【ユレイシア貴族連合王国】再編(1)
――クァンリー城城主執務室にて
「どんな気分だい?」
「うん?」
机で黙々と政務に励むサトルに、ハオランが話し掛ける。
サトルがなし崩し的に城主の地位を継いでから、あっという間に一ヶ月の時間が経っていた。
ようやく仕事にも慣れ、ディリップの補佐なしでも仕事を回せるようになった。
「おっと、失礼しました。今は上司でしたね。アスカイ様」
「良いよ、別に。誰かが見ているわけでもないし。そもそもレイは食客※1って扱いだ」
助け出されたハオランはその後地元には帰らず、食客としてクァンリー城でサトルの政務の手伝いを行っている。
曰く「お前を城主にした事は俺も関わってる事だから、その分は手伝ってから帰る」とのことである。
サトルは初め意味がわからず首を傾げていたが、人手が増えるのは歓迎だったようで快くそれを受け入れた。
「それで、どんな気分っていうのは?」
「城主の椅子の座り心地のことだよ」
「どう、と言われてもねぇ……」
キリが良いところまで仕事を終わらせ、サトルが背伸びをする。
「正直、座り心地はあまり良くないな」
「ほほう。一城の主の椅子の座り心地が良くないと?。流石、たったの一年とちょっとで、凡百の農家から城主の地位に上り詰めた男は言うことが違う。もっと派手な椅子が欲しいと?」
ハオランがクスクス笑いながら、からかうように皮肉を浴びせる。
「いらない、いらない。そんな椅子、肩が凝って仕方がないよ」
「はは、違いない。でもまぁ、そうか。王宮からの誘いすら断る君にとって、城主の椅子などそんなものか。権力争いは汚泥なんだって?」
「かつてそう言ったこともあったね。でも今にして思えば、僕が汚泥と感じ嫌悪していたのは、権力争いではなかったと思う。醜いと思ったのは、この国で権力を持った自分自身だったのだと思う」
「自分自身を嫌悪?何故だい?権力者そのものを醜いと思っていたとか?」
「いや、そうじゃない。この地位に就いたことで改めて思ったよ。国を管理する為には、やはり権力は必要なものだ。汚いばかりではない。でも、それを発揮する人間が、異邦人であるということが嫌だった」
「うん?どういうことだ?」
ハオランが首を傾げる。
「君が知っての通り、僕はこの国の人間じゃない。僕はこの国のことは好きだけど、所詮は外部の人間だ。住まわせて貰っている部外者が、その人様の家のルールに口を出すなど、図々しいにも程がある。この国のことは、この国の人間が決めるべきなんだ。君たちだって嫌だろう?他人にとやかく言われるのは」
「図々しいか、なるほどね」
サトルの言葉にハオランが納得したと、手をポンと叩く。
「君らしい、実に殊勝な考えだ。でも、生まれも育ちも生粋のユレイシア王国の民である、俺の考えは違う」
「と、いうと?」
「俺たちにとって肝要なのは、為政者の出身じゃない。求めるのは、自分たちの生活を良くしてくれるかどうかだ。俺的に言えば、金を稼ぎやすい国にしてくれるかどうか、だな。早い話、それさえ出来る能力があるなら、上は誰でもいいのさ」
「能力と利益が全て……か。商人の君らしい、実に割り切った考えだね。でも、僕にはそこまで割り切って考えるのは難しそうだ」
「じゃあ君の理屈でいこう。君の考えでは、他人を助けられる能力があるのに、それを行使しないのは罪なのだろう?ならば、為政者として多くの民を救える能力がある君が、その力を行使しないのは罪だろう」
「む……」
「どうだい?君が城主の地位にいることに、少しは理由をつけられたかな?」
ニヤリとハオランが笑みを浮かべる。
「……そうだね。この椅子も、多少座り心地が良くなった気がするよ」
そんなハオランにサトルが苦笑する。
「じゃあ、早速この椅子にふさわしい仕事をするとしますか。レイ、ちょっと皆を軍議室に集めてくれるかな?話したいことgあるんだ」
「承知した。何を話すんだい?」
「なに、大したことじゃない。――たかだか、この城の今後についてだよ」
※1 君主などが才能ある者を客人としてそばに置くこと。領土などは持たないが、代わりに主よって養われ、その対価として自身の才能を主のために使う
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