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11話 生きるための変化

 松浦 鵤が席を立ち、ブレリア・スカイハットと田島 陽花里はまた別の場所で顔を合わせていた。先程のような高級レストランではなく、なんてことの無い道の一つを一緒に歩いていたのだ。


「さっきはああ言ったけど、鵤くんは魔女に手を出さない。信頼はできると思うよ」


 陽花里の言葉にブレリアは一回視線を向け、「でしょうね」と短く同意した。これに驚いたのは陽花里であり、ブレリアはその様子を疑問がった。


「知り合いなのでしょう?どうして驚くんです」

「鵤くんは……あー、いや、私から言うのは悪いかも……本人から聞いてもらえる?ごめんね」

「煮え切らない答えですね。何となく予想は出来ますけど。今日の訓練の様子を見ている限り、そういうことなのでしょう」


「あははー」と乾いた笑い声を出した陽花里はバツが悪そうに空を見あげ、「よく見てるんだね」と続けた。


「私は鵤くんのこと何も知らなかったなぁ」

「では彼は……自傷癖があるとか言う話は?」

「なにそれ、全く聞いたことないけど」

「昨晩家の庭で左手を剣で突き刺していました。それに今日の訓練も。イカルは『戦場で生き残るのは俺みたいな人だ』と言っていましたが、到底理解できそうにありません」


 足を止めたブレリアに陽花里も釣られるように止まり、自身が知る松浦 鵤について思いを張り巡らせてみる。

 それは教室で一人携帯を弄る彼であったり、『不屈』に動かされる彼であった。

 彼は言われたことはそつなくこなすが、何か目立つことはしない。ただ、比較的に真面目であることは違いなかった。


 そう考えると、陽花里は存外、彼のことを知らない。クラスで彼のことを詳しく知っている人を探す方が難しいかもしれない事は直ぐにわかったが、この世界に来てから彼と一番話しているは自分であるとも理解していた。

 それなら、自分が一番分かっていると言っても過言ではない。


「実際、鵤くんはめったことでは死なないよ。そういうスキルを持ってる。羨ましいけど、羨ましくない。多分だけど……一生懸命頑張ろうとしてるだけなのかもね。そういうスキル構成になってるもん」


 ブレリアは彼女の言うスキルが分からなかったが、分からないなりに理解しようとしていた。

 スキルというのは、きっと神から得たギフトのようなものだと。


「不死に近いということですか?」

「うん。ブレリアさんが言ってた自傷は痛みに慣れたかったからなのかも」

「人は簡単に自分を害せません。私にはイカルがそんなに狂っているようには……」

「ああ……。そうだったんだ」


 何の言葉が引き金になったのか。今度は陽花里が歩行を止めた。一人で勝手に納得されてはたまったものではないが、陽花里は鵤に気を使ってかその辺を語らない節がある。

 彼女は黙って陽花里が口を開くのを待っていた。


「……鵤くんは、静かに狂ってる。うーん、狂い始めた?でもスキルが原因なのは間違いないけど……」


 陽花里が漏らす言葉の端々をブレリアは拾い集める。納得したような陽花里自身もそれを形にするのは難しいらしく、きちんと言葉を聞くのはまだ先になるだろうから。


「イカルのスキルは不死だけではないのですか?」

「ん?あぁ、十四人はだいたい四つは持ってるよ。五つが最大で、鵤くんは五つ持ってる。これも本当は言わない方が良いんだろうけどね。このままいくと鵤くん大変そうだしさ、助けてあげてほしいなって」

「彼を助けるのは吝かではありませんが。変に肩入れするわけにも……」

「婚期を気にしてるなら、そのまま鵤くんと結婚しちゃいなよ」


 明らかに渋い顔をしたブレリアを陽花里は笑った。それはそうだろう、と。

 ここに来る以前、一年と四ヶ月ほどの月日であったが、鵤に心を惹かれるような何かを陽花里が感じたことはないし、彼女もそうに違いない、と。


「ごめんね、冗談だよ」


 手をひらひらと振って、「じゃあね」と王城に戻っていく陽花里を、ブレリアはなんとも言えない表情で見送った。


 ◇


「あの建物って何かな」


 視線の先には大きな青い建物があった。青い染料と言われてぱっと出てくるものはラピスラズリだけど、もしそうならたいした資金力だ。

 俺の問いは、ブレリア嬢が付けてくれた下女が答えてくれた。


「あちらにございますのはギルド会館ですね。冒険者、商業の複合施設です。マツウラ様、ご興味が?」

「登録料が要らないなら冒険者になっておきたいんだよね。魔物倒してたらお金入ってくるんでしょ?」

「概ねそのような解釈でお間違いないかと。登録料もございませんし寄りましょうか」


 ギルド会館へと向かう足取りは自然と軽い。建物もそうだが、人の熱気に巻き込まれているような、そんな感覚があった。


 柱の間を抜けて最初に目に付いたのは、二つの大きなカウンターだった。それぞれ床に精巧な彫りが刻まれて迷うことがないようになっている。

 所々並べられた黒板にはチョークでその日の魔物の討伐報酬だったり、ポーションの値段などが書かれていた。

 サンドイッチやら軽食系の売り子が行ったり来たりして、テーブルに座った男たちがそれを頼む。凄いな。思ったよりも活気がある。

 王都まで攻め込まれてる筈なんだが。


「マツウラ様こちらです」

「あ、はい」


 すっかり見入っていたが観光に来たわけじゃなかった。

 やはり紙は貴重なのか小さな石版に受付嬢が筆で色々と情報を描いていく。やっぱ受付は綺麗どころを入れるんだな。日本だと受付はコロコロ変わるけど、こっちだとどうなんだろう。大変そうではあるけど。


「はい……、これで大まかな準備は終わりました。パーティー設定はどうされますか?」

「パーティー設定……っていうと、自分の『職業』の情報ですか?」

「概ねそのような感じです。あくまで参考ですので詳しくはお伺いいたしませんが、どうされます?」


 後ろで待ってくれている下女さんに視線を向けると、何があったのかと可愛らしく走り寄ってきてくれた。

 俺が国の所属だから、あくまで冒険者は金銭を稼ぐためだけになるのだと伝えれば、クエスト参加は断れるから登録しておいて損はないと言われた。

 そういうことなら、登録しておこうかな。


「じゃあ騎士でお願いします」

「騎士……ですと騎士証の提示をお願いしているのですがお持ちでしょうか」


 騎士証っていうのはあれかな、資格証みたいなものだろう。困ったな……この国の騎士ではないからそんなものを贈与されたことはない。


「あー、じゃあもういいです」

「でしたら登録は以上です。何か質問はございますか」

「いいや、特には」


 最後に木彫りのペンダントを貰い、俺たちは受付をあとにした。


「警戒されたかな」と俺が問えば、下女さんは「国へ報告は上がるでしょう」と答える。

 そりゃあ、騎士を自称する人間を警戒しないはずがない。他国の騎士だったら国家間問題にも発展する危険性があるからだ。


 そこから大人しく屋敷に帰った俺は、彼女に人が一人入りそうな袋を持ってきてくれるように頼んだ。


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