【ユレイシア貴族連合王国】城主(9)
「おー随分と立派な家に住んでいるんだな」
案内されたのは村の中心辺りに建っている、一際目立つ巨大な屋敷だ。
「ここまで綺麗にするのは大変だったみたいですよ。今でこそ立派な屋敷ですが、最初に見つけた時は、それはとんでもない荒れ様だったそうなので」
「どうぞ」と、ユーハンが門の扉を開けてハオロンを屋敷に迎え入れる。
「立派な庭園……と思ったら、やっぱりアスカイの家だな」
庭園の隅の方にひっそりとある菜園を見つけて、ハオランが苦笑した。
「村長が泥まみれじゃ格好がつかない、といつも言っているんですけどね。先生、やめてくれなくて」
と、ユーハンも苦笑する。
「こちらの部屋でお待ち下さい」
そう言って、ユーハンが客間ではなく、それより小さい部屋にハオランを案内した。
「申し訳ありません。本来であれば客間にお通ししたいのですが、今はひどく散らかっておりまして。何分急な来訪だったので、準備も出来ず……」
「いいよ、突然押しかけたのはこっちだしね」
小さいと言っても案内された部屋は、話し合いをするだけなら十分過ぎる程に広い。椅子や机も複数あり、細かい所まで掃除も行き届いている。
少なくとも、普段ハオランが商談を行う時に借りる場よりも、ずっと上等な場所だった。
「飲み物を持って参ります、少々お待ち下さい」
ユーハンが部屋を出ていき、ハオラン一人部屋に残される。
「なんだ、これは?」
ハオランが部屋を見回していると、別の机の上に本のようなものと、木片が置いてあるのを見つけた。ハオランが机の上の本を手に取り、中身を確認する。
中には名前や性別、生年月日と思われる情報が記載されている。
「変な本だな、一体何に……」
「『住民票』と言うらしいですよ?」
「うわっ!?」
いつの間にか、飲み物を持ったユーハンが背後に立っていた。
「村民の管理を効率的に行うために、住んでいる人の情報をまとめたものです。そこに登録された人だけに、村民札が発行されるんです」
ユーハンがポケットから、独特の紋様が描かれた木札を取り出した。
「な、なるほど……」
別に邪なことをしようとしていたわけではないが、冷や汗が流れる。どうも、この少年は度々気配を消すので心臓に悪い。
「どうぞ」
ユーハンが机の上にお茶を置く。
「ああ、ありがとう」
「もう少しで授業が終わると思いますので、後少々お待ち下さい」
「ああ、いいよ別に。時間が押しているわけでもないしね」
ハオランも机に座り、入れられたお茶に口をつける。
「いい部屋だね。細かい所まで手入れも行き届いているし、無駄な物も少ない」
「ありがとうございます。普段から掃除をしていた甲斐がありました」
「……ん?普段から?」
「はい、ここは私の部屋ですので」
「ええっ!?」
予想外の返答が返ってきて、ハオランが驚愕する。
「厳密には仕事場、兼、寝室といった感じですが」
「実は先程の住民票の管理も僕がやっているんです」とユーハンが少し得意げな顔をする。
「住み込みで働いていたのか……ますます驚いた。ご両親とかは心配しないのか……あっ」
そう言い掛けて、ハオランが慌てて口を閉じた。
「しないですね。僕には両親がいませんので」
勿論、手遅れだった。
そもそも、この歳の少年が他人の家で住み込みで働いている時点で、何かしらの事情を抱えているのは明白なことだ。迂闊に聞くべき話題ではなかった。
「……すまない、迂闊だった」
ハオランが頭を下げて謝罪する。
「別にいいですよ。僕は全く気にしていませんし。この話題になると、皆そんな感じになるんですよ。いい加減うんざりしているぐらいです」
そう言ってユーハンが苦笑する。どうやら、本当に気にしていないらしい。
「好奇心旺盛なレイ様には、特別にお見せしましょう。これが私に両親がいない理由です」
さらりと、ユーハンが髪をかきあげ、隠れていた自分の耳をハオランに見せる。
「なんと……っ!」
そこには、耳たぶの上部外側がとがった形になっている、見慣れぬ形状をした耳があった。
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