【ユレイシア貴族連合王国】城主(21)
「キストラ様!!」
「今の叫び声は何事でありま……なっ!?」
プラデーシュの断末魔の叫び声を聞いた兵士数人が、バタバタと執務室に乗り込んできた。
「こ、これは……!?」
執務室に乗り込んだ兵士たちの目に飛び込んできたのは、血みどろになって事切れているプラデーシュと、無表情でその死体を眺めている、全身に返り血を浴びたディリップだった。
「が、ガルグ様!?これは一体!?」
「ん?ああ、見ての通りだよ」
「……は?」
特に狼狽える事もなく、ディリップが手に持っていた短刀を放り投げる。
「キストラ様が『遂に』ご乱心されてな。ご覧の通り『自分に刃を突き立てて自害』なされたんだ」
「……はぁ?」
全く『ご覧の通り』になっていない適当な説明を受けて、兵士達が一瞬困惑する。
だがすぐに『何か』を察したのか、お互いの顔を見合わせ、意見を合わせるように一度頷いた。
「そうですが、キストラ様が……」
「元々、情緒不安定な方でしたからね。いずれこうなるかも、とは思っていました」
「理由はともかく、自害なされてしまったのであれば仕方ありません」
兵士たちが白々しい発言をしながら、プラデーシュの死体の片付けを始めた。
この辺りからも城内における、プラデーシュの扱いの程が伺い知れる。
「おい、お前。すぐにガルグ様のお着替えを用意しろ」
「ハッ!」
一人の兵士が駆け足で部屋から退出する。
「ふむ、困ったな。この緊急時に城主がこの有様では。仕方がない。一時的にだが、私がこの城の指揮を取ろう」
「ええ、仕方ありませんね」
「お願いいたします、ガルグ様」
――クァンリー城城門前にて
「破城槌の準備できました。いつでもいけます」
「うん、ありがとう。合図するまで、そのまま待ちで頼むよ」
「ハッ、承知しました」
「欲を言えば、攻城塔も欲しかったな」
「この短時間で贅沢は言えないよ。簡素なものでも、破城槌を用意できただけで上出来だ。後は彼らの反応次第」
ハオランが城に帰って翌日の朝、準備万端整えたサトルの軍勢が、威嚇するように城門の前に集結していた。
「午後になっても何の反応もないようなら、とりあえず挨拶代わりに、城門に破城槌を打ち込む。奴らに我々が本気であることを示す。いいよな、親父殿?」
「うん。彼らには申し訳ないが、礼儀正しく明日まで待っている義理はないよ。こっちも時間がないからね」
陣内に、一触即発の雰囲気が漂い始める。
(正直、立て篭もられたら、不利なのは兵糧に乏しいこちらだ。だが、この国は今大規模な戦争中。となると、この城にいるの兵はただの留守番。数はそこまで多くないだろうし、士気も練度も高くはないだろう。勝算は十分にある)
「親父殿!」
「うん?」
サトルが攻城戦について考えを巡らしていると、ガラガラと音を立てて城の城門が開いた。
そして奥から小さな箱を抱えた男が、数人の兵士を引き連れて現れた。
「……何だ、お前は?」
ヘイキチが前に出て、現れた男に問いかける。
「クァンリー城城主代理、ガルグ・ディリップです」
「城主代理?」
ヘイキチが首を傾げる。
「当城城主キストラ・プラデーシュは先程、自害されました。これは、その首でございます」
ディリップが手に持った箱の中身を、ヘイキチに見せる。
「我ら一同、北の賢者とその配下全員を歓迎し、この城の全てをアスカイ・サトル様に委ねます。ですので、どうか矛をお収めください」
ディリップとそのお付の兵士たちが、恭しくサトルとヘイキチ達に跪く。
「ガルグさんと言ったか、頭を上げて欲しい。受け入れてくれるというのあれば、私達が貴方達と戦う理由はない。城内を案内してくれるだろうか?」
「はい。勿論です」
ディリップに先導され、サトル達がクァンリー城に入城した。
クァンリー城城主アスカイ・サトルが誕生した瞬間だった。時は帝国暦333年、連合歴124年のことである。
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