14話 勇者
ブレリア嬢と俺との距離が縮まったような気がした。
昨日はなんとも恥ずかしい姿を見せてしまったのだから、ただの思い込みではないと思いたいところだ。
田島さんが俺の何を見て信用できると言ったのか知らないが、同じクラスならある程度は信用出来るだろう。
そういう意味で言うなら、俺は人畜無害だと思われていたのだと思う。
居ても居なくても変わらないが、言ったことはきちんとこなす人。
所詮俺の評価はそんなものだ。他のクラスメイトにしてもそうだったのだろう。
それも昨日の訓練で壊れてしまったが。
「日輪くん疲れてない?」と、そう言うのは一緒に東を任された『聖堂騎士』の工藤さんだ。
魔女が率いていた魔物の発生元のダンジョン。今日はそこの調査に来ていた。
「うん、どうにかね。工藤さんは?大丈夫?」
「うん任せてよ!『聖堂騎士』だからね、今ならそこらへんの暴漢も一撃だよ!」
「ははは、それは頼もしいな」
工藤さんと楽しそうに話すのは、『勇者』、日輪 月夜。
彼のことを言い表すなら、才能に満ち溢れた男、だろうか。彼からすればテレビに雑誌、取材されたことなんて自慢にすらならないだろう。
身長が高いし、体も鍛えている。今戦えば俺が勝つだろうけど、それもいつまで優位を保っていられるのやら……。
「サザンックロス!!……ふぅ」
「流石だね」
「このくらい余裕だよ!」
それで本題のダンジョン攻略だが、工藤無双が始まって俺たちの出番が全くない。
「なぁ松浦、暇だな」
「うん」
俺の横でため息を吐くのは日輪くんのグループの一人の、野山というスポーツマンである。彼の職業は……『戦士』か。まあ妥当なところだな。
武器は小さめのタワーシールドとエストックのような細い長い剣で、俺の知る彼のイメージとは少し離れたものだった。両手斧でも振り回してる方が似合うと思うんだが。
「海斗も松浦もそう言ってやるなよ。思うところが無いわけではないけどな」
「やっぱり修二もそう思うだろ?あいつはどこ行ってもやること変わんねぇよな」
「月夜らしくていいじゃないか」
野山くんと楽しそうに話しているは鳥山 修二。『弓士』の男である。
日輪 月夜。野山 海斗。鳥山 修二。
この三人がクラスの中の男子をまとめている主要人物である。リア充グループとでも言えばいいのか、この三人と数人の女子を合わせてクラスカーストのトップに座っている。
その女子に『魔術師』が居るために今回は別行動だが、彼女たちは今頃ダンジョンの外で『竜騎士』である上野くんのドラゴンと遊んでいるだろう。
クラスカーストが高いと能力が高くなる法則でもあるのか、二日目も王城で訓練している人が居るというのに出てきているので、最低限の戦闘はこなせるはずなのだが、見ての通り工藤さんが無双して進んでいる。
これには同行してくれたジルヴァールの兵士たちも苦笑いだった。
というか、王都に近いダンジョンということもあってか、普段は良い稼ぎ場であるらしい。
そう言われればなるほど。罠の類は確認できないし、地図は完成されている。
冒険者みたいな恰好をした人にも何度か会っているから、どうやって魔女が王都を襲えるだけの魔物を集めたのかのが疑問視されているようだった。
調査範囲をすべて見終わり、帰り道では工藤さんを押しとどめて陽キャ三人に戦闘をさせるようにしていたのだが、やはり忌避感というか、血やら臓物やらが飛び散るたびに腰が抜けてしまう。
そのたびに兵士たちがアドバイスを出しているにも関わらず、しだいに話題は戦闘訓練での俺の戦いになっていた。
「松浦はさあ、なんであんな迷わずに剣が振れるんだ?」
そう言いだしたのは野山くんだったか。
もう少し綺麗に勝つべきだったと反省していた俺としては嫌な話題だったものの、日輪くんに「俺も聞きたいな」と言われてしまっては答えないわけにはいかない。
そういう空気に気が付けばなっていたのだ。
「……いや、……迷ったら負けるから」
「いやいやいや!そんな割り切れないって」
「痛いどころの話じゃなくないか?」
「傷を自前で治せるなら我慢できるんだよ。というか、我慢しないと死ぬよ?そりゃ避けれるなら避けたほうがいいけどさ……一対一ならあれくらいやらないと」
俺の答えに野山くん、鳥山くん、工藤さんはドン引きだった。
彼らの感覚の方が正しいのは分かってはいるけど、俺にはどうも納得できなかった。少し甘く見ていやすぎないか、と。
そんな彼らを見て口を開いたのは日輪くんで、「それじゃあさ、騎士長は強かった?」と聞いてきた。
「実力はあるでしょ。実際、突きは避けにくいし。脅かすぐらいのつもりだったんじゃいの?」
「松浦くんはそれ以上に強いわけだ」
「あー、いや、剣の腕なら負けてるよ。多分だけど。でも実際に戦ったら、俺が絶対に勝つ」
「工藤さんと戦ったら?」
このイケメンは何を言ってるんだ。
要領を得ないが……、そうだな。
「今なら勝てる」
「それはなんで?俺は工藤さんが勝つと思うけど」
「工藤さんの剣技は派手で強力だし、きっとスキルも強いんだろうけど、それだけだよ」
これには工藤さんもおもいっきり眉を顰めたが、今の俺に真実を語る以外の選択肢はなかった。
気分が高揚しているのもあったけど、一番は、こんな能天気な人間に負けてはいけないと、俺が思っているからだろう。
「……なんて、ただの僻みだよ。工藤さんごめんね。俺にはそんな格好いい技はないし、鎧もそっちの方が強そうだ」
そう。これは僻みなのだろう。
実際に戦ってみない事には何も分かりはしないのに。もしかしたら俺の『不死性』が彼女の『何らかのスキル』に打ち負けるかもしれないかもしれない。
きっと、俺は羨ましかったのだ。
……ああ、お前らは異世界転移を楽しめてるんじゃないか?
良かったな、俺が思うに早死にするぞ?




