19話 つまらない疑念
ジルヴァール王国に住む人間たちが勇者と呼ぶ俺たちが招かれたのは、この前集められた会議室のような場所ではなく、それよりも一回りは大きな部屋だった。
本棚が一切なく、視線が通るからそう感じるだけなのかもしれないが、人口密集度的に広く感じるのは確かだ。
「結構集まってますね……」
「まだ全員集まってないと思いますけど、どうしましょうか」
「……前々から気にはなっていましたが、イカルは全員の名前を憶えているんですか?」
「まあ同じクラスの人たちですし」
俺の言葉にブレリア嬢は納得がいっていないような表情を浮かべたが、誰か知り合いを見つけたのか、一つ断りを入れてそちらの方に歩いていった。
その先にいるのは田島さんだ。あの二人が一緒に居るのを見るのは初めてだけど何か用事でもあったのだろうか。
全員が集まるまでは時間がありそうだったので、近くにいた『竜騎士』の上野くんに話しかけた。
「魔法陣の事ってどうなってるの?」
「俺だけじゃなくて他の奴らにも言ってるからな。噂は広まってるはずだ。その話題が出なけりゃ、俺たちから別働隊を出す」
「内通者が居るかしれないしその方が都合がいいけどね」
「少なくとも王城に内通者は居ねぇよ」
上野くんの言葉に俺は「どうして」と返すと、彼は部屋を見渡してから口を開いた。
「まだ来てねぇみたいだけど、美紅が『魔力眼』って言うスキル持ってるんだ。おかしな奴はすぐ分かる」
「美紅って言うと……南木さんか。それはまた便利そうなスキル持ってるね」
使えるかは別として。
そう続くはずの言葉を切って、俺もこの部屋を見渡した。
十四人についてはスキルも情報もある程度共有されてるけど、十六人のことは分からない。特に、俺には地球での横の繋がりが無かったから尚更だ。
南木 美紅は十六人の一人だし、上野くんの物言いから、王城に居るんだろう。
それで、俺がそんなに知らないとなると、職業は『魔術師』が濃厚かもな。
「ああ、それとお前。そろそろ同級生に君付け止めろよ。それに下の名前でいい」
「いや、それは……」
「なめられてもいいなら知らねぇけどな。田島は戦闘職じゃねぇんだからお前がハッキリしとけよ」
「……そういうことなら」
俺から見た上野くんは、過去の関係よりも、こっちでの派閥を重視しているように思えた。
生き残ることを考えるなら妥当かもしれないけど、それはあまりにも冷静に過ぎるような気もしていた。
『勇者』の日輪くんのグループにも口が出せるのが上野くん、秋山くんのグループだったから、彼がそんな事を言うのは意外だった。
一人残されてしまった俺は手持ち無沙汰になって壁にもたれかかり、上野くんの言葉を反芻する。
……いいや、もう翔太と呼んだ方がいいのだろうか。
ブレリア嬢から頂いた服がしわになるのも気にならず、ただそうして考え事をしていた。ジルヴァール王が来たのはすぐ後だ。
「……以上が今回の作戦となります」
ジルヴァール王と一緒に入ってきたゴライアス騎士長殿が作戦の説明を行い、集まった四侯爵と俺たち三十人はそれに聞き入った。
作戦としては簡単で、部隊を二つに分けて北の街を目指すのである。その間にある町は二つで、片道は五日ほど。
ダンジョン付近にあると思われる転移陣についても人を待機させるらしいので、実質は三部隊という事になる。
それで部隊編成はどうするかと言う話になるのだが、その前に確認することがあった。
「それでだ、行軍に参加する意思のある者は挙手してくれ」
ジルヴァール王の言葉に手を挙げたのは二十五人。
残りの五人については仕方がないだろう。二十五人が参加してくれるというだけでも大助かりなんだから。
「今手を挙げた者は署名を。振り当てを一緒に考えよう。スレイン候、現地の説明を」
「かしこまりました」
手を挙げなかった五人が使用人に連れられて部屋の外に誘導されているのを横目に、控えていたスレイン候へと向き直る。北は彼の領土だ。土地や生物については詳しいだろう。
「今回諸君らに目指してもらうのは、ロスダーネスという街だ。これは砦を改修したもので、周辺に街が発展していったものだ。街に外壁らしい外壁はなく、報告では魔族の姿も確認できなかったらしい。道中の町も危険は少ないとのことだが、油断はしないでほしい」
全領土を捨ててやってきた割には王都に活気があると思っていたが、やはりどうにも違和感がある。奪還戦と銘打っておいて魔族の姿が無いだとか、魔物の情報が一切出てこないだとかあり得るのだろうか。
王都に逃げてきているという事は一度は攻め立てられているはずだし、ブレリア嬢の生家であるスカイハット家は勇者召喚前に壊滅させられている。
おかしくないか?
……たしか手紙では魔族に操られた魔物が居たとあった気がするけど。
「魔物の姿は見えなかったんですか?手紙には書いてありましたけど」
手を挙げて声を出したのは日輪くんだ。彼に集中が集まるが、そんな視線を気にするようなこともなく、スレイン候の方を見ている。
「もちろん魔物自体は多くいるとも。それこそ不自然なくらいに多種多様だ。だが、数で押せないことはない。他国の協力もあるしな」
……これは考えの行き違いがあったのだろうか。
街に名のある武将の姿はなくとも、雑兵は多くいる。そういう事ならまあ理解もできる。彼らにとっては見慣れた光景なのかもしれないが、俺たちにとっては初めてのことだ。
状況のイメージが浮かびにくいのかもしれない。
「魔物はゴブリンを主体とし、オークやハピーなどの姿も見えたそうだ。我が国からは一つの部隊に二百人。合わせて四百人が国から出せる限界の兵士の数だ。ここに国外からの応援が入ってくる」
言葉を引き継いだのはゴライアス殿で、その話の内容は俺たちにも分かりやすく伝わった。この辺りは軍関係者と貴族との差なのだろうか。
それ以降、特に質問もなく、俺たちの各部隊への振り分けが始まった。




