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不遇職【罠師】の二周目 ~前世で見た罠が全部使えるので、底辺パーティでダンジョン踏破を目指します~  作者: ずぼん
第一部 迷宮都市リーデン編

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第10話 並のパーティが、並じゃなくなった日

「やろう」


俺は言った。


自分でも、少し驚いた。

少し前の俺なら、六匹と聞いた時点で逃げていたと思う。


でも今は、頭の中で、もう形が見えていた。


「ただし、条件がある。危なくなったら、すぐ撤退。そのための罠も、先に置いておく」


ガルドが、短くうなずいた。


「ニック、牙鼠が来るまで、どれくらいだ?」

「この速さなら……百数えるくらい」

「十分だ」


俺は、通路を見回した。


ここは二層の、まっすぐな一本道だ。

幅は、大人が二人並んで歩けるくらい。

その先で、道は左に曲がって、少し細くなる。


(牙鼠は、まっすぐ突っ込んでくる。速いけど、曲がるのが下手だ)


一週間前、この二層で、一匹に殺されかけた相手だ。

動きは、嫌というほど覚えている。


「ガルドは、曲がり角の先で待っててくれ。牙鼠を【引きつけ】で呼んで、そこで止める。絶対に後ろに下がらないでほしい」

「……【不動】を使う」


ガルドの【不動】は、その場から押し動かされなくなるスキルだ。

盾士の地味なスキルの一つで、「動けない盾なんて的になるだけだ」と、よく笑われていた。


でも今は、それが一番欲しい。


「ミーナは、ガルドの少し後ろ。痺れ薬を、曲がり角に投げてくれ。今度は、ガルドに当てないように」

「……わ、分かってるってば」

「ニックは、曲がり角の手前の壁際。止まった牙鼠から、順番に仕留めてくれ」

「おう」


それから、俺は自分の仕事にかかった。


一本道の床に、【滑る床】を三か所。

曲がり角の手前に、【地穿ちの槍】を二本。

そして、俺たちの逃げ道になる通路の入口に、もう一本。


MP:13/34


ぎりぎりだ。

でも、昨日までより、MPの戻りが確かに早い。

【魔力回復】が、ちゃんと仕事をしている。


「ニック。罠、見えるか?」


ニックが目を細めて、通路を見渡した。


「……見える」


ニックの声が、少しだけ驚いていた。


「ダンジョンの罠みたいに、うっすら光って見える。滑る床が三つ、槍が二つ……あと、後ろのほうに一つ」

「全部合ってる」

「マジかよ。これなら、踏まねえぞ」


ニックが、にやりと笑った。


その時、通路の向こうから、乾いた爪の音が聞こえてきた。


かしゃ、かしゃ、かしゃかしゃかしゃ――。


来た。




「――こっちだ」


曲がり角の先で、ガルドが盾を打ち鳴らした。


【引きつけ】。


六匹の牙鼠の、赤い目が、一斉にガルドのほうを向いた。


一直線に、突っ込んでくる。


先頭の一匹が、滑る床を踏んだ。

足がすべって、横倒しになる。

そこへ、後ろの牙鼠がつっかかって、二匹が団子になって転がった。


「一つ目!」


三匹目と四匹目が、仲間を飛び越えて走る。

二つ目の滑る床。

今度は、着地した瞬間に足を取られて、壁に激突した。


残りの二匹は、滑る床を避けて、壁際を走ってきた。


(そこを避けるのは、知ってた)


壁際の先には、槍がある。


床から突き出した槍が、二匹まとめて貫いた。


「ミーナ!」

「えいっ!」


ミーナの投げた瓶が、曲がり角の手前で割れた。

緑色の霧が広がって、転がっていた牙鼠たちの動きが、目に見えて鈍くなる。


今度は、ガルドには一滴もかかっていない。


「ニック、左の二匹!」

「見えてる!」


ニックが、霧の端を走り抜けた。

罠の光を、ひょいひょいとまたぎながら。


もがいている牙鼠の首筋に、短剣を一突き。

返す手で、もう一匹。


「ユー坊、一匹そっち行った!」


痺れ薬の霧を抜けた一匹が、曲がり角を曲がりきれずに、こっちへ跳ねてきた。


俺は、その鼻先の空中に、手をかざした。


「【地穿ちの槍】」


空中から突き出た槍に、牙鼠は自分から飛び込んだ。


最後の一匹は、ガルドの盾に体当たりして、跳ね返された。

【不動】のガルドは、一歩も下がらない。


よろめいたところに、ニックの短剣が突き立った。


六匹目が、動かなくなった。




静かになった通路で、俺たちは、しばらく誰も口をきかなかった。


体の奥に、温かいものが、どっと流れ込んでくる。

俺だけじゃない。全員、近くにいたからだ。


ミーナが、自分の手のひらを見つめていた。

ガルドが、盾を下ろした。

ニックが、短剣についた血を払った。


誰も、怪我をしていない。

六匹の牙鼠を相手にして、かすり傷ひとつない。


「……なあ」


最初に口を開いたのは、ニックだった。


「オレたち、今……ちょっと強くなかった?」


一瞬の沈黙。


それから、ミーナが吹き出した。

ガルドの口の端が、ほんの少しだけ上がった。

ニックが「なんだよ、笑うなよ!」と言いながら、一番大きな声で笑っていた。


俺も、笑っていた。


罠師、盾士、斥候、薬草師。

「決め手がない」と言われてきた四人が、組み合わせただけで、ここまでできる。


(並のパーティなんかじゃ、なかったんだ)


使い方を、知らなかっただけだ。




その日の夕方。


六匹分の牙鼠の素材を抱えて、俺たちは冒険者ギルドに戻った。


ニックは、扉を開ける前から上機嫌だった。


「なあなあ、今日のこと歌にしようぜ。『六匹の牙鼠と、動かない盾』とかどうだ?」

「盾がかわいそうでしょ」


ギルドの中は、夕方の報告に来た冒険者たちでにぎわっていた。


その一角で、ひときわ目立つ一団がいた。


真新しい銀の鎧。

磨き上げられた剣と杖と弓。

冒険者になって一年とは思えない、立派な装備の四人組。


同期のパーティ、「白銀の翼」だ。


その中心にいる、すらりと背の高い少年が、ゆっくりとこっちを振り返った。

金色の髪に、青い目。絵に描いたように整った顔立ちだ。


セドリック・ヴァレンティ。

貴族の三男で、職業は【剣士】。

冒険者の中でも人気の職ばかりを集めたパーティの、リーダーだ。


セドリックは、牙鼠の素材を抱えた俺たちを見て。

それから、俺の腰の、ただの樫の棒を見て。


ふっと、鼻で笑った。


その目は、はっきりとこう言っていた。


――まだ、そんなところをうろうろしているのか、と。


お読みいただき、ありがとうございます。

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