2話 遠き灰下の祖国よ
自機を持っていなかった十六人が自キャラを考え終えれば、俺たちは中庭だろう場所に召喚された。
教室の床に現れた魔法陣と同じものが地面に消えていく様は非常に面白かったものの、そればかりではいけない。
前を向かなければ。そう考えてしまうのは、俺の職業が『騎士』だからだろうか。
自機から引き継いだ武器や防具の装備方法、インベントリの扱い方は教師まがいの神から教えられている。
すんなりと鎧姿になった俺は、地面に膝をついて俺たちを呼んだであろう人物からのアクションを待った。
俺の他にも率先して膝をつく人が居て、装備から推測する職業は『錬金術師』と『魔術師』だろうか。豪華な装備だ。
「やあ、やあ、やあ。よくぞ参られた英雄たちよ」
皆が頭を下げた頃に、一人の男が声を上げた。王冠をかぶっていることから、彼が王様であることが分かった。まだ三十代そこらだろうから、随分と早く即位したんだろう。
「まあ、そうかしこまることもない。立ってくれ。……人数は三十人ほどか、申し訳ないが誰かまとめ役を決めてもらえないだろうか。三人もいれば十分ではないかと思うのだが、どうだろう」
立ち上がった俺たちは周囲を見合わせ、いつも集まっているメンツで固まりだした。
陽キャ、陰キャ、どちらでもない男と女。だいたい四つに分かれたはいいものの、そこからはグダグダだ。
まず、ゲームや小説をたしなまない人間はこれから何が始まるのか分かっていないし、陰キャはイキる奴が居ないために誰も声を上げない。結局は自機を持っていたか、持っていなかったかで二つに分かれることになった。
「……そうだな……、職業とか言っていく?『軍師』でもいればいいんだろうけど。あ、俺は『魔術師』な」
誰も仕切る奴が居ないかと思っていれば、秋山くんが最初に声を掛けた。VRゲーム経験者なら今のこの状況は野良パに近いからやりやすいのかもしれない。
さて、『軍師』という職業があるのなら指揮を執るのはたしかに良いアイデアだ。そうして注目されるのは、必然的にローブを着ている人たちだろう。秋山くんを除いたそれっぽい人は四人居る。
白、黒、赤、青。
四択だ。
俺は黒が正解かと思っていたのだが、手を挙げたのは赤いローブの女の子だった。
「『軍師』ではないんだけど、『王族』って駄目なのかな……?」
「待て待て!!」
「聞かれてない?大丈夫?」
俺含む人間たちで彼女の周囲を囲み、慌てて口を閉じさせればその女の子も合点がいったようで口を閉じた。
本物の王様が居る前で『王族』はやばい。彼女の名前は……田島さんだ。
赤いマントに黄金の装飾。なるほど、王族と言うにはちょうどいい格好をしている。仕方なくというか、他に頼めそうな人もいないために彼女がそのまま俺たちの代表者となった。
対して自機を持っていなかった残りの十六人はすでに選び終えていたみたいで、俺たちの選出を待っていたらしい。
「二人でいいのか?」
そう王様が言ったとき、俺たちの物語は始まった。少なくとも、俺はそう感じたのだ。
唐突な、背後からの怒号と馬の嘶き。
転がるように馬から飛び降りた兵士の声は、俺たちの空気を一瞬にして変えてしまった。
「北東の森!ファランジルのダンジョンにてスタンビートが発生!!魔族の姿を見たと報告も上がっております!!強力な魔法を扱う女の魔族だと!」
この時ほど俺は神を恨んだことはないだろう。
何が大丈夫だって?
脳裏に浮き上がってかた復讐心は瞬く間に身体中を巡り、気がついた時には城外に向けて駆け出していた。
ロスキンの主人公は魔女に国を滅ぼされた。
今のこの状況が、俺の中の彼には祖国と重なったのだろう。




