23話 青の血族
ごめんなさい、投稿できてないの気がつきませんでした。
朝から素振りをしている俺に話しかけてきたのは、フレイバー・スレイン卿、つまりは北の侯爵の傘下の貴族だった。
空はまだ暗いというのに、他の面々も起き出してはもそもそと朝食の準備を進めていた。
「おはようございます、イカル殿」
「……おはようございます」
ふっ、と息を吐いた俺に彼は頭を下げ、「ラギルタとでもお呼びいただければ」と、戦場であっても失われない気品で持って挨拶をいただいた。
「……ではラギルタ殿、と」
「私と貴方は同じく指揮官。うまいこと切り抜けましょう」
「そんな、私はお飾りですよ。特別な教養があるわけでもない」
「それも含めてですよ。私とてロスダーネスに着くまでの代理に近い。北、そして、イカル殿が身を寄せている東の侯爵家。この両家に軍を指揮できる者は殆ど居ませんから」
ラギルタ殿は腰に下げた剣を手で叩いて見せたが、確かに腕が立つようには見えない。
生まれた地が近いだとかの理由で面倒事を回されたのだろう。
「フレイバー様が言っていましたよ、イカル殿が北にいれば間違いなく篭絡していたと」
「はい?」
「それだけ期待されているということです。魔王を殺して貴方がたが帰られるとなった際、残った我々で出来ることは限られている。一人でもいいから残っていただきたいのが本心です」
「私にそんなことを言って良かったんですか?」
「ブレリア様をよろしくと、そういうことです」
頬をかくラギルタ殿は「貴族は回りくどくてどうも」と、申し訳なさげに小さな笑みを浮かべていた。ここからが本題、彼が話したかった事か。
「四侯爵のバランスを崩したくはありません。戦時だからこそどうにか纏まっていますが、それも怪しいものです。……薄々感じているのではありませんか?主従関係の崩壊が始まっていると」
思い当たる節はある。同じ東側に居るはずの工藤さんが日輪くんに自慢げに話していた、貴族家での日々。
おかしいとは思っていたが……、何か起こっているのか?
「どうしてそんなことが……」
「正直に申し上げて彼女にはカリスマがない。それに加え、金も無ければ人脈も無い。見舞金を受け取った家々が調子に乗っているのです。新たな侯爵家になろうとね」
「そんなことをしている場合じゃ……」
「勇者が来たことで先をみる者が増えたのです。イカル殿やショウタ殿のような者ばかりではないことが懸念点ですが」
俺や上野くんが頑張って結果を出しても、表層しか見ていない人からすれば、それは等しく異世界人の功績だ。
王城に呼ばれることのない、四侯爵以外の貴族は俺たちの実情を知らない。
噂は広がるだろうが、どれほど信じられるだろうか。
そもそも、これは国にとって不利益になる噂だ。期待はしない方がいいだろう。
「だから私に残れと?」
「それが最善かと。次点で言うのなら、ブレリア様と子を成すか」
「無理ですよ。それじゃあブレリアさんの負担が増えるだけで意味がない。残っても私に出来ることは少ないですから、……言い難いですけど、このままだとスカイハット家はいつかは潰れます」
ラギルタ殿だって分かっているはずだ。俺より貴族の世界に詳しいのだから、この問答はおかしい。
「……何が目的ですか」
「たしかにおかしな話です。どちらに転んでも彼女の家は終わってしまう。……ですが実際問題、そこまできているのです。せめて終わり方だけは幸せであるようにと、私と、フレイバー様はそう思うのです。──」
「──それでは。貴重な朝の時間を奪ってしまって申し訳ありませんでした」
不思議な男だと思った。
これだけ心をかき乱しておいて、あっさりと引き下がる。俺はラギルタ殿が何を思って接触してきたのか分からなかったし、他の第三者が見ても同じ判断をするんじゃないだろうか。いや、ブレリア嬢を救いたい的なことは言っていたが、あれが本音だとはどうも……。
俺が考えすぎなだけなのだろうか。
近くから水を汲んできて汗を拭っている間も。
朝食を食べている間も。
考えてはみるのだが、結局は何も分からなかった。
王都に戻ったらブレリア嬢にフレイバー卿について聞いてみるのもいいかもしれない。
……そこから二日目が終わり、三日目が終わり。
王都に魔族が攻め込むなら今日ぐらいだと予想されていた候補の一つの日も何事もなく終わった。
そうして迎えたロスダーネス奪還戦。
上野くんたちが居る軍勢と合わさった、総勢九百を超える人の群れが対峙するのは、遠目からでも分かるほどの魔物の群れだった。




