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22話 葦の英雄たち

今日2話目です

 がこがこ(・・・・)と揺れる馬車の前を歩く。

 ジルヴァール王国首都を経って半日がたっただろうか。


 ふと振り返って馬車の中に見えた南木さんに睨まれて視線を戻し、少し前の事を思い出していた。


 俺がブチ切れてあることないことを吐き散らかした夜。冒険者ギルドに寄った帰りだった俺は、ブレリアさんの部屋に招かれた。

 あの時に四侯爵も居たことで怒られるのかと思ったいたし、それを甘んじて受け入れるつもりでもあったのだが、彼女から貰ったのは慰めの言葉だった。


「イカル、貴方の覚悟を私は知っているつもりです。縁もゆかりも無い私たちに尽くしてくれている……、ですが、勇者と呼ばれていたって人は人。私が何か返せるものを見つけられたなら、その時は受け取ってくださいますね」


 俺の手を取って語りかける彼女はまさに聖女だった。

 上野くんの方にいる『聖女』がどうかは知らないが、南木さんよりは確実にマシだろう。

 言葉に出してしまえば戦闘待ったナシであるために言及は控えるが。


 そんなどうでもいいことを考えられるほどには行軍は暇だ。

 あの日から俺に話しかける人は随分と減ったように思える。元より少ないこの身だが、少し寂しい。

 田島さんてすら一緒に居る女子との関係もあって話す機会がない。


 皆で立てた作戦を反芻するにしても、ロスダーネスに着くまで作戦もクソもない。奇襲されるのが分かっているのならともかく、ただの道筋で先走り以上に警戒しても無駄だと結論がでたのだ。


 俺たちの背後から転移陣を用いて王都に襲ってくると思われている魔族についての対策にも、俺はまったく関係がないために蚊帳の外である。


 そもそもとして、俺には戦術に組み込めるような遠距離攻撃の火力はない。

 奪還戦においても俺に期待されているのは『魔術』による音消しと、近接戦闘だ。

 こういう時は『魔術師』が羨ましい。あいつら作戦立てる時だけ凄い勢いで書き込むからな……。


 考え事をやめて意識を戻せば、目の前には列をなす大勢の男たちの背中が見える。

 今は九月の半ば。異世界は日本よりも確実に涼しいが、彼らの熱気が遠い景色を滲ませているように見えた。


「……俺たちは戦わせてもらえそうにないけどなぁ」


 ジルヴァール王が勅命を下し、俺と一緒にロスダーネスを目指す二百人。それと共に最寄りの国から二百五十人がこの隊に振り分けられている。

 総勢、四百五十の大軍。


 そんな中、戦列のほとんど中央に居る俺が戦うことはまずありえないように思えた。

 性欲を我慢できなかった馬鹿どもから女子を守る方が先なんじゃないか、そのぐらいの熱気を感じていた。


 皆からしてみれば領地を、家を、家族を奪ったような相手へと戦いに行くのだ。

 死ぬ覚悟はしているだろうし、今日のために戦う訓練をしたのは間違いない。

 俺が初めて冒険者ギルドに行ったときに感じた賑わいの多くは彼らのものであることを知ったのは最近だが、その明るさとは裏腹な感情を抱えていることは理解していた。


 片道五日のこの道のりは、多少訓練しただけの一般人には厳しいものだろう。

 まだ半日しか経っていないが、疲れてきている人も多い。

 それでも誰も愚痴をこぼさないのは、そこらへんが関係しているようにしか思えなかった。


 俺たち異世界人にはピンとこない感覚だ。

 魔物を殺したって、魔女を殺したって。圧倒的な程の群れを見なければ分からないものが絶対にある。

 今回の奪還戦で俺だけでなく、十四人、十六人の垣根無くそれを感じられたのなら、俺たちは大きく前進するんだろう。


 一日目の夜は野宿だ。明日の昼には最初の町に到着する。

 倒れるように座り込み始めた彼らを俺は笑いはしないが、馬車に揺られて楽をしていた異世界組はどう感じるのか。


 馬車に人を乗せるより食料を乗せたほうが良いのは当たり前だが、国から彼女たちに付けられた価値がそれを簡単にはさせなかった。

 取ってつけられた値札に流されているのだ。自分で値段を決めることだって出来るのだから。


 腰を抑えて刺激しないように降りてきた南木さんや宮本さん。

 その他の異世界組はこの光景を見て思うところはないのか。俺はその答えが知りたかった。


 行軍中に枯れ木を集めているのを馬車の中から眺めているだけでいいのか。

 食事が出来るまで話していたらいいのか。


 横目で一兵士と同じ視線に立ってみれば、彼女たちは大変に腹立たしい。


「──燃えろ、燃えろ」


 多少、水を含んでいても関係ない。何もかもが燃えてしまえ。そんな強い想いで剣へとエンチャントした炎を集められた木々へと移していく。

 四百を超える人間が集まっているのだから、求められている明かりの数も多い。


 火の粉を纏った剣を振り払って俺を呼ぶ声に歩いていく。今日は少量だけど酒が出るとあって皆の顔もまだ明るい。このまま続くことがない表情を見ていると、少し悲しくなってくる。


 俺だって自機のおかげで身体能力はそれなりに上がっているが、疲れないわけじゃないんだ。ご飯を食べたらすぐに寝よう。

 権力のおかげで寝ずの番をする必要が無いのなら、いざという時のために体を休めたい。

 なんなら天幕の外でも構わない。同じ異世界人だと思われたくないというのもあったが、早朝には起きて自主的な見張りをしたかった。


 絶対嫌がらせだろ、と言いたいくらいには俺の班に男が居ない。

 日輪くんの取り巻きの男子は上野くんのところに居るし、俺のところに居る男子は十六人の中でも使えない部類が多い。

『剣技』だけを持った馬鹿とか俺はもう知らん。侍をイメージしたらしいけど、それだけで経験が積めるわけがない。

 俺だって足りない部分が多いのに、実戦経験もない、怪我を負う気もない人間に、期待をするだけ一緒に戦ってくれる兵士たちに失礼だという結論は俺の中で出ている。


 闇夜に紛れて殺してやろうかなと思いながら眠った夜だった。


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