24話 流星の槍
昨日投稿できてませんでした。申し訳ありません。
その分投稿してますので今日は2話です。
「凄いな……これは」と上野くんが漏らした声に誰もが同意した。
こちが千にもいかないのに対し、相手は明らかにそれ以上だったからだ。
「……どう攻めたらいいんだろ、数えるだけ無駄だよ、こんなの」
「上野くん、とりあえず作戦通りに行こう」
「松浦、それでも減らせるのは三百かそこらだぞ?魔物が地上だけならそれでも良かったんだが」
田島さんが嘆き、上野くんが匙を投げるほどの大群。姿が見えないラギルタ殿も、これには死を覚悟したに違いない。
注意をひかないように地平線にギリギリ見える程度の距離を保っているが、森の中に居るというわけでもない。
夜になれば圧倒されるだろう。なら、こちらから打って出る必要がある。
「佐藤くんが作った油を貸してほしいんだけど、どれだけあるかな」
「瓶に十だったと思うけど……一人で突っ込むつもりじゃないよね?」
「そんなの俺も認めねぇぞ」
「まさか。作戦通りに初手は上野くんだよ」
音を消す魔術の使い方を変えるだけだと伝えるが、それでも二人は頷かなかった。音を消したところで、と、そう思っているのだろう。
まさかこの大群を見てロスダーネス市街の家々を気にする人は居ないだろうし、あの中を油を持って突っ切ろうとする人はもっと少ない。
「弓と魔術で迎え撃っても潰されるぞ。罠が張れるような時間もない」
「スレイン卿は街に外壁はないって言ってたけど、城にはあるんだよね?入口で火をたけば魔物の数をある程度制限できる」
「……俺が道を作れるとは限らないぞ」
「成功したら城門。失敗したら家。これならどう?家を壊せば道をふさげるし、ゴブリンとかオークぐらいなら時間稼ぎにもなる。後は思いっきり逃げればいい」
「それなら……」と、田島さんは少し乗り気だけど、上野くんは相変わらず渋い顔のままだ。
頭の中では必死に計算をしているんだろう。初手は彼の一撃だから、プレッシャーもそれなりだ。
「まあ、俺らだけで話してても意味ないけどね」
「そうでもありませんよ」
にゅっ、と現れたのは、先日も会話したラギルタ殿だった。俺はともかく、他の面々の驚く様を不憫な目で見ていると、彼は続きを話し始めた。
「話を聞くかぎりでは、強力な一撃で道を作り、奇襲、破壊工作をして撤退するということでしょうか」
「そうなりますね」
「兵が九百とは言っても、実際に戦闘に参加するのは七百ほどですから……、真っ当な作戦では負けるかな、と。私としては勇者様方を信じるに一票を投じます」
「貴方に決めるだけの権利があると?」
ラギルタ殿に答えたのは上野くんだった。彼が貴族であるのは分かるが、今日は名乗りすらしていないのだからそれもそうか。
「私には無理ですが、口添えは出来ます。数少ない指揮官の一人として、勝率の高い作戦をあげるのは当然のこと。まずは野営の準備をしましょう。安全なうちにね。その間に作戦を伝えておきます」
上野くんから返答はない。
嫌な男だが、他に選択肢があるわけでもない。と、思っているのかも。
田島さんも同じだ。何も言わないので俺が彼に言葉を返す。
「こっちでも話を通しておきます。魔術師からの援護一つで命取りですから」
「この戦い、生きて帰れるのは少ないでしょうね」
「先走りの報告以上に数がいましたから……。王都から連絡はありませんけど、転移陣はやっぱりあるのかもしれません」
「でなければ首を跳ねてるてころですよ」
互いに疲れた笑みを浮かべ、やるべき事をやろうと動き出す。
もっとも俺の場合、クラス内での発言権なんて無いので、田島さんか上野くんに頼むしかないのだが。
「じゃ、俺たちも動こうか」
こんなとき、不安にさせないような綺麗な笑みが浮かべれたらいいんだけどな。
◇
秋山光彦 :王都近郊に魔物が現れた。これから対処する。
須藤 玲 :北は配置完了。
横田菜々 :西からギリギリ射程範囲内だよ。援護する。
中川礼子 :東もおっけ。
田島陽花里:そっちは大丈夫?
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秋山光彦:大半は蹴散らした。『十四人』の遠距離組がほぼ全員居て負けねぇよ。そっちは?
上野翔太:心配すんな。これからだけど上手くやる。
◇
俺たちが立てた作戦は承認され、上野くんを先頭に騎乗した百人が並ぶ。
異世界人組に作戦を伝えた時に一悶着はあったが、今の心境の方が何百倍も辛い。
田島さんの『戦術』による見立てでは、魔物の数は二万前後。よくもまぁ、集めたものだ。
一人あたり約三十体倒せば勝てるわけだが、普通に考えて無理だ。
『魔術師』が数を殺すことに期待しないとやってられない。
──田島陽花里の『カリスマA++』が発動しました。
スキル終了まで田島陽花里のパーティ2に合流します。
──田島陽花里の『戦術C』が発動しました。
作戦の共有、及び可視化を行います。
──田島陽花里の『鼓舞B-』が発動しました。
スキル終了まで『身体能力強化D-』相当の補正を受けます。
田島さんのバフを盛り、『聖女』と名高い野々瀬さんの魔術的支援も入った。
これで上手くいくんだと強い自己暗示をかけるか、狂ってしまわなければ体の震えを止める術はないだろう。
よく百騎も志願してくれたものだ。
開戦の火蓋を切るのは、ドラゴンに乗った上野くんの一撃。出来るだけ近づいて、大勢を巻き込まなければならない。
耳をつんざくような大銅鑼の音が合図だった。
怖いだろうに、恐ろしいだろうに、一目散に低空を往く上野くんの背中を必死に馬を走らせて追いかける。
何もなくたって『不屈』を燃え上がらせることで地を駆ける。
俺より後ろの騎馬が遅れても、俺だけは止まるな。魔女と戦った時のように。強い険悪と闘争心を奮え。
「──うおおおぉぉぉ!!」
恐怖を吐き出せ。俺なら、出来るはずだ。
ロスダーネス方向からも魔物の群れが発った。今は塵にしか見えなくとも、あれら一つ一つが人一人を殺して余りある暴力を持っている。
少しずつ距離が縮まる。奥歯を噛み締め、視線を眼前へと据える。瞬きすれば最後だと思え。
相手は地上だけから来るわけではない。空には甲高く鳴くハーピーの群れが幾数も舞っていた。
気力を削りながら駆けるなか、上野くんの詠唱が始まった。
早い!まだ敵は遠くに居るのに!
「っ…………我が槍は天を覆う海流!天川下りし星の輝きを追え!この名は逝星槍!!」
後ろを追いかける俺には彼を止めることが出来ない。
白く輝く穂先と、その根元で淡い青光りを放ちながら揺れる灰色の槍纓が、地平の彼方に向かって放たれた。
風の抵抗だとか、重力だとかを無視したように、ひたすらに真っ直ぐ突き進む槍の輝きを追いかける。
落雷よりも眩い光。
俺も馬も目をつぶっていたに違いない。気が付けば戦場を二つに割り、指標としていた槍を見失っていたのだから。
「ぁあああ"あ"あ"!」
叫べ。叫べ。
誰よりも先に、誰よりも速く駆けろ。
足を止めていた上野くんとドラゴンを追い抜き、槍が抉った地を走る。
腰に提げた小瓶が小気味良く太ももを叩くのを感じていた。




