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21話 想い糸

「俺に言い過ぎって言ったか?どこが間違ってんだよ、なぁ。王城に篭もってる奴の言葉なんか聞きたくねぇよ。クズが。……俺たちがなんのために訓練してると思ってるんだ。持ってる人間には分からない?テメェらが持ってないから俺たちが頑張ってるんだろうが。全員が生きて帰るためにやってんのにふざけんじゃねぇ!」


 部屋の中に居た、俺含む十四人が黙った。

『騎士の宣誓』を知る人間だ。能力を持つ側の人間だ。


 残された十六人はどう思っているのか。

 それは定かではない。が、目の前の男のことなら少しは分かる。


 驚いてる。俺が大声を上げたから驚いてる。

 言葉を必死に探して、周囲に視線を配っている。


 ……なんだよ。これ、俺が悪くなるのか?

 一人でいる奴が怒鳴ればそいつが悪いのか?

 焦ってる日輪を可哀想な目で見て、俺にはそれを向けないのか?


「……なあ、何がどう言い過ぎたんだよ。俺のどこがふざけてるんだ」


 日輪、南木を見やる。

 二人は何も言いはしない。


 ジルヴァール王は退出しているが、四侯爵は控えている。それなのに誰も何も言わない。

 使用人や兵士ですらも、ものを言わない。


「馬鹿みたいじゃないか」


 思いが涙として込み上げてきた。必死に押し届けてはいるが、周りからしたらすぐに分かるだろう。

 誰かが俺の肩を掴んで後ろへと押した。上野くんだ。


「……悪いが、月夜。お前は何があっても留守番だ。訓練に参加してるから分かってるかと思ってたが……何も分かってない」


 上野くんの声を支えに涙を堪える。


「十四人でもまだ少数だけどな、必死な奴は必死にやってるんだ。個人の武勇なんて要らねぇ」


 それからは、本当に誰も何も言うことは無かった。


 ◇


 ロスダーネス奪還作戦概要と書かれた作戦指令書を手に、まばらに人が立ち去り始めた部屋の中。俺の前には秋山くんが立っていた。

 どうしたんだろう。そんな気持ちは顔に出ていたが、彼は構わずに言った。


「松浦、悪かった」


「え、いや何が」と、しどろもどろに返す。


「美紅の事、俺が原因かもしれないんだ。……会議の前にちょっと話しててな」

「あぁ、中庭で」

「見てたなら早い。それでな、俺が美紅に派閥に入るように言ったんだ。俺たちは派閥の調整だとか連絡が取れるし、美紅と愛華は孤立気味だったからな」

「あの二人が?」


 そういえば、日輪に私は必要ないとか何とか……。


「聖女の噂って知ってるか?」

「聖女?……いや街の中じゃ聞いたことないけど」

「あぁ、言い方が悪かった。『聖女』ってのは野々瀬の事なんだけどな、スキルを五つ持ってるんだ」

「五つ……!?凄いな。『聖女』ってことは回復系統が」

「だけだったら良かったんだが……、そうでもない」


野々瀬さんは十六人の一人。そんな彼女がスキルを五つ持っているというのは、並大抵でない覚悟を持っているという事だ。

 秋山くんが言うには、『呪術』や『剣技』もスキルがあるようだった。

 野々瀬さんが公言したわけではないが、『身体能力強化』があってもおかしくはないのだとか。

 俺たちのスキルは神が一定の形にはめようと整えている部分があるが、回復は『奇跡』、『魔術』はそのままだが、『呪術』というのは付与系だったりを担ってる。


「回復に近接戦闘も出来て、仲間の強化もできる。それこそ神官系の最上位職だ。……脱線したが、美紅は『魔術師』で、愛華は『付与士』だから、その役割を奪ったようになっちまった」

「『魔術』は使えないんだから南木さんは問題ないんじゃ……」

「月夜が『魔術』を覚えた。……確かにあいつのスキルは一つだけだったんだが、月夜、ろくでもない物望みやがったからな──」


「──新たな才能EX」


 あの天才で、顔がよくて、万能な……日輪 月夜が『新たな才能』を欲した?

 異世界と言えば、そりゃ魔法だとか、魔物だとか想像するだろうけど、だってそれは一人だけ、スキル系統樹を持っているようなものじゃないか。

 それがEX?スキルでS帯は見たことがないからAの次がEXなんだろうけど、A++で苦労している、あの強力な『不屈』よりも上……?


「月夜に俺たちは絶対に負ける。それは今じゃないが、十四人じゃいつか絶対に追いつけなくなる。あいつならそこの辺り分かってくれてるかと思ってたんだ。元からリーダーシップはあったから、正しい判断ができると」


 周囲を見渡した秋山くんは口惜しそうに拳を握りこんだ。

 その背中を見守る田島さんの表情を見るに、彼女も日輪くんのスキルについては知っていたんだろう。ロスダーネス奪還を控えたこのタイミングでの混乱は避けるなら、それは合理的な判断だった。


「今日の様子見るならそれも失敗だな」


 そう言ったのは上野くんだった。彼は彼で日輪くんに期待していたような発言をしていたし、思うところがあるに違いない。


「……ああ。立場が違うからだとか、そう言った甘いこと言ってる場合じゃなくなった。松浦の発言がどう転ぶか分からん。四侯爵も聞いてたし、……十四人が今以上に協力しないと難しい。って言うのが俺の意見だ」

「それ、私に任せてくれないかな。……今は『戦術』って定時報告とかしかしてないけど、他の使い方をしてみたい」

「田島さん……」

「情報戦とは言わないけど、こういうの得意だから。日輪くんが予想以上に強かったけど、今から押さえておけば信頼は得られる」


 田島さんがいったん区切り、話し始めた内容を聞いて、俺はいつかの彼女を思い出した。


「私、勇者殺すゲームしてたんだよね」


 田島 陽花里。

 彼女の表情は少しの憂いと照れを孕んでいたが、俺には悪徳令嬢にでも転生したのではないのかと、自然と背筋が伸びるものだった。


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