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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第9話 踏んだら歌にしてやる

「戦い方を、変えたいんだ」


宿の部屋で、俺は床に炭で図を描いた。


丸が四つ。

俺たち四人だ。


「今の俺たちって、魔物が出たら、それぞれ勝手に戦ってるだろ」

「勝手にって言うなよ」


ニックが口をとがらせた。


「でも、そうだろ。ガルドが前で盾を構えて、ニックが横から斬りかかって、ミーナが後ろで回復して。俺は、戦いが始まる前に罠を置けたら置く。間に合わなかったら、棒で殴る」

「……まあ、そうだな」

「それで、倒すのに時間がかかる。だから、俺たちは並なんだ」


誰も言い返さなかった。

みんな、分かっていたことだからだ。


「だから、こうしたい」


俺は、丸の一つから、矢印を引いた。


「ガルドが、魔物の注意を引きつける。ガルドの【引きつけ】は、魔物に自分を狙わせるスキルだろ」

「……ああ」

「引きつけたまま、魔物を罠のある場所まで連れてきてほしい」


次の矢印。


「罠の場所に来たら、俺が罠で止める。転ばせるか、刺すか、足を止める。そこに、ニックが急所を狙って止めを刺す」

「オレが決めるのか!」

「ニックの【斥候術】なら、魔物の急所も見つけられる。罠で止まってる相手なら、外さないだろ」


最後の丸。


「ミーナは、後ろで全体を見てほしい。危なくなったら回復。それと、薬草術で作れる薬で、魔物の足を鈍らせたりできたら、もっといい」

「できるよ。痺れ薬なら、作ったことある」


ミーナが、少し嬉しそうにうなずいた。


(要するに、タンクが引っ張って、俺がデバフで止めて、ニックがアタッカーで、ミーナがヒーラー兼サポートだな)


前世の言葉で言えば、そういうことだ。

もちろん、口には出さない。言っても誰にも通じない。


ガルドが、腕を組んだまま、図をじっと見ていた。


「……俺が、魔物を連れてくるのか」

「ガルドにしか、できない」


盾士は、守りは固いが、攻撃の手段がほとんどない。

だから「倒すのに時間がかかる職」と言われる。


でも、敵を引きつけて、決まった場所まで運ぶ役なら、話は別だ。

倒さなくていい。

ただ、倒れずに、連れてくればいい。


ガルドは、しばらく黙っていた。


「……やってみる」


それが答えだった。




そして、翌日の二層。


結果から言うと、一回目は、ひどかった。


「ガルド、こっちだ! この角まで!」

「……っ」


ガルドがゴブリン三匹を引きつけて、通路を走ってくる。

そこまでは、よかった。


問題は、速すぎたことだ。


ガルドは、俺が罠を置き終わる前に、角に着いてしまった。

罠は、まだ一つしか置けていない。


ゴブリン三匹のうち、罠にかかったのは一匹だけ。

残りの二匹は、そのままガルドに飛びかかった。


「ニック、今!」

「どっちだよ!?」


ニックが、止まっていないゴブリンに斬りかかる。

空振り。


その間に、ミーナの投げた痺れ薬の瓶が、ゴブリンの頭に命中した。

中身は、なぜかガルドにもかかった。


「……っ、しびれる」

「ごめん兄さん!」


結局、三匹を倒すのに、いつもより時間がかかった。


「……おかしいな」


俺は、頭をかいた。

図の上では、完璧だったのに。


(そりゃそうか。初回から完璧なパーティなんて、ゲームでもいない)


連携は、練習しないと噛み合わない。

前世で、知らない人とパーティを組んだ時もそうだった。




二回目。


今度は、合図を決めた。


罠を置き終わったら、俺が手を上げる。

それを見てから、ガルドが魔物を連れてくる。


「ガルドは、ゆっくりでいい。追いつかれない程度に、ゆっくり」

「……分かった」


罠の場所も、先に全員に伝えておく。


「この角の、手前の床に滑る床。その奥に槍。だから、ニックは右側から回り込んでくれ。左は罠があるから、踏むなよ」

「分かってるって」


三匹のゴブリンを、ガルドが連れてくる。

今度は、ゆっくりと。


ゴブリンが、滑る床に足を取られた。

転んだところに、槍が突き出す。


一匹目、仕留めた。


「ニック、右から!」

「おう!」


ニックが右から回り込んで――。


その足が、左に一歩、ずれた。


「ニック! そこ、槍!」

「うおっ!?」


ニックは、罠の真上で、片足立ちのまま固まった。


あと指一本分、体重をかけていたら、足元から槍が出ていた。


「……あぶねえ」

「だから左は踏むなって言っただろ!」

「ゴブリン避けてたら、つい!」


ニックが体勢を立て直して、残りのゴブリンの首筋に短剣を突き立てた。

最後の一匹は、ガルドが盾で押さえ込んでいる間に、ミーナの痺れ薬で動きを止めて、ニックが仕留めた。


一回目より、ずっと早かった。


「……っはあ、はあ」


ニックが、その場にへたり込んだ。


「ユー坊の罠、味方にも刺さるのかよ……」

「刺さる。罠は、敵も味方も区別しない」

「先に言えよそういうことは!」

「言った。左は踏むなって」

「言ったけど!」


ニックは、がばっと顔を上げて、俺を指さした。


「いいか、ユー坊。もしオレがお前の罠を踏んで死んだら、お前のことを歌にしてやるからな。『味方を串刺しにした罠師』って題で、王国中に広めてやる」

「死んだら歌えないだろ」

「化けて出て歌う!」


ミーナが、こらえきれずに吹き出した。

ガルドの肩も、小さく震えていた。笑っているらしい。


罠は、敵も味方も区別しない。

それは、この戦い方の一番の弱点だ。


(罠の場所を、ニックが見て分かればいいんだけどな)


ふと、思った。


ニックの【斥候術】には、罠を見つける力がある。

ダンジョンの罠が見えるなら、俺の罠だって、見えるんじゃないか?


「ニック。お前、今、俺の罠、見えてたか?」

「は? ……いや、見てなかった。ゴブリンしか見てなかった」

「次、ちゃんと見てみてくれ」


ニックは怪訝な顔をしたが、うなずいた。


その時。

ニックの顔が、さっと引き締まった。


「……待て。何か来る」


【早耳】が、また何かを拾ったらしい。


「足音が多い。軽くて、速い。……牙鼠だ。五匹、いや、六匹」


六匹。

今まで、俺たちが一度に相手をしたことのない数だった。


ガルドが、無言で盾を構え直した。

そして、俺を見た。


逃げるか。

それとも、やるか。


その目が、そう聞いていた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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