16話 水面下に沈む
上野くんの小っ恥ずかしくも、心強い言葉を聞いたその日の夜。中庭で簡単に自傷し、魔女アンナの元までやってきた。
毎度『魔術』で気絶させているのだが、この日ははっきりと意識を保っていた。
「ひっ……!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
寝てたら起こすのが面倒だけど、起きてたら起きてたでまたダルい。
嫌がる彼女を拾い、抱き上げ、俺は質問をした。
「ダンジョンでさぁ……どうやって魔物集めたの?ちょっと多すぎたでしょ」
屋敷の使用人によって一応の服を着せられた彼女の脇腹を背中から回した両腕で優しく掴む。
顎を肩に乗せ、耳元での質問だった。
歯が折れそうなほどにガタガタと打ち鳴らしているアンナは俺の質問に答えない。
いや、答えられないと言った方が正しいのだろうか。
まあそれも考えてしまえば何となく分かる事だが。
だけど俺が出した答えを一方的に言うのは面白くないので、少しだけ待つことにする。
脇腹を波打つように軽く叩く、十の指はさながら砂時計だった。言葉にならない呻き声は聞こえてきても、そこから何か意味のあるものを感じ取ることは出来ない。
背中側の裾をたくしあげ、もう一方の手の中に炎を生み出してみても何も言わないかった。
肌に当ててなくてもこの距離なら普通に熱いと思うんだけどな。
顔を至近で見合わせ、暗闇の中でアンナの瞳を覗き込んだ。
そこから何か感じ取れと言われても無理だが、彼女の中で命より重い一線があるんだろう。
そりゃ何も言わない。俺に拷問の技術と、あと少しの無慈悲さを持っていれば口を開けたかもしれないのだが。
アンナを椅子の上に置き、顎を掴めば、彼女は抵抗することなく無様に口を開けた。
諦めたのだろうか。死にたいのだろうか。
『不屈』的にも殺した方が良いけど、とりあえず今日は答え合わせをして終わりだ。
小さく可愛らしい舌を掴んで引っ張り出す。
「ダンジョンにさ、転移の魔法陣でもあるんでしょ?」
「…………」
彼女の舌の先が僅かに上に動いた。
これなら閻魔が舌を抜くのも分かる気がするな。
本当に当たっているかは分からないが、ダンジョン周辺に多数の魔物が徘徊、生活したような跡はなかった。
ダンジョンだって普段から人が入ってる。異常があれば分かるはずだ。
そこまでいけば転移の線で考えて間違いではないだろう。
俺がいるせいでダンジョンに『魔術師』が一緒に入れなかったけど、明日は北側の人がダンジョンの調査に入る。
そこで何か分かればいいんだが。
あとは次にいつ魔法陣を使われるかのタイミングだな。
翌日、何か情報が上がったようなことは無く、兵士たちの動きも普通だった。
……おかしいな。確実に何かあるはずなんだけど。
北には十四人から『魔術師』、『暗黒騎士』が居る。田島さんの『戦術』メモには二人共に『魔術』があるから何か分かるかと思ったんだが……。
『戦術』の方には俺が感じた疑問を書き込んであるので、ダンジョン、もしくはその付近に何かあることは十四人に共有されている。
他の人も同じ意見が多く、警戒してくれているから、もし何かあっても反応は早く行えるだろう。
そこら辺、俺は詳しいわけじゃないし、頭のいい奴が考えることだから、王都を離れる時に気をつけておけばいい。
……さて、そんなこんなで一週間が過ぎた。
暇を見つけては王城に集まって模擬戦を行い、見回りを行っては魔物を殺してギルドで金銭に変える。
俺以外はお賃金を世話になってる貴族家から頂いてるらしいが、ぐっと唇をかんで皆で分け合った。俺だって普通に過ごす分には文句ないからな。
大体のクラスメイトが生活に慣れてくれば、やはりどうしても無視できないのがクラス内での派閥である。
転移から今まで、大きく十四人、十六人と分けていたが、それが代わりつつあった。
元からあった、日輪 月夜が中心の陽キャグループ
強い人の庇護下に入る、実質ハーレムの王城守護グループ。
真面目に頑張っている、陽陰混合グループ。
消極的に現状維持がしたい保守グループ。
分けてみるとだいたいこんなものだろうか。
これに保持スキルが多い方が強いという皆の気持ちが乗り、少し難しくなっていた。
例えば、ハーレム王城守護グループをまとめている秋山くんはスキルを五つ持っている。
頑張る陽陰混合グループの田島さんは四つだし、保守グループも四つ。
その下にスキル四つや五つが揃ってるんだから、均衡は必須なのだが、『勇者』であるはずの日輪くんのスキルが一つだけという噂が広まっている。
そのせいで日輪くんの陽キャグループが下に見られつつあった。
俺は真面目に頑張っている陽陰混合グループだから、当然それは好ましくないし、自然と、空気が悪くなっていくのも当たり前のことなんだろう。
それでも、何も、悪いことばかりではない。
『魔術師』である秋山くんはハーレムだとか言われているが、一番長い射程を持って王城で戦う気のない、戦えない女子の多くを安心させている。
訓練の時には、戦わないにしても全員が顔を出すようにしているらしく、危機感を持ったまま安定させてくれているのはありがたかった。
陽陰混合グループは訓練に女子が多く来るから気合が入るし、今まで絡まなかった人とも距離が縮まっている。
十四人だけじゃなく、十六人の中から頑張ろうとする人がいるのも普通に嬉しかった。
保守グループは比較的安全な西と南の人たちが中心で、生産系の人が多い。
仕事はしてくれているし、大抵は後方なので実害はなかった。聞くところによると自主練習ぐらいはしているらしい。
各々が日々を過ごすなか、ジルヴァール王は大掛かりな作戦を考えていた。
俺たちはその通達を使者の口から聞くことになる。
この世界に来てから十日目の朝だった。




