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4話 二画面の色

「魔族っても人間と変わんねぇなぁ!!」


『不死性』が働いているのだろう、既に火だるまになった痛みはなかった。

 俺が剣を振るうたびに魔女から叫び声が上がる。彼女を守ろうとする魔物共々切り裂き、その白い肌に赤を生やしていく。

 なんとも甘美な感覚だった。


 太ももをバスターソードが貫き、木の幹に縫い止める頃には、彼女の四肢は左脚しか残っていなかった。


 流血が自然と止まっているところを見るに治癒力は相応に高そうだが、今に限って、それは喜ばしいものなのかどうかは定かではない。


 縫い止めた太ももが自重によって刃へと落ちていく。

 不規則に残った四肢をばたつかせて逃れようとしているが、俺の加虐心を加速させるだけで効果はなかった。


 そっと手を伸ばし、小指から少しずつ力を入れて細首を締めていく。

 喉の動きが、彼女の抵抗が直に伝わってきた。


 魔女が殺せる。魔女が死ぬ。俺が殺す。


 胸の中の熱い想い。

『不屈』がなくとも自分が狂っていることはすぐに分かった。


 だって、この状況で拷問しようだなんて考えるのだから、そういうことだ。


 人間離れした美しさを持つ女が俺を見て恐怖し、首を少しずつしめていくだけで涙を流すこの現状。

 俺の加虐心を満たし、彼女は親玉ではないからと、使い捨ての駒だからと、『不屈』を押さえつけられる理由を投げ捨てる事もないだろう。


「お願い……!許して……、ご、めんなさい」


 魔族と言っても人間と変わらない。

 血は赤いし、言葉は通じる。命の危険を覚えれば泣きもする。当たり前のことだ。

「だーめ」と、軽い調子で残った左脚を切り飛ばすと、辺りに彼女の慟哭が響いた。


 落ちた左脚を拾い上げ、断面を彼女の顔に押し付ける。飛び散る鮮血と、喉に詰まった悲鳴。

 ぞくぞく(・・・・)と内側から登る快感に溺れていた。


「殺して……、もう殺して……いや…………」


 自分で血を止める様子がなかったので自前の『奇跡』で傷口を無理やり塞ぐ。ランクが低くても、この程度なら時間をかければ出来ないこともない。


 樹皮から地面に落ちた魔女の失禁を眺めながら、俺は『魔術』で彼女の意識を奪ったのだった。


 ──ターゲット「強力な魔術を扱う魔族の女」の無力化に成功しました。


 ──ターゲットが変更されます。

「周囲の魔物の討伐」を行なってください。


 田島さんからの新しい指示が入った。魔女は適当な茂みの中で首から下を地面に埋めてある。

 このまま連れ帰って自分に向けられる視線を考えれば、そうせざるを得なかった。


 後で回収する予定だが、魔族が魔物に襲われるなんて無様なことがあったなら、それはその時考えればいい。


 さあ、雑魚狩りといこうか。


 ◇


「松浦くん!」と、田島さんの声が聞こえてきた。隣に立っているのは秋山くんだ。


「傷とかはなさそうだけど大丈夫?……魔族は倒せたみたいだけど無理はしない方が……」

「大丈夫だよ。そっちは?」

「大抵の人が遠距離から攻撃できたし楽勝だったよ。秋山くんが面制圧タイプだったしね」

「他のメンツ見てると自信なくすよ」


 秋山くんは恥ずかしそうに笑ったが、火力という点だけ見れば五本の指に入るんじゃないだろうか。


「松浦だって速攻飛び出すしさ、田島さんもインベントリから馬取り出すから驚いたよ」

「あー、あれはね」

「そう、聞きたかったんだけど、松浦くんのキャラってロスキンの騎士?制約大変そう」

「だから魔女か。なるほどなぁ」


「Lost Kingdom」略してロスキンなんだろう。秋山くんもそれを聞いて納得しているようだし、知ってる人は知っていてもおかしくない。

 さらっと吐いた嘘も突っ込まれないのであれば、いつも通りの俺をしていればいい。


「クラスの女の子に魔術師が居たらちょっとやばいかも。魔女と戦った感じ、痛みとか無理やり抑え込んで突っ込んでいくから」

「俺が男で良かったわー。せっかくの異世界なのに魔女っ娘NGなのは辛いな」

「ちょっと、変なこと考えないでよ。クラスのみんなにも一応言っておかないといけないし、一旦集まりましょうか」


 田島さんは「城外に出てきたのは十四人だけだけど」と苦笑いを浮かべ、自分の馬に跨った。

 俺と秋山くんは歩きだ。


「他の人は?」


 歩きながら問いかける。


「見た感じだと、力の使い方が分からないんじゃない?そもそも怖がってる人の方が多いし」

「俺は『魔術師』だからまだましだな。松浦が真っ先に走ったから体が動いたのもあるけど」

「戦闘はね、……嗅覚潰せば結構楽しいよ」

「「え?」」

「えー、……ほら俺の剣持ってみろって。楽しいよ?ほら、田島さんも要る?5本くらい持ってきてるっぽいんだけど」

「私は自前で剣あるんだよね……、儀礼剣っぽいけど」

「俺ちょっと持ってみたいかも」


 田島さんが止まってくれたので一番軽い双剣を秋山くんに渡すと、彼はウキウキしながら重さを確認するようにゆっくりと腕を上下させ始める。

 俺が横で動きのお手本を見せてみれば、彼の体はその通りに動いて見せた。


「うぉ!!勝手に動くのか……これって戦技ってやつ?」

「多分ね」


 今度は『魔術』でエンチャントすると、秋山くんは光る双剣でさっき教えた乱舞をし始めた。

 剣尖が宙に光の線を描き、乱舞が終わると同時に消える様はまさに幻想的だった。


「すげぇ!これはクセになるのも分かるわ」

「見てるだけでも虜になりそう……。秋山くんは?生粋の魔術師なんでしょ?」

「俺?まあ、範囲殲滅にしては芸達者だとは思うけどな」


 双剣を返してくれた秋山くんは宝石が埋め込まれた杖を取り出して魔術を唱え始めた。彼の場合はがっつり詠唱が必要らしく、口元を隠してごにょごにょした後に杖の先に炎が灯った。


「視界の中に軌道を描いて、杖で微調整。待機、加速、減速諸々を上手くやれば……ほら」


 彼の周囲を回り出したのは三つの光。赤青黄色はそれぞれが別々の速さで回り、秋山くんから俺へ、田島さんへと渡って消えた。


「ほいっ、手品みたいな規模が精一杯。練習すれば違うのかもしれないけど、暴走したら大変だからさ」

「十分凄いじゃんか」

「梅雨の時期は仕事になりそうだね」

「いやそれは蛍!」


 俺たちは笑いながら王都へと歩いていく。

 そこに戦場独自の冷えた空気はなく、ゲーム感覚が抜けてないのだろうなと、肉を断つ感覚が残る両手を眺めていた。


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