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15話 異常だったと皆が言った

 日輪くんからの問答は俺の異常性を知らしめるだけで終わってしまい、そこから何か話題が発展することはなかった。俺としては当たり前のことを言っているつもりでも、実際に戦って、傷を負ったことのない彼らには俺の気持ちは分からないだろう。


 それが魔術師ならどうでもいいけど、クラスの中心に立つ人間は決まって前に出る法則を推していきたい。


 それからボッチはボッチらしく黙っていたのだが、どうやら俺だけハードモードで進行しているんじゃないだろうか。

 日輪くんたちは貴族家の次女とかに良くしてもらっているみたいだし、工藤さんは工藤さんでチヤホヤされているようだった。


 日輪くんが王都のどこに配置されているかは分からないが、工藤さんは間違いなく東側のはずで、それならブレリア嬢率いるスカイハット家の傘下だと思うのだが……。

 モヤモヤしたものを感じながらも、いま口を出せばさらに視線が厳しいものになるのは分かっているので何も言いはしない。


 ダンジョンから出ても日輪くんたちのホンワカムードが壊れることはなく、シリアスを保っている俺がどうしようもなく馬鹿に見えてくるものの、お気楽なのは彼らだけで、兵士たちは気を引き締めて任務にあたっているのだから、やはりあいつらが悪いのだと思う。


「皆おまたせ」


 日輪くんは何事もなくダンジョンの外で待っていたクラスメイトたちに声をかけた。そこにはさっきまで魔物の死体を見て僅かにでも顔をしかめていた男は居なかったかのように、何事もなく彼は笑っていた。

『勇者』だからと、日輪 月夜だからと、そう言って納得したくはなかった。俺はお前に勝てるし、なんなら嫌いだ。

 陽キャグループの中で自分だけが分かってるみたいな、そんな質問攻めが気に入らなかった。


 俺の手前、魔術を使わないけど、日輪くんの周りに集まる女子は彼に自分の魔術を見てほしいに違いない。

 ……だって三人居て、三人ともが俺の方をちらちらと伺ってるんだから。そういうことだろう?


「松浦、ちょっと来てくれ」

「……」

「……どうした、機嫌悪いな?」


 そんな暗黒面に片足を突っ込んでいる俺を呼ぶのは、『竜騎士』の上野君だ。

 彼は細い槍を持っていて、歩くたびに刃元に付けられた灰色の毛皮が揺れていた。その後ろにはクリーム色の甲殻を持った大きな竜が居て、彼の背に自らの頭を擦りつけていた。

 他にやることもないし近づいていく。


「まあ、気持ちは分かる。分かるだけだが、それは勘弁してくれや」

「何が」

「……ほら。あいつらだろう?俺は小説をほとんど読んだことねぇから知らんが、このまま魔族が大人しくいくとも思わん。な、あいつらと喧嘩したのか?」

「騎士長との戦いでさ、俺と同じか、それぐらいしないと負けるって言った。工藤さんが弱いとも言ったし、……さすがにそれは冗談って言ったけど、ドン引きだったよ」


「そりゃそうだ」と、上野くんは背を押す竜の額に手を置いて半身で笑っていた。


「十四人の男連中にしか分からないんじゃないか?そういう、危機感っていうか、焦ってる感じ」

「焦燥感のこと?」

「それだ。……昨日、秋山とは軽く話したけどな、俺たちのステータスには数値だとかレベルがないだろ。自分のキャラがこの世界で強いことは分かってるが、それがどの程度強いのか分かんねぇ。でだ、その中でお前は最強に近い。スキルの影響だろうけどな、……そこんとこ分かってるのか?」

「自傷出来るからでしょ。死ににくいし」


 自分で突き刺した左手を見てみるが、そんな傷は今はもうありはしない。

 当たり前だ。自分で治したんだから。


「そういうことだな」

「俺が戦った感じ、魔女は強くなかったよ。それこそ前衛なら数舜で終わるだろうし、後衛でタイマン張っても押し勝てる。ただの角が生えただけの人間だったよ。相手が放った魔術の中を突っ切れれば簡単に終わる」

「それが出来ねぇっての。ダメージをどれだけ負うのか分からないのに、デスゲームで一撃受けようとは思わねぇ。それがどれだけ焦燥感と正義感があっても難しいだろ。それに慣れるまで相手が待つとも思わないし、この国だって悠長に待ってるとも思えない」


 上野くんが顎で指したのは、日輪くんたちのいる方向だった。それだけで言いたいことは何となく分かった。

 十六人は殆ど戦えないか、その訓練中に死ぬ。

 こんなところだろう。


「はっきり言って邪魔だ。ダンジョン入ったお前ら待ってるだけで黙ってられない。北も、西も南だって警戒任務をこなしてる。どこも今頃は似たような状況だろうよ。十四人は皆、焦ってるはずだ。こんな奴らに背中は預けられない」

「そもそも十六人は俺たちよりスキルが少ないんでしょ?」

「それもある。形になってない、神に言われて作ったような姿に俺たちのキャラが負ける?それこそ冗談だろ。俺のスキルは五つあるけど、あいつらは三つある方が珍しいんだから」


『暗殺者』の影山くんが調べてくれたのもあるし、親しい人間同士ならそういう話もするだろう。だからこそ、こういう差は話題になりやすい。


「俺たちでどうにかするしかないんだ。だからこそ、昨日のお前が分かりやすい」

「どういうこと?訳が分からん」

「実戦形式での訓練だよ。十六人を一から鍛えるより、十四人のうち前衛職だけでも慣らしたい」

「……そういうことなら」


「頼む」そう言って深く頭を下げた上野くんと背後の竜を俺は笑えない。

『不屈』に誓った、クラス全員で生きて帰れるように最善を尽くすという命題。

 それに向かう最短だと俺自身思うし、彼が言ってくれた言葉が純粋にうれしかったから。


 ──『戦術C』に情報が追加されました。

 上野 翔太が『竜騎士』の誓約を行いました。

『俺たちで皆を護るんだよ。そのためにはお前の協力が絶対だ。頼むぜ、騎士様。お前が鍵だ』


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