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【ユレイシア貴族連合王国】城主(10)

「地元では『悪魔の耳』なんて呼ばれていました。前世で罪を犯したから、神様が今生の僕に罰を与えたんだとか。両親も大層、この耳のことを毛嫌いしていましたよ」

「……よく、今日まで生きてこれたな。人非人間引き法※1に引っかかるギリギリじゃないか?」

「ええ、両親や村の人間によく言われました。『耳を切り落とすか、死ぬかどちらかを選べ』とね。勿論、そんな事は嫌なので、あれこれと理由をつけて逃げてきたわけです」


 気楽に話して良いものではない重い過去を、ユーハンがそうとは思えない程、さらりと語る。


「まぁそんなこんなで、なんとかこの歳まで生きてきたんですが、昨年いよいよこれはマズイという事態に発展してしまいまして。村からほうほうの体で逃げ出して、幸運……あーいや、この場合は不幸中の幸い……ですかね?ともかく、餓死直前に偶然、この村に辿り着けたというわけです」

「そうか……それは大変だった……な?」


 どう反応していいのか困る話題をスラスラと話されて、ハオランが口ごもる。


「あはは、まぁこんな話をされたら、やっぱりそういう反応しちゃいますよね。でも、今はもう本当に気にしていないんですよ?この村の人達は、僕のこの耳を見てもそれほど気にしませんし、何より先生が教えてくれました。これは誰にでも起こりうる、先天性の形状異常なんだと」

「先天性の形状異常?」

「先生曰く、母親のお腹の中にいるときに発症する身体の異変、だそうです」

「あーうん、なるほ……ど?」


 わかったような、わからないような説明を受けて、ハオランが曖昧な返答をする。


「つまり僕が悪かったのは運だけで、僕自身は別に何も悪くなかったというわけです。だからもう、僕が気にすることは何もないんです。それに結果として、この耳のおかげでアスカイ先生に出会えましたし、こうして大きなお屋敷にも住まわせてもらっています。人間、何がどう転ぶか分からないものです」


 ユーハンがどこか清々しささえ感じる笑顔を浮かべながら、キッパリと答えた。


「……君が年齢の割に大人びている理由がわかったよ。くぐってきた修羅場の数が違う」

「ええ、苦労の数なら誰でも負けませんよ。あ……お茶がなくなってしまいましたね。今淹れて……」

「――大丈夫。その必要はないよ、シュウ」

「え?」

「!?」


 聞き慣れた、だが同時に懐かしい声が聞こえ、反射的にハオランが声のする方へ顔を向けた。


「はははは、本当にいたよ……」


 そして、その姿を確認して安心する。


「待たせたね、レイ。久しぶり、一年ぶりかな?」


 住む場所や立場、状況が変わろうと、その男自身は全く、一年前のその日から何も変わっていなかったからだ。


「こんなに早く再開できるとは思わなかった。息災そうでなによりだよ」


 アスカイ・サトルが、淹れたてのお茶を持って、そこに立っていた。


※1 暴君として有名な六代目ユレイシア王『アーメッド・イーシェン・フォム・ユレイシア』によって制定された、現代では悪法の代名詞となっている法律。法律の歴史を学んだ者なら知らない人間はいないと言っていいほど有名な悪法であり、その内容は要約すると『生まれた障害者を産んだ者に処分させる』法律である。アーメッドは当時としても、かなり偏った思想の持ち主であり、障害を持った人間を『王国民の血を劣化させる劣等分子』と位置づけ、それを排除することで国民の質を高められると考えていた。現代から見ればあまりにも荒唐無稽な話だが、当時、この考えは王国内で広く貴族層に支持された。この法律の最大の問題点は、その適用範囲が非常に曖昧、かつ広範囲に設定されていた事で、視覚、聴覚、知的障害、手足の奇形などは勿論のこと、迷信深かった当時の考えや、宗教思想が合わさった結果、アルビノや先天性の病気、果ては双生児までもがその対象となり、多くの子供たちが成人を前に命を散らすことになった。後世において、この法律の施行という一点だけで、アーメッドを『最悪の王』と評価する人間がいることからも、その悲惨さが窺える

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