9話 戦闘訓練
王城のだいぶ奥まった場所に訓練場はあった。一緒に来たブレリア嬢は早々に四侯爵の待機場所のような所へ歩いて行ったので、俺は一人で同じクラスの連中の中に混ざる。
田島さん以外と話す事もなく、訓練の時間がやってきたのか一人の騎士が音頭を取り始めた。
「私は王国騎士長のゴライアス・ビックホーン。今日は勇者殿方の戦闘訓練ということで参上した」
周りからはゴライアスオオカブトだとか声が上がっているが、騎士長が弱いわけもなく、妥当な選抜だったのだろう。あちらが側からしたら俺たちがどれだけ戦えるのか分からないし、下手な人間ぶつけて怪我をしても困る。戦時中らしいしな。
「諸君らの力が強大であることは存じているが、戦闘に不安がある者が居るとも聞く。慣れぬ世界で恐れがあるのは当たり前の事。今日明日でそれを緩和出来るようにこちらでも精一杯尽くさせてもらう。武器と防具はあちらに準備してある。好きなものを持って行ってくれ」
ゴライアスの視線の先には木で作られた案山子に吊られた防具を騎士たちが運んでいるのが見えた。武器も台車に入れられて運ばれているし、準備の良さが窺える。
俺たちが来ることをどれだけ前に考えていたのかは分からないが、物資に困っていないというのは本当のようだ。
木剣でも取りに行こうかと思って歩き出せば、すぐにそれらしいものが無いと分かった。俺は別にそれでも構わないのだが、素人が寸止めが出来るとも思えない。
何をやるかにもよるんだろうけど。
とりあえず元の位置まで戻って鎧を着ておこう。
武器はショートソード。王国騎士長と比べると俺の鎧は傷だらけだし、鎖帷子も先が少しほつれている。魔女の炎を受けて煤がついてるのは昨日のうちに拭いておけばよかったか。
クラスメイトたちの装備も質がいいものばかりだし、恥ずかしくなってくる。
いいや、こういうときこそ強い心をだな。……術系の職業も一緒に練習するようだし、隅の方で目でも瞑っておこう。型の練習をするだけなら目を瞑っていてもできる。
周囲に十分なスペースがあることを確認して目を瞑り、武技の型をなぞる。
武技にも名前があって、このショートソードは「四風」と「韋駄天」がそれぞれある。
「四風」は四連撃だから大したことないが、「韋駄天」は速すぎてちょっと自分では再現しようと思えなかったので今日は「四風」だけだ。
午前中で終わるという話だし適当にブンブンしてれば終わるだろうと思っていたのだが、そうは問屋が許さないらしい。
目をゆっくり開いてみればブレリア嬢が近くにいて、ジルヴァール王が見学に来たのだと伝えられた。
「魔族を倒したマツウラ殿の戦いを見てみたいと……」
「それは大丈夫ですけど、相手は?」
「騎士長のゴライアス殿です。彼はスレイン家の分家ですから、私としては是非とも勝っていただきたいのですが、無理は言いません」
「スレイン家と言えば……北の侯爵の?」
頷く彼女とフレイバー・スレイン卿は因縁があるみたいだな。聞いたところで藪蛇だから聞かないが、勝てる相手に負けてやる必要もない。
──『戦術C』に情報が追加されました。
松浦 鵤が勝つかどうか。
勝つ13票/負ける0票
田島さんたちは遊んでるし……。まあでも、普通に考えて負ける理由がないんだよな。
訓練場の真ん中に歩いて行きながら改めてゴライアス殿の装備を見てみる。
油で手入れされた革鎧と、その下は鎖帷子だろうか、金属の膨らみが見えた。
武器は一般的な長剣だ。
体は大きくて、筋肉もある。自機の能力を引き継いだ俺とは肉体の質が正反対だけど、悪い言い方、中ボス程度の威圧感しかない。
それも、どうでもいい場所の中ボスだ。中間セーブポイントの前の敵、みたいな。
「よろしくお願いします」
「手合わせ感謝する」
互いに向き合って剣を構える。
ジルヴァール王が合図をかけるのかと視線を向ければ、隣に立っていたスレイン卿が高らかに声を上げた。
ゴライアス殿と関わりがあるのだと考えれば妥当なのだろうか。
さて、ゴライアス殿は何やら構えを取っているが、ロスキンの構えというのは武技の初撃が一番速く出せる格好である。
剣を振る前にその位置に剣を持ってきていれば良いので、最初は気分で構えておけばいい。
対人要素があればあるだけ動きは決まったものになるし、現実で脳の反応に対応出来る体があるのだからVRと同じように動ける。
今回は武技の出番は無いようだが。
ゴライアス殿の胸元を狙った突きに対して、俺は左の掌を犠牲にして右手に握った剣を突き出す。
「なっ!?」
誰かの悲鳴が聞こえた気がした。VRゲームなら当たり前の行為でも、現実を生きる彼らからしたら狂った選択肢なんだろう。でも舐めプするのもあれだからな。
左手を貫通した剣が痛くないわけではないし、悲鳴だってあげたい。貫かれたのは偶然にも昨日自分で突き刺した場所だったけど、痛みに慣れたわけではない。
ただ、左手が出てしまったのだからしょうがない。まだゲーム気分が抜けてないのだろうか。昨日のこともあって回復できる傷だと割り切ってしまっている部分が、高揚している気持ちと混ざり合って混沌と化している気もした。
「……俺の勝ちでいいですよね」
それでも痛いものは痛いので、俺の剣の切っ先が喉元に向けられているゴライアス殿に声を掛ければ、彼は静かに頷いた。




