20話 虹の瞳
さて、振り分けとは言ったが、実際のところは貧乏くじの押し付けあいだ。
十四人は十六人と組みたくないのに対し、十六人は十四人と組みたい。
実力のない者と組みたくないのは当然だし、その逆もわかる理屈なだけに、誰かの名前が呼ばれる度に空気が悪くなっていく気がした。
できる限り同じ派閥で組まれているようだけど、不満は各々の中に確実にあった。
王都近郊の守護は『魔術師』の秋山くんと、『弓術士』の横田さんを中心に。
少し離れた場所で転移陣を警戒するのは、中距離を得意とする職業だ。
ロスダーネス奪還に向かうのは残った面々である。けどまぁ、数は多くない。
王城守護、現状維持が主体となったグループ。
陽キャ、頑張ろう派閥が主体となったグループ。
それぞれに分けられたわけだ。
王都に残る面々に不満は殆どないだろうけど、俺が属する奪還組の機嫌が悪い。上野くんがなだめているが、俺の元までヒソヒソと声が聞こえたきた。
「ろくに練習にも来ない奴と組むのかよ」
「後ろから撃たれないだろうな……」
「あいつと一緒かぁ」
たしかに。俺もそう思う。
そんな言葉を飲み込んで舌打ちを漏らす。口に出しはしないが、この分け方は俺にとって受け入れ難いものだった。
『『竜騎士』上野 翔太、『騎士』松浦 鵤、両名を勇者組の指揮官とし、部隊長と同等の指揮権を与えるものとする』
勇者組という名前がダサいのは置いておいて、俺と上野くんが指揮権をもってしまった。
俺の班の中に田島さんが居るにも関わらずだ。その他にも『魔術』が扱える女子が入ってたりと、そりゃ文句もつけたくなってくる。
一旦休憩となり、俺が田島さんの所へ行けば、自然と奪還戦に参加する面々も集まってきた。
「何を考えてるか分からない」俺の愚痴を田島さんはバツが悪そうに取りなした。
「男性上位の世界だから仕方ないよ。補佐はするから……」
「ロスダーネスまで『魔術』が使えない『魔術師』を連れてどうしろって?二百の兵に他国の軍が参加するんなら、指揮権もくそもない。いっそ独立して動く方がマシだ」
「馬だって乗れないだろ」と、俺の言葉に何名かが視線を逸らした。
行軍に必ず必須という訳では無いが、『魔術師』が騎馬に乗ることはメリットが多い。単純に逃げ足も速くなる。
「目的地までは余裕。そう思ってんだろ」
「上野くん……」
「翔太でいい。実際──」
上野くんは辺りに集まった人の顔を見て言った。
「──国内の小競り合い程度の軍勢でも、魔族が居ない、魔物だけなら過剰に思える。それ以上に兵が出せねぇんだろうが、警戒することが多すぎるからな」
「でも王城組の射程は見渡せる範囲全部だよ?いざとなれば私たちからも何人か出せるのに、警戒し過ぎじゃない?」
「秋山は訓練に参加してねぇ。制御が上手いのは皆知ってるがな。『弓術士』の横田にしたって西に篭もってるだけだ」
訓練では誰も秋山くんと戦おうとしなかった。射程オバケの『魔術師』とタイマンするのが怖くて、誰も声をかけなかったのだ。
隅の方で鍛錬をしていたけど、間違いなく最強の一角だと思う。
「鵤が指揮権持ってんのも、魔女を殺したからだ。実績があるし、俺の場合は分かりやすい」
「アイボリードラゴンだっけ。馬が軒並みビビってたよ」
「そういうこったな」
「まぁ」と、言葉を切った秋山くんに視線が集まった。
「俺たちは『魔術師』を連れてロスダーネスに行けばいい。それで仕事は終わりだ」
「……分かった」
「田島も鵤の補佐頼むぞ。俺の方はどうにかなる」
「それは分かってるよ」
秋山くんの方には『勇者』の日輪くんがいる。カリスマだけで言ったらこちらの何倍も上だ。ロスダーネスに合流するまでの間分かれていても問題は無いだろう。
それに、まずは自分のことをしっかりと正していかなければならない。
日輪くんのグループに居るはずの二人が俺の班に居るのだから。
「えっと……足でまといだと思うけど、よろしく。ほら、美紅も」
「……よろしく」
宮本 愛華に促され、南木 美紅も声を出した。
さっき、俺が使えない等の発言したから気まずいが、それを謝るのも、取り敢えず取り繕ったみたいで嫌だった。
だからだろうか。出てきた言葉は「ああ、頼むよ」という素っ気のないものになっていた。
松浦、南木、宮本と続く出席番号の関係から、俺たちは知らない仲じゃない。二人がどう思ってるかは知らないが、俺から見た彼女たちのイメージは悪くない。
……それも日輪くんを抜きに考えれば、の話だが。
「あの、知ってると思うけど、俺の前で『魔術』使わないでね」
「うん、話は聞いてる。大変そうだよね」
「いや、そうでもないよ」
南木さんは、俺と宮本さんが話しているのを見ているだけだ。強い視線を送ってきているので警戒されているんだろうけど、正直心当たりがなかった。
隣にいた田島さんもその辺は感じ取ったのか南木さんに声をかけるものの、あまり相手にはされていない。
何かあったのか?怖くて口出しはしないが気にはなっていた。
「日輪くんと分かれちゃったけどいいの?」
話題を変えようと何となしに放った言葉だったが、それに一番早く反応したのは南木さんだった。
「月夜に私たちは必要ないでしょ」
「ちょっと。言い過ぎじゃない?落ち着いてよ」
興奮したからだろうか、南木さんの瞳が赤、黄、緑と輝きながら変わっていく。
秋山くんが言っていた……これが『魔力眼』か。
凄い。俺にもよく分からないが、威圧感、プレッシャーとも言えるだろう何かを僅かに感じ取ることが出来た。
「ごめん」と、彼女は宮本さんに謝りはしたものの、次の瞬間には俺の方を向いて言葉を放った。
重く、恨みがこもったような声だった。
「持ってる人間には分からない」
だから、俺はこう返す。
「持ってない人間には分からない」
俺は聖人君子でもなければ、良い人ですらない。
嫌味だ。皮肉だ。
「力が無くて良かったな」
……けど言い返さなければ。
南木さんが勝手に行動して死なれるのは『不屈』に立てた目標に反する。
全員で生きて帰るんだ。
後ろから刺されたって構わない。死ななければそれでいい。
俺は『不屈』があれば立ち上がれる。『不死性』があれば戦える。
「戦わなくていいじゃないか」
後は能力のあるやつが頑張ってくれるさ。
能力が殆どないって事はさ、神からもらったチャンスを逃したってことだ。
皆が落ち着くまで神は待った。
質問が止むまで神は答えた。
ならそれは……自分が悪いんじゃないか?
「死にたいなら一々突っかかるな、面倒臭い。死にたくないなら城にいろ。仲間の足を引っ張るなら、俺はお前を殺す」
ああ、だからお願いだ。これで折れてくれ。
魔女を殺して以降治まっていた熱が湧き出てきている。『魔力眼』に触発されたのだろう。
「ふざけるな!!」
南木さんが大声を上げた。
それまでも注目は集めていたが、室内に響くこの声に一斉に視線が集まった。
それを押し留めたのは、『勇者』の日輪 月夜だった。
「二人ともそこまでにするんだ。一旦落ち着こう。……松浦くん、言い過ぎだ」
は?なに、お前喧嘩売ってんの?




