3話 熱風駆ける
体が引っ張られるのが分かった。胸を焦がす焦燥感とでも言うのか。
例えばそう、長年の仇が見つかったかのような、そんな感情だった。
自分が体を動かしてるとは到底思えなかった。中庭に入ってきた兵士の馬に跨って駆け出すなんて初めての経験だったからだ。
「松浦くん!」
道なりに進んでいく俺に、田島さんが何処からか現れた馬に乗って追いかけるのを横目で確認した。
いいや、彼女だけではない。ドラゴンやペガサスの姿も見ることができた。
なんにせよ、一番早く動けるのはこの四人ということになる。
「松浦くん!まずは作戦を!」
「駄目だ、キャラが暴走してる!!止まれない!」
俺の名前を呼ばれたって、止まれないものは止まれない。自分のものだからか、俺を引っ張っていく物の名前は分かった。
『不屈A++』
魔女を殺す。強い意志がそこにはあった。
「魔女を殺すまで止まらないぞ!」
「魔女?魔女なんていないよ!」
「ゲームの設定に引っ張られてるだって!!」
そこで田島さんは少し考え込んだような表情を見せ、俺のスキルを聞いてきた。
何の意味があるのかと問えば、彼女は俺を一人で出していいか考えるのだと言う。
ああ!それならとっておきのスキルがある!
「『剣技B+』、『魔術C』、『奇跡E-』、『不屈A++』……最後は、『不死性C』!」
「……よし!行ってきて!松浦くんが一番槍よ!」
彼女の声が俺の背を押したかのように感じられれば、視界にはそれを説明する文字列が現れた。
田島さんのスキルが発動したことを告げる、なんとも心強い文字列だった。
──田島 陽花里の『カリスマA++』が発動しました。
スキル終了まで田島 陽花里のパーティーに合流します。
──田島 陽花里の『戦術C』が発動しました。
「強力な魔術を扱う女の魔族」がターゲットに指定されました。
──田島 陽花里の『鼓舞B-』が発動しました。
スキル終了まで『身体能力強化D-』相当の補正を受けます。
王城を飛び出て目指す先は、人の流れと逆の方向だ。今の俺の格好が鎧姿の人間ということもあってか、王都の住人は歓声を上げて進んで道を譲ってくれる。
身体の主導権のほとんどを『不屈』に持っていかれているからか余裕のあった俺は、バスターソードを取り出して『魔術』を唱えてみた。唱えるとは言っても待機時間があるだけで、何か台詞が要るわけではなく、時間が経ったことでバスターソードは白い光を帯びて輝きだした。
「騎士様勝ってくれ!!」
「いっけーーー!」
光属性のエンチャントが群衆には何に見えているのか。聖剣か、はたまた神の奇跡か。
それは定かではないが、俺が自らの意思で魔女を目指したのだけは確かだった。
周りの必死の形相で戦いに赴いているのが俺だけではないというのはひしひしと伝わってきたし、その先頭を走っているのが俺だというのが最高に気持ちよかった。
「かいもぉぉぉん!!」
俺を見つけたのだろう兵士が大声で叫んだ。気が付けば門はすぐ目の前だ。
白兵戦を主とするために馬から飛び降りた俺は、門の隙間に飛び込むように走りこむ。
多くの矢によって地面に縫い留められ、数多の魔術によって焦げ付いた大地。
『不屈』を通して、どこか他人事のように感じていた世界はリアルに自身の中に入ってくる。
酷い臭いだった。
それでも俺は……この状況が楽しくて楽しくてしょうがない。
──上野 翔太『竜騎士』がパーティーに合流しました。
──中川 礼子『召喚術士』がパーティーに合流しました。
自機を持っていたクラスメイトたちがどんどんパーティーに入ってくるのを見ているだけで楽しくて、魔物の群れに突っ込んでいくのはもっと楽しい。
ゴブリンを蹴り飛ばす感覚や、狼にカウンターをぶち込むタイミング。
今までVRゲームで味わったことのない感覚に酔っていたのだろう。ゲームよりも早く、ゲームよりも正確に。早々に嗅覚を潰してしまえば、さほどゲームと変わらない。
楽しくないはずがなかった。
気分よく魔物の群れを駆け抜け、次第に強くなっていく『不屈』に引っ張られれば……見つけた。
茶色の髪に、おでこから天へと緩くうねった浅暗い二つの角。爛々と輝く瞳と病的なほどに白い肌。
そして、ドレスにも似た黒い儀礼服。
魔物に囲まれた怪しげな女。彼女が魔女で違いない。『不屈』が、そして俺自身がそう思うのだから、この場で立ち尽くしてやることもなかった。
両者が互いを視認している状況で白く輝くバスターソードを思いっきり掲げ、強く振り下ろす。
魔女は振り下ろしを簡単に避け銀色の杖を手に何か呪文を唱えて、俺へと巨大な火の玉を投げ飛ばした。
回避は間に合わない。
鎧と火の玉が接触し、体が瞬時に火だるまになった。
──が、
「熱っついなぁ!!」
俺の攻撃は決して止まることはない。
攻撃を受けたことで恐怖心が今頃に顔を出してはいたが、『不屈』に動かされる俺は止まれない。
内心ビビりまくっていても、体が硬直してしまうことはなかった。
驚く魔女へと距離を詰め、バスターソードで魔女の右腕を切り飛ばす。
至近、彼女と交わった瞳の中にあったのは、恐怖と驚愕だ。
それもそうだろう。俺だって驚いてるんだから。
多少の痛みを我慢すれば楽勝で勝てるのなら、俺は自分の勝利にこの命をベットしてやる。
「魔族っても人間と変わんねぇなぁ!!」
俺の叫びがこだまする。
最高にハイってやつだ。




