、国としての体を成していられはしなかったのです。


 批判は易く、行動をなすは難いというのが祖父の座右の銘でした。わたくしも祖父の跡目を継いだ暁には、未来の歴史を受け継ぐべく努力を怠らない覚悟です。


 この度、現国王陛下が王妃様亡き後、妻帯なされず、弟君、オルデンブルク公爵の忘れ形見であられるご兄弟を後継になさる運びとなりました。


 双子で有られるので、お一人が王家を、お一人が公爵家を継承なさる事が決められているものの、どちらがとは未だ明言なされておりません。


 ですが、兄君のマルグレーヴ様は病弱であられ、ご気性もお優しい、王と成られるには荷が重いと祖父が申します。


 未だ7歳に成られたばかりですので早計なとも思われるのですが、弟君のアウロォラ様は、ご両親亡き後わずか6歳にして公家を切り盛りなさるご器量の持ち主で有られ、才気煥発なご気性ぶり。


 王のお覚えも目出度く、何れ後継にはアウロォラ様をお選びに成られると噂されておりました。


 お二人の何れが王になられるとしても、即位の折には王妃がなくてはなりません。そこで、わたくしと、カーライツ伯爵家のゾフィーが丁度同い年で、双璧と言われるリントとカーライツの力の均衡の為、双方の王子方に娶せられる事となりました。


 お二人のお誕生会を王が催されるのに合わせてお引き合わせ下さるのです。


 「お爺様」

 「おお。支度が調うたか?!これは、美しい。良う出来たの」


 お爺様はお部屋で新しく手に入れられた絵画を眺めて居られました。お好きなものに囲まれて、何時も穏やかに居られるお爺様が大好き。


 この日のために誂えられた蜂蜜色のモレのドレスは、シンプルでは有るものの、細かく寄せられたドレープが作るパフスリーブや弧を描いてふんわりと広がっている裾がとてもステキでした。


 「これで仕上げだの」


 そう言ってお示しくださったのは、見事な花玉の真珠のチョーカーでした。その昔、一粒が人1人ほどの価値が有ったと聞いたことが有りました。


 あまた有る宝石の中で唯一生き物が生みだす宝石。

 幾重にも巻いた真珠層が七色の照りを耀かせているのに、少しもケバケバしくならない。不思議な宝石。


 「なんて美しい。とても良いものでこざいますね?!有り難うお爺様」

 「なんの。其方が一世一代の戦に赴くと言うのに、粗末な武具が着せられようか。其方は我が継子じゃ。王となるものを虜にして、我が国を牛耳る戦いを仕掛けるのじゃからな」


 炯々とお爺様の政治家としての野心が輝きます。


 「お任せ下さりませ!ゾフィーなどに後れを取りは致しません」

 「頼もしいの」


 国を取り仕切る実力者で有る祖父は、わたくしにしか向けることの無い優しい微笑を浮かべて見せました。


 「…でも。ドレスの色は選ばせて頂きたかったわ。わたくしの髪の色には、この波打つ黒髪には蜂蜜色が優しすぎて…」

 「王のご下賜で有る故叶わぬな。なに、その方で有れば着衣など何ほどのもので有ろうか。次は、わしからお願いしようぼどに、な」


 優しくお諭し頂くと、それで良いような気がしてきます。


 「はい。お爺様」


 壮麗なバロック様式の王宮は、ベルサイユの様にもバッキンガム宮殿の様にも大きくは有りませんが、紡いできた時と、人々の想いを集めたこの国の依り代です。

 何としても保たねばなりません。


 この国を支える者達が居並ぶ中を、ゾフィーと並んで進んで行きます。両脇にはお爺様と、カーライツ伯爵。

 進む先には、玉座に坐すシェネリンデ王国の現国王セオドリク8世陛下。人々の支配者と言う名の通り、善政を敷いて民に慕われる、類い稀な執政者で有られました。


 ドレスのお好みには少々異を唱えたい所ですが。


 その上、見目麗しく、玉座に居られるそのお姿には否やを唱える所とて有りません。初めてお目通りを赦された時から、この方をお支えするのだと、胸を躍らせたことを憶えております。


 この方にお世継ぎが居られない事が、唯一のかけたる所なのですが、亡くなられた王妃様を真に愛して居られたのだと溜息が出ます。


 王の坐される玉座の両脇に、寸分違わぬ公子がお二人。双方から王のお手に手を重ねられ、凛と此方を見て居られます。

 柔らかく波打つ淡いブロンド。白皙の額。薔薇の頬。未だ稚いサクランボの唇。碧の双眸。


 わたくしもこれまで、美貌の姫よ。世紀の花よと持てはやされてきましたが、上には上があるものだと思わざるを得ません。少し癪ですけど。


 私達が玉座の前に侍ると、王が2人の公子をそれぞれにお使わしになりました。わたくしにはアウロォラ様。ゾフィーにはマルグレーヴ様。


 わたくし達2人も髪の色こそ違え、同じドレス、同じチョーカー。全く同じ2対の婚約者が出来上がりました。ですが、本物の双子には敵いません。同じお顔。同じお声でハーモニーを奏でるように話される様は、まるで双璧の大天使のよう。


 わたくし達は共に10歳。お二人は7歳。ですが、お身丈はわたくし達と余り変わりません。それにしてもお美しい…と、少々見蕩れてしまっていました。


 と、アウロォラ様がわたくしに向かれて、右手を差し出して仰います。


 「ロザリンド。これから宜しくね」

 「こちらこそ」


 握手をお求めなのだと思いました。

 ですが、わたくしの手をすい…と取ると、指先に口づけられました。


 当のわたくしも、周りも、余りのことに響めきました。暫し呆然としてしまいました。


 王宮を辞して、家に帰る道すがら、わたくしはずっとイライラしていました。車が着いてお爺様が降りられて、わたくしを見て仰いました。


 「良かったな、ロザリンド。頼もしい、良いご夫君になられるだろう」


 わたくしを頼りにすると仰ったのに、やはり男の子にしか価値を置いておられない。わたくしだけでは無くて、わたくししか居ないからなのだ。


 「つむりが痛みますので。お先に失礼致します。おやすみなさいませ」


 言い捨てて、自分の部屋に駆け上がりました。乳母のクララの顔を見るなり癇癪を起こしてしまいました。


 「ねぇ!!ばあや!!聞いて!!わたくしの方が3つも上だと言うのに。この所がまるで分かってらっしゃらない!!そう思わなくて?!」


 何が気に入らないのか、何もかもが混ぜ合わさって爆発寸前。


 「そのように…あちら様は、公家でお育ちなのですから仕方ございませんわ」


 宥めるように言われても…


 「リント伯爵家有っての王家で有ろうに。良くてよ。次にお目にかかる時にはよく分からせて差し上げる」

 

 「未だ7つよ!7つ!!」


 ですが、本当は、己が牛耳って思うままにするべき年下の夫に、ても無くあしらわれた、その事で、初めて味わう己を統べる者の存在を知り、己を凌駕する存在に魅了されていたのです。

 お読み頂き有り難うございました。

 夏に書きましたシリーズの外伝と言うか、何というか…とにかく、少なくとも3編書かせて頂きたいと思っております。

 宜しくお願い致します!

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