第9話 踏んだら歌にしてやる
「戦い方を、変えたいんだ」
宿の部屋で、俺は床に炭で図を描いた。
丸が四つ。
俺たち四人だ。
「今の俺たちって、魔物が出たら、それぞれ勝手に戦ってるだろ」
「勝手にって言うなよ」
ニックが口をとがらせた。
「でも、そうだろ。ガルドが前で盾を構えて、ニックが横から斬りかかって、ミーナが後ろで回復して。俺は、戦いが始まる前に罠を置けたら置く。間に合わなかったら、棒で殴る」
「……まあ、そうだな」
「それで、倒すのに時間がかかる。だから、俺たちは並なんだ」
誰も言い返さなかった。
みんな、分かっていたことだからだ。
「だから、こうしたい」
俺は、丸の一つから、矢印を引いた。
「ガルドが、魔物の注意を引きつける。ガルドの【引きつけ】は、魔物に自分を狙わせるスキルだろ」
「……ああ」
「引きつけたまま、魔物を罠のある場所まで連れてきてほしい」
次の矢印。
「罠の場所に来たら、俺が罠で止める。転ばせるか、刺すか、足を止める。そこに、ニックが急所を狙って止めを刺す」
「オレが決めるのか!」
「ニックの【斥候術】なら、魔物の急所も見つけられる。罠で止まってる相手なら、外さないだろ」
最後の丸。
「ミーナは、後ろで全体を見てほしい。危なくなったら回復。それと、薬草術で作れる薬で、魔物の足を鈍らせたりできたら、もっといい」
「できるよ。痺れ薬なら、作ったことある」
ミーナが、少し嬉しそうにうなずいた。
(要するに、タンクが引っ張って、俺がデバフで止めて、ニックがアタッカーで、ミーナがヒーラー兼サポートだな)
前世の言葉で言えば、そういうことだ。
もちろん、口には出さない。言っても誰にも通じない。
ガルドが、腕を組んだまま、図をじっと見ていた。
「……俺が、魔物を連れてくるのか」
「ガルドにしか、できない」
盾士は、守りは固いが、攻撃の手段がほとんどない。
だから「倒すのに時間がかかる職」と言われる。
でも、敵を引きつけて、決まった場所まで運ぶ役なら、話は別だ。
倒さなくていい。
ただ、倒れずに、連れてくればいい。
ガルドは、しばらく黙っていた。
「……やってみる」
それが答えだった。
そして、翌日の二層。
結果から言うと、一回目は、ひどかった。
「ガルド、こっちだ! この角まで!」
「……っ」
ガルドがゴブリン三匹を引きつけて、通路を走ってくる。
そこまでは、よかった。
問題は、速すぎたことだ。
ガルドは、俺が罠を置き終わる前に、角に着いてしまった。
罠は、まだ一つしか置けていない。
ゴブリン三匹のうち、罠にかかったのは一匹だけ。
残りの二匹は、そのままガルドに飛びかかった。
「ニック、今!」
「どっちだよ!?」
ニックが、止まっていないゴブリンに斬りかかる。
空振り。
その間に、ミーナの投げた痺れ薬の瓶が、ゴブリンの頭に命中した。
中身は、なぜかガルドにもかかった。
「……っ、しびれる」
「ごめん兄さん!」
結局、三匹を倒すのに、いつもより時間がかかった。
「……おかしいな」
俺は、頭をかいた。
図の上では、完璧だったのに。
(そりゃそうか。初回から完璧なパーティなんて、ゲームでもいない)
連携は、練習しないと噛み合わない。
前世で、知らない人とパーティを組んだ時もそうだった。
二回目。
今度は、合図を決めた。
罠を置き終わったら、俺が手を上げる。
それを見てから、ガルドが魔物を連れてくる。
「ガルドは、ゆっくりでいい。追いつかれない程度に、ゆっくり」
「……分かった」
罠の場所も、先に全員に伝えておく。
「この角の、手前の床に滑る床。その奥に槍。だから、ニックは右側から回り込んでくれ。左は罠があるから、踏むなよ」
「分かってるって」
三匹のゴブリンを、ガルドが連れてくる。
今度は、ゆっくりと。
ゴブリンが、滑る床に足を取られた。
転んだところに、槍が突き出す。
一匹目、仕留めた。
「ニック、右から!」
「おう!」
ニックが右から回り込んで――。
その足が、左に一歩、ずれた。
「ニック! そこ、槍!」
「うおっ!?」
ニックは、罠の真上で、片足立ちのまま固まった。
あと指一本分、体重をかけていたら、足元から槍が出ていた。
「……あぶねえ」
「だから左は踏むなって言っただろ!」
「ゴブリン避けてたら、つい!」
ニックが体勢を立て直して、残りのゴブリンの首筋に短剣を突き立てた。
最後の一匹は、ガルドが盾で押さえ込んでいる間に、ミーナの痺れ薬で動きを止めて、ニックが仕留めた。
一回目より、ずっと早かった。
「……っはあ、はあ」
ニックが、その場にへたり込んだ。
「ユー坊の罠、味方にも刺さるのかよ……」
「刺さる。罠は、敵も味方も区別しない」
「先に言えよそういうことは!」
「言った。左は踏むなって」
「言ったけど!」
ニックは、がばっと顔を上げて、俺を指さした。
「いいか、ユー坊。もしオレがお前の罠を踏んで死んだら、お前のことを歌にしてやるからな。『味方を串刺しにした罠師』って題で、王国中に広めてやる」
「死んだら歌えないだろ」
「化けて出て歌う!」
ミーナが、こらえきれずに吹き出した。
ガルドの肩も、小さく震えていた。笑っているらしい。
罠は、敵も味方も区別しない。
それは、この戦い方の一番の弱点だ。
(罠の場所を、ニックが見て分かればいいんだけどな)
ふと、思った。
ニックの【斥候術】には、罠を見つける力がある。
ダンジョンの罠が見えるなら、俺の罠だって、見えるんじゃないか?
「ニック。お前、今、俺の罠、見えてたか?」
「は? ……いや、見てなかった。ゴブリンしか見てなかった」
「次、ちゃんと見てみてくれ」
ニックは怪訝な顔をしたが、うなずいた。
その時。
ニックの顔が、さっと引き締まった。
「……待て。何か来る」
【早耳】が、また何かを拾ったらしい。
「足音が多い。軽くて、速い。……牙鼠だ。五匹、いや、六匹」
六匹。
今まで、俺たちが一度に相手をしたことのない数だった。
ガルドが、無言で盾を構え直した。
そして、俺を見た。
逃げるか。
それとも、やるか。
その目が、そう聞いていた。
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